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53 カルロ到着
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こんなナイスバディ美魔女な感じのバルハさんでも、嫉妬とかしちゃうのか‥。
マヒロは素直にそう思った。しかもマヒロにとって三十代半ばほどに見えるバルハは「おとな」で、「おとな」は焼きもちなんて焼かないのかと思っていた。
しげしげと自分を見つめるマヒロの視線に気づいたのか、バルハは「おい!」と部屋の隅にあるドアに声をかけた。
「なにぃ?」と言ってそこから出てきたのは、目の覚めるような青い髪を二つに結んだかわいらしい少女‥に見えるヒトだった。年はマヒロとそう変わらないように見える。
バルハはその青髪のヒトの手をぐいと引っ張って引き寄せた。
「おれの伴侶、キリキシャのアンリンだ。かっこいいだろ?」
かっ‥‥こいい‥というより、かわいい、では‥?
何と言って返していいかわからず、口を半開きにしたまま固まっているマヒロを見て、アンリンは軽く頭を下げた。
「ああ、フェンドラ領主のお連れ様ですか。こんにちは、おれはアンリンです。バルハの伴侶です」
おれ!おれなの一人称!こ、こんなにかわいい、美少女風なのに‥。
色々衝撃を受けて固まったまま言葉を発せないマヒロをよそに、アンリンは自分より年上(に見え)かつ大柄なバルハの腰をぐいと掴んで引き寄せた。
「おれもこいつと離れたくないんで、セキセイの仕事は性に合ってます。‥かわいくてね」
「‥‥‥そ、そうですか、お、お似合いですね‥」
また後で、とか何とか言いながらマヒロはそっとセキセイ控室から退去した。途端に部屋からちゅっというやや生々しい音がしてきたので慌てて自分の個室に戻った。
椅子に脱力して腰かけながらはああと深くため息をついた。
いやでも、あれだ、私って結局色々見た目で判断しちゃってるんだな。
マヒロはそう思った。美少女風のヒトはかわいい感じ、美魔女風のヒトは豪快でかっこいい感じ、そんなふうに決めてかかってしまっていた。
この世界は雌雄同体で、いわゆるマヒロから見た「男っぽさ」や「女っぽさ」は個性でしかない。そこにステレオタイプな「らしさ」など存在しないのだ。
改めてその事実を身をもって実感し、まだまだ見識が狭い自分をやや反省したマヒロだった。
王都カルロは、ややアツレンよりやや暖かい都市だった。都市内は平地が多く、石組みの高い建物も多い。路面も石畳のものが多く、乗り合いの機工車や小型機工車がたくさん走っていていかにも「都会」という街だった。住んでいる人々の服装などもアツレンよりは色々な種類があるようで、マヒロは物珍しげに機工車の窓からそれらを観察していた。
カルロに着くまでの三日間に、マヒロは二回腕輪を使ってハルタカに話しかけてみた。一度目は応答がなく、マヒロは二回目に話しかけるのに相当勇気をふり絞った。
二回目にはようやくハルタカが応答してくれた。
「ハルタカ!‥元気?」
「元気だ」
「‥怒ってる?」
「何も怒ってなどいない」
「‥なんであの時帰っちゃったの?」
「マヒロが‥私に会いたくないだろうと思ったからだ」
「‥アーセルとは、何もないよ」
「‥‥‥わかった」
「ハルタカはカルロに来ないの?」
「来てほしいのか?」
「うん、忙しくなければ‥パーティーとかあって、えっとエスコートされるのが今のところアーセルになってるから‥」
「いつだ」
「へ?」
「パーティーだ」
「あ、え、えっと‥五日後の昼だったと思う」
「では行く。フェンドラ領主邸にテンセイを降ろすからそう伝えておけ」
「え、うん、わかった‥あの、」
「ではその時に」
「あ、ハルタカ!」
‥怒ってるじゃん‥なんか絶対あのむっすり顔してるじゃん‥
うんともすんとも言わなくなった銀色の腕輪を見て、マヒロは思わずべえっと舌を出した。離れているからか、何だかハルタカの考えていることがわからない。もう自分の事はそんなに気にしてくれないのか。いや、でもエスコートの話をしたらすぐにくるって言ったからやっぱり好きでいてくれてるのかな。
ただ、アーセルに張り合ってるだけ?
マヒロは両手でパチンと顔を叩いた。
いないところでぐずぐず考えていても仕方がない。五日後までにはハルタカも来るのだろうから、その時にちゃんと色々話をしよう。話し合わないとお互いの気持ちなんてわからないのだから。
そう思って、ハルタカが来るまでは悩まないようにしようと決めた。
カルロのフェンドラ領主邸は、アツレンの屋敷の五倍ほどもあり広くて迷子になりそうだとマヒロはくらくらした。とはいえ、居住部分だけで大きいわけではなく、領主の仕事場としての側面も持ち合わせているようで、たくさんの人々が行き来していた。
居住部分は全体の半分よりやや少ないくらいらしく、そこにアーセルの親も住んでいた。アーセルの親は、レイリキシャであるハンザレとシンリキシャであるマーリンだった。二人とも三十代後半くらいにしか見えず、アーセルは一体幾つの時の子なのだろうと不思議に思った。アーセル自体の年齢は二十六歳だと聞いていたのだが。
後でこっそり聞いてみると、ハンザレもマーリンも既に六十は越しているとのことだった。マヒロが思わず「若っ!」と叫ぶと、アーセルは不思議そうな顔をしていた。
「‥そうですか?二人ともまあ、普通かとは思いますが‥マヒロ様の国では若い方ですかね?」
そう問われて、ああそう言えば平均寿命二百歳の世界だったと思い至った。老化の速度もひょっとしたら違うのかもしれない。
そう考えてみて、マヒロはこれまでアツレンの街でもいわゆる「老人」という風体の人を見たことがないのに気がついた。一番「老けている」と感じたヒトでも五十代くらいまでしか見たことがない。不思議に思ってもう少し詳しくアーセルに訊いてみた。
色々常識に齟齬があるので詳しいことを聞き出すまで少々時間がかかったが、マヒロの感覚でいう「老人」の姿になるのは本当に死期が近づいた人だけらしい。基本的に何歳になっても子果さえ授かれれば子どもは産めるので、この世界の人々は若い時期が長い、という事らしかった。アーセルの親たちもまだあと一対子果を持っているらしく、「そのうち私にも下子ができるかもしれません」と言っていた。
やはり、まだ自分は知らないことがたくさんあるんだな、と改めてマヒロは思った。
マヒロは素直にそう思った。しかもマヒロにとって三十代半ばほどに見えるバルハは「おとな」で、「おとな」は焼きもちなんて焼かないのかと思っていた。
しげしげと自分を見つめるマヒロの視線に気づいたのか、バルハは「おい!」と部屋の隅にあるドアに声をかけた。
「なにぃ?」と言ってそこから出てきたのは、目の覚めるような青い髪を二つに結んだかわいらしい少女‥に見えるヒトだった。年はマヒロとそう変わらないように見える。
バルハはその青髪のヒトの手をぐいと引っ張って引き寄せた。
「おれの伴侶、キリキシャのアンリンだ。かっこいいだろ?」
かっ‥‥こいい‥というより、かわいい、では‥?
何と言って返していいかわからず、口を半開きにしたまま固まっているマヒロを見て、アンリンは軽く頭を下げた。
「ああ、フェンドラ領主のお連れ様ですか。こんにちは、おれはアンリンです。バルハの伴侶です」
おれ!おれなの一人称!こ、こんなにかわいい、美少女風なのに‥。
色々衝撃を受けて固まったまま言葉を発せないマヒロをよそに、アンリンは自分より年上(に見え)かつ大柄なバルハの腰をぐいと掴んで引き寄せた。
「おれもこいつと離れたくないんで、セキセイの仕事は性に合ってます。‥かわいくてね」
「‥‥‥そ、そうですか、お、お似合いですね‥」
また後で、とか何とか言いながらマヒロはそっとセキセイ控室から退去した。途端に部屋からちゅっというやや生々しい音がしてきたので慌てて自分の個室に戻った。
椅子に脱力して腰かけながらはああと深くため息をついた。
いやでも、あれだ、私って結局色々見た目で判断しちゃってるんだな。
マヒロはそう思った。美少女風のヒトはかわいい感じ、美魔女風のヒトは豪快でかっこいい感じ、そんなふうに決めてかかってしまっていた。
この世界は雌雄同体で、いわゆるマヒロから見た「男っぽさ」や「女っぽさ」は個性でしかない。そこにステレオタイプな「らしさ」など存在しないのだ。
改めてその事実を身をもって実感し、まだまだ見識が狭い自分をやや反省したマヒロだった。
王都カルロは、ややアツレンよりやや暖かい都市だった。都市内は平地が多く、石組みの高い建物も多い。路面も石畳のものが多く、乗り合いの機工車や小型機工車がたくさん走っていていかにも「都会」という街だった。住んでいる人々の服装などもアツレンよりは色々な種類があるようで、マヒロは物珍しげに機工車の窓からそれらを観察していた。
カルロに着くまでの三日間に、マヒロは二回腕輪を使ってハルタカに話しかけてみた。一度目は応答がなく、マヒロは二回目に話しかけるのに相当勇気をふり絞った。
二回目にはようやくハルタカが応答してくれた。
「ハルタカ!‥元気?」
「元気だ」
「‥怒ってる?」
「何も怒ってなどいない」
「‥なんであの時帰っちゃったの?」
「マヒロが‥私に会いたくないだろうと思ったからだ」
「‥アーセルとは、何もないよ」
「‥‥‥わかった」
「ハルタカはカルロに来ないの?」
「来てほしいのか?」
「うん、忙しくなければ‥パーティーとかあって、えっとエスコートされるのが今のところアーセルになってるから‥」
「いつだ」
「へ?」
「パーティーだ」
「あ、え、えっと‥五日後の昼だったと思う」
「では行く。フェンドラ領主邸にテンセイを降ろすからそう伝えておけ」
「え、うん、わかった‥あの、」
「ではその時に」
「あ、ハルタカ!」
‥怒ってるじゃん‥なんか絶対あのむっすり顔してるじゃん‥
うんともすんとも言わなくなった銀色の腕輪を見て、マヒロは思わずべえっと舌を出した。離れているからか、何だかハルタカの考えていることがわからない。もう自分の事はそんなに気にしてくれないのか。いや、でもエスコートの話をしたらすぐにくるって言ったからやっぱり好きでいてくれてるのかな。
ただ、アーセルに張り合ってるだけ?
マヒロは両手でパチンと顔を叩いた。
いないところでぐずぐず考えていても仕方がない。五日後までにはハルタカも来るのだろうから、その時にちゃんと色々話をしよう。話し合わないとお互いの気持ちなんてわからないのだから。
そう思って、ハルタカが来るまでは悩まないようにしようと決めた。
カルロのフェンドラ領主邸は、アツレンの屋敷の五倍ほどもあり広くて迷子になりそうだとマヒロはくらくらした。とはいえ、居住部分だけで大きいわけではなく、領主の仕事場としての側面も持ち合わせているようで、たくさんの人々が行き来していた。
居住部分は全体の半分よりやや少ないくらいらしく、そこにアーセルの親も住んでいた。アーセルの親は、レイリキシャであるハンザレとシンリキシャであるマーリンだった。二人とも三十代後半くらいにしか見えず、アーセルは一体幾つの時の子なのだろうと不思議に思った。アーセル自体の年齢は二十六歳だと聞いていたのだが。
後でこっそり聞いてみると、ハンザレもマーリンも既に六十は越しているとのことだった。マヒロが思わず「若っ!」と叫ぶと、アーセルは不思議そうな顔をしていた。
「‥そうですか?二人ともまあ、普通かとは思いますが‥マヒロ様の国では若い方ですかね?」
そう問われて、ああそう言えば平均寿命二百歳の世界だったと思い至った。老化の速度もひょっとしたら違うのかもしれない。
そう考えてみて、マヒロはこれまでアツレンの街でもいわゆる「老人」という風体の人を見たことがないのに気がついた。一番「老けている」と感じたヒトでも五十代くらいまでしか見たことがない。不思議に思ってもう少し詳しくアーセルに訊いてみた。
色々常識に齟齬があるので詳しいことを聞き出すまで少々時間がかかったが、マヒロの感覚でいう「老人」の姿になるのは本当に死期が近づいた人だけらしい。基本的に何歳になっても子果さえ授かれれば子どもは産めるので、この世界の人々は若い時期が長い、という事らしかった。アーセルの親たちもまだあと一対子果を持っているらしく、「そのうち私にも下子ができるかもしれません」と言っていた。
やはり、まだ自分は知らないことがたくさんあるんだな、と改めてマヒロは思った。
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