【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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60 カルカロア国王第四子 ティルン

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不思議な見たこともない形の楽器が、フォーッという大きな音を大広間に響かせる。それを合図に大広間の中心に設けられた舞台にぞろぞろとヒトが集まってきた。

レイリキシャ、白髪黄色目のフェンドラ領主、アーセル。
同じくレイリキシャのルオタン領主、ハオル。年のころは三十歳くらいに見え、ややほっそりした体つきだ。
また同じくレイリキシャのダーマス領主、ガルン。年齢はあまりアーセルと変わらないようだ。ややがっしりとした体つきで、顔立ちは女性のように柔らかい。が、その黄色い目は鋭く光っている。
マリキシャ、エンセラ領主、ユニエ。豊かな波打つ黒髪を持った美しいヒトである。マヒロから見れば「ナイスバディ美女」のような見た目であった。
同じくマリキシャ、ニュエレン領主、ダンゾ。年齢は三十代半ばほどに見える。どの領主よりもがっしりとした体つきだ。背丈もハルタカと同じくらいに見えた。
(あいつが私をさらおうとしたやつか‥)
そう思えば、比較的整っている顔も凶悪に見えてくる。
最後の一人は唯一のシンリキシャ、アスレーン領主のシュラン。輝く金髪を高く結い上げ。マーメイドラインの白いドレスが映えている。年齢は二十歳前後に見えた。

全員が外側を向いた状態で円になって舞台に並ぶ。そこに、カルカロア国王がゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「『国王選抜』に参加するものは、その拳をあげよ。辞退するものはそのまま沈黙を守るがいい」
国王がそう告げると、六人全員が力強く拳を天に突き上げた。
「心と行いともに正しく選抜に臨み、その力を発揮することを誓え!」
国王の言葉に、六人の領主はこぶしを突き上げたまま「おお!!」と応え、大広間を埋め尽くす人々は拍手喝采を浴びせた。
国王は声をやや低めて言う。
「『国王選抜』参加の宣誓、しかと受け取った。鑑定人を連れて領地に戻るがよい。六か月後、再びこの場所で相まみえよう」
楽団が壮麗な音楽を奏で出す。その音楽が流れる中、ゆっくりと国王は退出した。
六人の領主たちは舞台を降り、それぞれのところにやってきた鑑定人たちと話をしているようだ。

マヒロはとうとう選抜が始まるのだ、と思って何だか緊張するのを抑えられなかった。ニュエレンのダンゾは、一度はっきりとマヒロの顔を見て笑った。その顔は醜くはないのにマヒロは背中に何か嫌なものが走るのを感ぜずにはいられなかった。ハルタカの上着の裾をぎゅっと握りしめていると、ふわっと肩を抱いてくれる。
「大丈夫だマヒロ。私がいる、誰にもお前を害させない」
「‥うん、ありがと‥」

いつの間にか、国の大きな行事にも関わることになってしまった。ただの平凡な女子高生だったのに、私に何ができるだろう。出来る限りアーセルの力になりたいし、アーセルに王様になってもらいたい。アーセルみたいな王様だったらきっと国民だって幸せになるよね。
そんな事を考えていたマヒロのところにアーセルたちがやってきた。
「マヒロ様、龍人タツト様、もう解散になりましたので帰っても大丈夫ですが‥まだ残られますか?」
「ううん、たくさん食べたし、帰るよ」
マヒロがそう答えた時である。
「アーセル様!」
と、やや甲高い少年のような声が響いてきた。
声の方を見やれば、ほっそりとした金髪のヒトが駆け寄ってきていた。着ているものは乳白色の上下揃いで、金色の豪勢な刺繍が施されている。上衣がひざ下まであり、その下には同じ色のズボン、足元は濃い茶色のショートブーツといういで立ちだ。
駆け寄りざま、ぎゅっとアーセルの腕に抱きついてきたのでマヒロは驚いた。
アーセルは冷静に挨拶を返す。
「ティルン様、お久しゅうございます」
ティルンと呼ばれたヒトは、アーセルの顔を見上げてニコッと笑った。
カ、かわいい‥男性アイドルみたいだな‥。マヒロはそう思いながらそのヒトを眺めた。
「選抜の間、僕がアーセル様の家に行くことになったんです。六か月よろしくお願いします!」
「そうですか。滞在はほとんどアツレンになりますから、寒さは厳しいと思いますが‥」
そう続けるアーセルの言葉を、ティルンは遮るようにして言った。
「大丈夫!たくさん防寒着も持っていきますし。陛下にお願いしてようやくお許しをもらえたので嬉しくて!明日にでも領主邸に伺いたいんですけどいいですか?」
アーセルは少しだけ眉を寄せたが、あくまで声は穏やかに対応した。
「‥アツレンに向かう時に、機工車でご一緒するのではなかったでしょうか?」
「うん、そうなんですけど、僕できるだけアーセル様と一緒に過ごしたくて!‥ダメでしょうか?」
ティルンは少ししょげた顔をしながらアーセルを見上げた。アーセルは後ろに控えていたルウェンを見やって、一つため息をついてから承諾をした。
ティルンは見るからに喜んでアーセルの身体にぎゅっと抱きつき「ありがとうございます!じゃあ明日伺いますね!」と言ってまた去っていった。

「何か、勢いのあるヒトだね‥」
と思わずマヒロが言うと、ルウェンが近づいてきて説明してくれた。
「あの方は国王陛下の第四子、ティルン様です。国王陛下のお子様方は選抜の間各領主を回るんですが、ティルン様はまだ十六歳と幼いことからご希望を叶える形でフェンドラに来られます」
ルウェンはいつも色々な事をさらりと説明してくれるのだが、このティルンの事を言っている時はなんとなく歯に物が挟まったような話し方をした。それに気づいたマヒロが、ん?という顔をすると、ルウェンがそっとマヒロに近づいてきて囁いた。
「‥ティルン様はアーセルを伴侶に望まれているんです。結構押しの強い方で‥」
「あ、そう、なんだ‥」

アーセルの事を好きな押しの強いヒトと、六か月一緒に暮らすのか‥。
マヒロは少し心配になってきた。結構、苦手なタイプかもしれない。
いや、いかん、まだちゃんと話してもないうちからそんなことを思うなんて失礼だ。年も近いんだし、友達‥とまではいかなくても意外と話してみたらいいヒトかもしれないし。
そう自分を戒めているマヒロの耳元で、今度はハルタカがそっと囁いた。
「今の者はシンリキシャだ。それほど強い力を持っているわけではないが、精神に干渉する力が多少はあるようだからマヒロは気をつけた方がいい」
え。なんか急に怖い話になってきた。
そう言えば攫われた時に私に何か催眠術みたいなのをかけたヒトは金髪のヒトだったっけ。
「シンリキシャって、どんな力を持ってるの?」
マヒロが尋ねるとハルタカはふむ、と少し考えてから答えてくれた。
「シンリキは、精神に干渉する力だ。コウリキシャであれば、心を病んだものの治療に携わったり失われた記憶を呼び戻したりすることもできる。ただシンリキはコウリキシャが少ない。大抵のシンリキシャはそこまで力がなく、何となくヒトに好かれやすいという特徴を持っているくらいだ。だからシンリキシャは商売をしていることも多いな」
「へえ‥あ、そう言えばタムも金髪だったね」
ピルカを売っているナシュとタムの事を思い出す。
「あの者にはほとんどシンリキはないな。・・今のティルンという者は、自分に好意を持たせるくらいの力があるように見えた。‥まあ、あまり害はないだろうが覚えておくに越したことはないだろう」
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