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ハルタカとはほとんど毎日、あの腕輪を使って話をしていた。話ができるのは体感として三分くらいで、決して長い時間ではなかったがいつでもハルタカと話せる、という事実がマヒロの気持ちを安心させていた。
マヒロは日々の些細な変化をハルタカに聞かせるのだが、ハルタカはあまりそういう話を聞く事が好きではなさそうだった。一度、なんで私の話を聞くの嫌そうなの?と半ギレ気味に聞いたところ、自分のいない暮らしを楽しんでるようなのは辛かったから、と答えてきてマヒロを悶絶させた。
ハルタカはマヒロが滞在していた間、行けなくなっていた各国を飛び回り様子を見てきているようだった。マヒロはまだ今一つ龍人の役割を理解しきれていなかったが、自分のせいで少しそれが滞っていたのだというのはわかったので、やはり離れたのはよかったのだ、とも思った。
しかしハルタカはマヒロと離れているのが本当に辛いようで、二十日ほど経つとハルタカはまたマヒロのもとにやってきた。そして三日ほど(無理矢理)アーセルの屋敷に滞在し、マヒロを抱きしめまくっていた。
アーセルは、日々マヒロと同じ屋敷に暮らせることに深い喜びを感じていた。無論領主としての仕事もある上、退異騎士としての役目もあるのでいつもマヒロにべったりという訳にはいかなかったが、ルウェンの策略でできるだけ一緒に過ごせるようにしてもらっていたので満足していた。
マヒロは贅沢を好まなかった。そこもアーセルにとっては好ましいと思える部分だった。何でも買っていいし要求していい、と言っているのにやたらに恐縮して、必要なものを買うのにも遠慮をする。曰く「特に何の役にも立ってないから」気が引ける、ということだったが、アーセルに群がってくる若者たちにそういう気質のものは今までいなかった。
マヒロの一つ一つの仕草が、たまらなく可愛らしく見える。そう思う自分にアーセル自身驚いていた。他人にこのような感情を持ったことはなかった。自分は一生伴侶を持たずに生きていくのだろうと思っていたほどだ。
退異騎士団の中でも団長でもあり普段鬼のように厳しいアーセルが柔らかくなった、と騎士たちが言いあっていた。そしてその原因を、最近いつもアーセルの傍にいる赤髪で黒い目の若者に求めるのも当然の帰結だった。
マヒロは、退異騎士団員からも慕われ「ずっといらしてていいんですよ!」「是非いてください!」と謎のラブコールを受けることが多くなって首をかしげていた。
アーセルはいつでもマヒロに優しく、紳士的に振る舞った。ハルタカとは違った優しさにマヒロも心がアーセルに傾くのを感じた。
だがそれは恋情というよりは、兄を慕うような気持ちだった。
ハルタカへの気持ちは、揺らがない。
アーセルの屋敷で暮らし始めてからひと月が経とうとする頃、マヒロの中でも少しずつ覚悟が決まりつつあった。
一方、焦っていたのはルウェンだった。
マヒロの心がハルタカに向いているのは明らかだった。だからこそ、邪魔なハルタカを追いやってアーセルの屋敷に囲い込んだというのに、アーセルもアーセルで全く積極的に動かない。騎士団一美しいと言われているその顔面をもっと利用しろよ、とルウェンは心の中で毒づいた。
かといって、無理にルウェンが何かを仕掛けようとすればアーセルが怒ることは間違いない。マヒロに心を奪われたアーセルは、ある意味もっと面倒になっていた。昔ならぶつぶつ文句を言いながらもルウェンが推し進めることには最終的に賛成してくれるアーセルだったのに、今はマヒロの気持ちを最優先に動いてしまっている。
ルウェンはじりじりとした気持ちで日々を過ごしていた。もう間もなく『国王選抜』が始まる。それまでに何とかマヒロとアーセルをくっつけたかったのに。
そうでないと、アーセルは『国王選抜』を勝ち抜けない。
『カベワタリ』によって力を増幅させるためには、『カベワタリ』との性交が必要不可欠なのだ。
この情報は、カルカロア王国でもごく一部の人しか知らない極秘情報だった。二十年ほど前、ゴリキ統治国に現れた『カベワタリ』によってその情報が確実視されたと言われている。無論公式にゴリキ統治国がそのようなことを発表したわけではないが、各国の諜報網を潜り抜けていくうちにその情報はごく一部の人間には共有されるものとなっていた。
アーセルは知らない。
知ってしまったらむしろマヒロを抱いたりはしないだろう。自分の欲望や望みのために、愛するヒトを利用するようなことは絶対にしないやつだ。
ルウェンは、パルーラ(強制性交幻覚剤)と‥パルーリア(強力強制性交幻覚作用剤)さえ手に入れていた。
たとえアーセルに軽蔑されても見限られても、アーセルが国王になれるなら何でもするつもりだった。
そうでないと、国民に未来はない。荒廃していく国を見ていたくはない。
だが、屈託なく笑って色々なHなしをするマヒロを見ていると、パルーラも、勿論パルーリアなどを使う気にはなかなかなれないのも事実だった。
じりじりと心を焦がしながら、ルウェンは自分自身にも苛立っていた。
マヒロがアツレンで暮らすようになって三十五日余りが過ぎ、とうとう『国王選抜』実施期間がやってきた。
開期式は、王都カルロで行われるとのことでマヒロもともに行くことになってしまった。それを聞いたハルタカは途轍もなく不機嫌になった。そしてすぐにまたアツレンにやってきた。
「私も行く」
「え、ハルタカいいの‥?何か仕事とかあるんじゃないの?」
「そんな色々な思惑を持った者たちばかりのところに、マヒロをやるわけにいかない」
「えーと、騎士団の人たちもいるよ?アーセルもいるし‥」
ハルタカは抱いていたマヒロの肩をぐっと引き寄せた。思いのほか力が強くマヒロは少し顔を顰めた。
ハルタカは低い声で訊いた。
「いつから、領主騎士の事を呼び捨てで呼ぶようになった?」
マヒロは、肩に食い込むハルタカの掌が痛くて拳で叩いた。
「痛い!ハルタカ痛いよ!どうしてそんなに強くするの?」
「マヒロ、答えろ」
「‥呼び捨てにしたくらいで何でそんなに痛いことするの?‥DV男みたい。やだ、そういうの」
「‥‥マヒロ、でぃーぶいおとことは何だ?いい言葉ではないよな?」
マヒロは日々の些細な変化をハルタカに聞かせるのだが、ハルタカはあまりそういう話を聞く事が好きではなさそうだった。一度、なんで私の話を聞くの嫌そうなの?と半ギレ気味に聞いたところ、自分のいない暮らしを楽しんでるようなのは辛かったから、と答えてきてマヒロを悶絶させた。
ハルタカはマヒロが滞在していた間、行けなくなっていた各国を飛び回り様子を見てきているようだった。マヒロはまだ今一つ龍人の役割を理解しきれていなかったが、自分のせいで少しそれが滞っていたのだというのはわかったので、やはり離れたのはよかったのだ、とも思った。
しかしハルタカはマヒロと離れているのが本当に辛いようで、二十日ほど経つとハルタカはまたマヒロのもとにやってきた。そして三日ほど(無理矢理)アーセルの屋敷に滞在し、マヒロを抱きしめまくっていた。
アーセルは、日々マヒロと同じ屋敷に暮らせることに深い喜びを感じていた。無論領主としての仕事もある上、退異騎士としての役目もあるのでいつもマヒロにべったりという訳にはいかなかったが、ルウェンの策略でできるだけ一緒に過ごせるようにしてもらっていたので満足していた。
マヒロは贅沢を好まなかった。そこもアーセルにとっては好ましいと思える部分だった。何でも買っていいし要求していい、と言っているのにやたらに恐縮して、必要なものを買うのにも遠慮をする。曰く「特に何の役にも立ってないから」気が引ける、ということだったが、アーセルに群がってくる若者たちにそういう気質のものは今までいなかった。
マヒロの一つ一つの仕草が、たまらなく可愛らしく見える。そう思う自分にアーセル自身驚いていた。他人にこのような感情を持ったことはなかった。自分は一生伴侶を持たずに生きていくのだろうと思っていたほどだ。
退異騎士団の中でも団長でもあり普段鬼のように厳しいアーセルが柔らかくなった、と騎士たちが言いあっていた。そしてその原因を、最近いつもアーセルの傍にいる赤髪で黒い目の若者に求めるのも当然の帰結だった。
マヒロは、退異騎士団員からも慕われ「ずっといらしてていいんですよ!」「是非いてください!」と謎のラブコールを受けることが多くなって首をかしげていた。
アーセルはいつでもマヒロに優しく、紳士的に振る舞った。ハルタカとは違った優しさにマヒロも心がアーセルに傾くのを感じた。
だがそれは恋情というよりは、兄を慕うような気持ちだった。
ハルタカへの気持ちは、揺らがない。
アーセルの屋敷で暮らし始めてからひと月が経とうとする頃、マヒロの中でも少しずつ覚悟が決まりつつあった。
一方、焦っていたのはルウェンだった。
マヒロの心がハルタカに向いているのは明らかだった。だからこそ、邪魔なハルタカを追いやってアーセルの屋敷に囲い込んだというのに、アーセルもアーセルで全く積極的に動かない。騎士団一美しいと言われているその顔面をもっと利用しろよ、とルウェンは心の中で毒づいた。
かといって、無理にルウェンが何かを仕掛けようとすればアーセルが怒ることは間違いない。マヒロに心を奪われたアーセルは、ある意味もっと面倒になっていた。昔ならぶつぶつ文句を言いながらもルウェンが推し進めることには最終的に賛成してくれるアーセルだったのに、今はマヒロの気持ちを最優先に動いてしまっている。
ルウェンはじりじりとした気持ちで日々を過ごしていた。もう間もなく『国王選抜』が始まる。それまでに何とかマヒロとアーセルをくっつけたかったのに。
そうでないと、アーセルは『国王選抜』を勝ち抜けない。
『カベワタリ』によって力を増幅させるためには、『カベワタリ』との性交が必要不可欠なのだ。
この情報は、カルカロア王国でもごく一部の人しか知らない極秘情報だった。二十年ほど前、ゴリキ統治国に現れた『カベワタリ』によってその情報が確実視されたと言われている。無論公式にゴリキ統治国がそのようなことを発表したわけではないが、各国の諜報網を潜り抜けていくうちにその情報はごく一部の人間には共有されるものとなっていた。
アーセルは知らない。
知ってしまったらむしろマヒロを抱いたりはしないだろう。自分の欲望や望みのために、愛するヒトを利用するようなことは絶対にしないやつだ。
ルウェンは、パルーラ(強制性交幻覚剤)と‥パルーリア(強力強制性交幻覚作用剤)さえ手に入れていた。
たとえアーセルに軽蔑されても見限られても、アーセルが国王になれるなら何でもするつもりだった。
そうでないと、国民に未来はない。荒廃していく国を見ていたくはない。
だが、屈託なく笑って色々なHなしをするマヒロを見ていると、パルーラも、勿論パルーリアなどを使う気にはなかなかなれないのも事実だった。
じりじりと心を焦がしながら、ルウェンは自分自身にも苛立っていた。
マヒロがアツレンで暮らすようになって三十五日余りが過ぎ、とうとう『国王選抜』実施期間がやってきた。
開期式は、王都カルロで行われるとのことでマヒロもともに行くことになってしまった。それを聞いたハルタカは途轍もなく不機嫌になった。そしてすぐにまたアツレンにやってきた。
「私も行く」
「え、ハルタカいいの‥?何か仕事とかあるんじゃないの?」
「そんな色々な思惑を持った者たちばかりのところに、マヒロをやるわけにいかない」
「えーと、騎士団の人たちもいるよ?アーセルもいるし‥」
ハルタカは抱いていたマヒロの肩をぐっと引き寄せた。思いのほか力が強くマヒロは少し顔を顰めた。
ハルタカは低い声で訊いた。
「いつから、領主騎士の事を呼び捨てで呼ぶようになった?」
マヒロは、肩に食い込むハルタカの掌が痛くて拳で叩いた。
「痛い!ハルタカ痛いよ!どうしてそんなに強くするの?」
「マヒロ、答えろ」
「‥呼び捨てにしたくらいで何でそんなに痛いことするの?‥DV男みたい。やだ、そういうの」
「‥‥マヒロ、でぃーぶいおとことは何だ?いい言葉ではないよな?」
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