森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ

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一章

アヤラセの過去

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結局、あの後アヤラセは三回もリキの中に精を放った。三回目にはほとんどリキが意識を失いそうになっていた。アヤラセは初めて精を受け入れ、確かに甘い快感を覚えたが、やはり自分はリキのあの狭い孔を犯す方が好きだと思った。そのせいでついつい激しい交わりになってしまった。その三度の交わりの後も、玉はやはり光っていたようだった。

翌朝、気怠そうにしているリキに謝りながら身支度をして宿を出た。ビンダはツトマに向かうという言葉を聞いて眉をひそめた。
「あんまり今、ツトマに行くのは薦めないけどねえ‥」
「どうしてだ?」
そう尋ねたアヤラセの耳にビンダは口を寄せ、小さな声で囁いた。
「聖タイカ合国から、あの街に何人もリキシャが入り込んでいるらしいんだよ。聖タイカだって異生物の発生がないわけでもないだろうに、何が目的でツトマにヒトを送っているのか、まだおれたちも掴んでないんだ。これから厄介なことが起こらなきゃいいんだけどね‥。」
ビンダの話を聞いて、考え込む。今ゴリキ統治国と聖タイカ合国の間にこれと言った問題はないはずだ。交易も通常通りできているはずだし、関税や盗賊でもめたという話もアヤラセの耳には届いていない。考えられるとしたら、異生物からとれる原料の奪取くらいだろうが、そのためだけにリキシャを潜り込ませるとも思えない。
「…確かによくわからない話だな…。まあ、気をつけておくよ。ありがとうビンダ」
リキも横から礼を言った。
「世話になった、ビンダ殿、飯は旨かったぞ!」
ビンダはにやりと笑ってリキの頭をガシガシとなでた。
「いいんだよ、子どもは気を使わないでさ。お前さんは正直でいなよ。」
「?相、わかった」
二人は奥にいるシンゲルにも目礼をして宿を後にした。

これからはツトマ行きだ。ツトマはゴリキ統治国南部で最大の都市なので、機工車も大きく、三両編成になっている。カンガからは一日半かかるので、一両は丸々寝台車となっており、二人はそちらに乗り込んだ。横になりながら早く移動できる、ということはリキの理解の外側の事だったので、しばらくは寝台席をずっとあちこち検分していた。
機工車の中でアン・ランの籠の中のものを食べた。車内を回る物売りからパンを買い、アン・ランお手製の肉の甘辛煮を挟んで食べる。その美味しさにアン・ランやヨーン、ダルエダらの事も思い出してリキは胸にこみあげるものを感じたが、パンとともに呑みこんでおいた。
うつむき加減で頭巾をかぶり、パンをかじるリキをアヤラセはずっと見つめていた。

ツトマに行くのは正しいのだろうか。むろん、ハリ玉を見過ごすというのは国民としてあってはならぬことだと解っているし、放置してそれがばれてしまえば、一番困るのはリキだ。髪色も今はずっと隠しているが、一生このままという訳にもいかないだろう。記録がなければ、色々と困る面も出てくるのだから、結局どこかで国の機関には届け出ねばならないのだ。
だが。
(ライセン…)

ライセンはアヤラセより四つ上の上子きょうだいだ。ランムイから生まれたのではなく、伴侶であるヤルルアから生まれたのだが上子きょうだいには違いない。この世界では、血の繋がり等という考えもないのできょうだいであってもお互いが愛し合っていれば伴侶になっても構わない。珍しくはあるが。
ライセンは、アヤラセがまだ二歳くらいの頃からずっと、この子を伴侶にすると公言してきていた。ともに同じ家に住んでいた時には、かいがいしくアヤラセの世話をして、親にもなかなかアヤラセを触らせないほどだった。ここまで執着の強い様子は珍しい事だったので、心配したヤルルアはアヤラセのためにもと、無理矢理にでもライセンからアヤラセを引き離して別の家に住むことを決めた。それはアヤラセが十三歳の時だった。アヤラセも、ライセンの異常性には薄々気づき始めており、危機感を持っていたところだったのでヤルルアの心配りはありがたかった。

だが、アヤラセたちが姿を消した日ライセンは荒れた。ランムイを問いただし、答えが得られないとなると狂ったように二人を探し始めた。自分たちが住んでいた統都アキツマにはいないということがわかると、解析師仲間や仕事で知り合った人々などの伝手を使って執念深く探し続けた。
一年かかってアヤラセたちが南部の都市、ツトマにいることを突き止めたライセンは確実にアヤラセを手に入れようと遊郭用の薬パルーラを入手、自分の解析の力を使いより力を強めたものを作り上げた。ヤルルアがいない時を見計らってアヤラセのもとへ行き、優しい言葉をかけて詫びた。言葉を尽くす上子きょうだいにほだされたアヤラセは、素直にその時供されたお茶を飲んでしまった。
(…莫迦だったな、俺)

パルーラは、身体を売り買いする者たちの間で飲まれる薬だ。この世界では情愛のない性交では快楽を得られない。そのために、相手を好きなヒト(好きだったヒト)と思わせる薬を飲むのだ。ライセンが改良したパルーラはその幻覚を強く引き起こす作用を持ったものだった。
茫洋とするアヤラセを組み敷いて身体中に口づけ愛撫し、今にも肉欲を突き立てられようとした時、知らせを聞いたヤルルアが駆け付けライセンを殴り飛ばして間一髪、アヤラセは救われた。ヤルルアは「わが腹から出てきた子がこのようなクズ畜生に成り下がっているとは!」と激怒し、退異剣でそのまま薙ぎ払わんばかりの勢いだった。一拍遅れて駆け付けた退異師仲間が五人がかりでヤルルアを抑え込み、何とか流血沙汰は免れた。

アヤラセはそのあと二十日ほど意識が朦朧としたままだった。目覚めた時に、ヤルルアが自らライセンを告発したことによって、禁錮三年、ヨーリキ抑制腕輪の十年装着という最速判決がおりたということを知った。

ライセンにされた行為によって、アヤラセは深く傷つきヒトを信じられなくなった。伴侶に対しての不信感も芽生え、いつかまたライセンが自分を襲ってくるのではないかと恐怖に震えた。
そんなアヤラセに寄り添ってくれたのはヤルルアだった。退異師として生きる術を教え、さらに癒す方が合っているかもしれないとマリキシャの医師を紹介してくれ、学べるようにしてくれた。アヤラセは一人でも生きていけるよう、必死に学んだ。ツトマで退異師としてしばらく稼いだ後、ライセンと二度と会わずに済むよう辺境を希望して医師連会にタリエ村を世話してもらった。そうまでして徹底的にライセンと関わることのないように生きてきた。

だが、リキのためにランムイと連絡を取ってしまった。ランムイはそれほどライセンのしたことに忌避感を持っていない。ひょっとしたらランムイからライセンに知らせが行くかもしれない。ヤルルアが目を配ってくれているとは思うが、ヤルルアに連絡する手段がなかった。無駄に権力のあるランムイにしかすぐに連絡は取れなかったのだ。当時ランムイは、ライセンのしたことを「でも愛しているからのことだからね」と言ってアヤラセを絶望させた。ランムイのヤルルアに対する執着とてライセンに引けを取らないくらいにある。そう考えれば結局あの二人は似た者親子なのかもしれない。だからこそ理解もできないし、油断がならない。

信頼できるムリキシャを紹介してもらったこと自体は後悔していなかった。ランムイはそういうところで手を抜くヒトではないから、ナガエという人物は信頼できるだろう。芯のところで硬く、冷たくなっていた自分の心を解かしてくれたリキのためなら、自分の不快感などは耐えられる。もう、十四のひ弱な子どもではないのだ。
だが、リキに何か手を出されたりしたら。アヤラセがリキを愛してしまったことは、二人を見ればすぐにわかってしまうことだろう。それを見たライセンがリキに何をするか、想像するだけで恐ろしかった。絶対にリキのそばから離れてはならない。ランムイに、ムリキシャと関わっていると知られたからには、いずれどこかでライセンに知られる覚悟をしておかねばならない。
ツトマにさえ着けば、ヤルルアへ直接連絡できる手立てもある。ツトマに到着したらまず、いの一番にヤルルアに連絡をして相談しよう。
「アヤラセ?」

アヤラセははっとして目の前のリキを見た。不安げな顔でリキがこちらを見上げている。随分考え事をしてしまっていたようだ。
「何?リキ、ごめん、ぼーっとしてて」
「いや、…何か心配事か?」
「うーん、まあ心配はあるけど、大丈夫だよ」
何もない、とは言えなかった。この後、色々とリキには迷惑をかけるかもしれないのだ。だが、機工車のあれこれに目を輝かせてみていたリキの顔を、今はこれ以上曇らせたくない。アヤラセはリキの頬に手を当て、そっとなでてから言った。
「隣の車両はねえ、二階建てになってるんだ。見に行きたい?」
「なんと!勝手に入ってもよいのか?」
「うん、座らなければ、通り抜けるのはいいんだよ。じゃあ、行こうか」
そう言って立ち上がり、リキと手を繋いだ。



ツトマに着いたのは夕方よりも少し早いくらいの時間だった。途中、植物型の異生物が発生し、退異師への連絡や迂回路を通ったことによって少し遅れたのだ。
機工車を降りると、まっすぐツトマ退異会へ向かった。そこに行けば、ヤルルア本人と連絡が取れるはずだ。石組みのどっしりとした四階建ての建物は、ヒトや馬が行きかい、活気に満ちていた。外で馬を引いていたヒトが、アヤラセを目にとめ、声をかけてきた。
「アヤラセか⁈久しいな!」
リキはそのヒトよりも馬の方に目が釘付けになった。
脚が、六本ある‥。リキの知っている軍馬より、二回りほども大きいように見えた。大人なら三人は乗れるのではないか。そして耳が長い。はじめ角のように見えて驚いたが、よく見れば耳の形をしていた。馬という言葉だけで同じものを思い浮かべていたがやはり随分と違うものだと、またリキはこの世界の当たり前が違うことを認識した。
「久しぶり、ジョーイ。速信鳥を使いたいんだ。イレンはいる?」
ジョーイと呼ばれたヒトは、ゆたかな白髪を編み込んで、筋骨隆々としたヒトだった。背もかなり大きく、この者ならこの世界の馬も軽くあしらえような、とリキはぼんやり思っていた。
「ちょうど戻ってきたところだ。ひょっとしてお前が乗ってた機工車か?異生物発生の連絡をくれたのは」
「ああ、そう、たまたま乗ってたからね」
「おかげで現状把握がすぐできて助かった!多分、礼が出るから受付のサミに言っとけよ」
「ありがとう」

アヤラセはそう言って建物の中に入っていった。
中は少し薄暗かったが、かなり広く多くのヒトでごった返していた。いくつかのカウンターがあり、その横に低い壁で囲われた空間も十個ほどある。六人ほどが座れるようになっている空間は、何席か使われていて、話はどこの席も白熱しているようだった。
別の場所では丸テーブルがいくつか置かれ、何人かが飲み食いをしている。その奥に大きな壁があり、そこにたくさんの貼り紙がされていた。何人かがその貼り紙を検分している様子も見える。
「リキ、ここは前に言った退異師が集まるところだ。ここで連絡を受けて討伐に行ったり、よその討伐情報を集めたりする。あそこでデカい声で話してるのは主に商人だな。異生物から出た素材の取引なんかしてるんだろう」
そう言うと、アヤラセは奥から二番目のカウンターに近づいて話しかけた。

「ヤルルアに連絡を取りたい。イレンはいるかい?」
「はいおります、って、アヤラセ!久しぶりだなあ!また退異師に戻るのか⁉」
「チャッコ、久しぶり。イレンに会いたいんだ」
チャッコと呼ばれた貧相なヒトは、慌てて何かの機械を取り上げた。
「すまん、すぐ呼ぶから!‥‥イレン、アヤラセが来てる。上にあげていいか?…」
機械を下ろし、チャッコは階段の方へ首をしゃくった。
「いつもの部屋にいるよ」
「ありがとう」
リキと手を繋いで人々の間をすり抜け、アヤラセは階段を上がった。二階の廊下を歩いて突き当りの扉を軽く叩く。「入って!」という高い声が聞こえた。

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