上 下
24 / 36

24 屋台の食べ物と、

しおりを挟む
店を出て少し歩けば、先ほど見かけたにぎやかな市場についた。やはりハルタカはとても目立っていて、あちこちでハルタカを見てひそひそと話しをしている人がいる。無論何人かは直接声をかけてきて、商品を献上しようとしてきたりした。
ハルタカは周りでひそひそと話している人々の事は気に留めていないようだったが、何やら品物を献上しようとする者たちには丁寧な断りの言葉を述べていた。断られて残念そうな顔をする彼らを見て、マヒロは尋ねた。
「なんで全部断るの?要らないものばかりだった?」
顔を見上げてくるマヒロにふっと笑みを返しながら頭を撫でた。
「あの者たちはただ私に何かくれようとしているわけではない。龍人タツトに何か献上したと、ここの領主に届け出れば報奨金がもらえる。また、私が受け取ったという噂が回ればその者の店は売り上げが上がるんだ。だから献上したいものが多い」
「‥え、何かそれって‥ちょっと、やな感じ」
そう少し不機嫌そうにつぶやくマヒロに、思わずふっと笑ってしまった。
「はは、マヒロはそう思うか。‥私は仕方のないことだと思っている。ヒトはみな必死に日々を生きてゆかねばならぬからな」
「‥そか‥」
「だが受け取っていてもきりがないのでな。献上に来るものからは、よほどのことがない限り受け取らぬようにしているのだ」
「なるほど」
では、今から市場とかで買ったりするぶんには大丈夫な感じかな。
正直なところ、珍しいものばかりが目に付いて手にしてみたいものばかりなのだ。別に全部買いたいという訳ではないが、とりあえず色々と近くで見てみたい。マヒロとしては初めて海外旅行に来たような気持ちだった。
市場には本当に雑多なものが様々並べられていた。ハルタカが来ると喧騒が少し収まるが、遠くでは人々の生活の音がかまびすしく聞こえてきている。それはここで生きているヒトがいるのだとマヒロにしっかりと感じさせてくれるものだった。
「わー、何かわかんないものばっか」
何に使うのかわからないものが多いが、武器や防具っぽいもの、衣服や衣料雑貨、生活雑貨や食べ物などは何となく見ているとわかる。
「何でも気になったものは手に取ってみていいぞ」
とハルタカが言ってくれたので、遠慮なく色々と見てみることにする。
かわいらしいボタンの縫い付けられた帯。
簪のような飾り。
髪を結ぶための飾り紐。
ごく寒い地域に行くときのための厚い毛皮。
異生物という怪物からとれるという珍しい素材。
獣を狩る時の獲物や、武器や防具。
色々見て回る中で、ハルタカが手にしたものを片っ端から買おうとするのを止めるのにも忙しい。止めようとするとお店の人がひどく悲しそうな顔でこちらを見てくるので、それにも耐えなければならないマヒロはだんだん疲れてきてしまった。
「ハルタカ、お腹すきました」
「そうか、では食べ物が売っているあたりに行こう」
そう言ってくれるハルタカについて少し市場を移動すると、ふわっと美味しいにおいが立ち込めてくる。甘いものもしょっぱいものも混じり合ったような複雑なにおいで、おお、市場っぽい!と思った。
そこで売っていた、何かの肉を揚げたものを買ってみる。揚げたてなので湯気が出ている。かぷりと噛んでみると肉汁が溢れてきてうまい。外側の衣は少し熱くてサクサクしているのもよかった。
「美味しいね!」
「サムラの揚げ物だな。私も時々食べる」
「あっ、あれ!食べたい!」
マヒロが指さしたのは、小さな木の入れ物に入れて売っている麺料理だった。傍によってよく見れば、麺と言っても一本が短く10cmくらいしかない。そこに細かく刻んだ野菜とひき肉を炒めたものをぶっかけ、温かいスープを少しかけた料理だった。
「マルーだな。アツレンの名物料理だ」
「食べたい!麺食べたい!」
ハルタカが頼めば、小さな木の入れ物と、先割れスプーンのようなものを一緒に渡してくれた。これも熱々でふうふう吹き冷ましながら口に入れてみる。少し香辛料のきいた甘じょっぱい味付けでマヒロの口に合った。瞬く間に食べてしまったマヒロに若い店員が「おまけです」と言って飲み物の入ったカップを渡してくれた。そして入れ物とスプーンを引き取っていく。カップに入っていたのは、少し甘みのあるお茶で美味しかった。
「入れ物とスプーンは返すんだね」
「返せばその分の料金も返ってくる。入れ物が欲しいものは返さなくてもいいんだ」
「へー!エコな感じだ」
「えこ?」
不審げにこちらを見てくるハルタカに、何といって説明しようか考える。
「んーと、ものを大事に使おう、って感じ?」
「それは当たり前ではないのか。ものは作るものや売るもの、色々な人々の手を経てなるものだ。大事にするのは当然だろう」
マヒロの頭の中に、世界史で習った産業革命が思い起こされる。まだこの世界は大量生産大量消費の世界ではないのだろう。明治維新前の日本も同じような感じだったかもしれない。
「‥そうだね、でも私のいたところでは物は使い捨て、っていうのもたくさんあって‥結構よくないものの使い方してたかも」
「ふむ。興味深いな。またその事は別の機会に詳しく教えてくれ。外ではない方がいいだろう」
「‥あ、そっか、わかった」
そう返事をして甘いお茶を啜った。タピオカミルクティーも好きだったけど、これもおいしくて好きだ。タピオカっぽい食べ物ってあるのかな。
そう思いながら歩いていると、甘い匂いが強くなった。何の匂いだろうと思って見回すと、また小さな木の入れ物に何か入れて売っている屋台が見える。看板に何か字が書いてあるが読めないのでわからない。だが客層は若者が多いように見えた。
「ハルタカ、あれ何?」
ハルタカは指さされた看板の文字を読んで答えた。
「ああ、ピルカだな。菓子だ、甘い汁の中に柔らかい団子が入っている」
お汁粉っぽいものだろうか。
「ハルタカ食べたことある?」
「‥‥ここ何十年かは食べていない、と思う」
スパンが長い!そうかこのヒト三百歳オーバーだった。見た目が若いからいつも忘れてしまうけど。
「じゃ一緒に食べてみようよ」
そう言って屋台に並び、菓子を手にした。白くとろりとした汁の中に、桃色の親指くらいの団子が入っていて、団子の真ん中は指で押したようにくぼんでいる。フォークのようなもので挿して食べてみると、強い甘みがあって美味しい。汁の方に甘みがあり、団子の方にはほとんど味はないが食べ応えが餅に似ている。
「美味しい!ハルタカはどう?」
もそもそと咀嚼しながらハルタカが答えた。
「うまいな」
よかった~と思いながら食べているとふっと目の前が暗くなった。ふと見上げれば、目の前にハルタカと同じくらいの背丈の男が二人立っている。どちらも重そうな甲冑のようなものを身につけていて、背に大きな剣を担いでいた。
龍人タツトハルタカ様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

闘封書士ー書を以て闘い書を以て封じる者ー

天知 カナイ
ファンタジー
ともに大学生である流文字読真〈闘書士〉と字通真秀〈封書士〉。読真と真秀は、まだまだ嚙み合わない『闘封』ではあるが、必死に力を合わせて異生物に立ち向かう。 現代日本を襲う異生物と『闘封書』で戦う二人の物語。 闘書士・封書士は、異生物と闘い封殺することのできる者たちの事を言う。 異生物とは、この世界とは違う次元世界が何かのきっかけで重なってしまったとき、別次元から現れる生物の総称だ。異生物は何をしても「死なない」。人々は古来からこの異生物に悩まされてきた。そして「闘封書」が編み出された。 「書」を以て異生物と闘い、弱らせる役目の「闘書士」。 「書」を以て異生物を封じ、この次元世界から追い出す役目の「封書士」。 この二つの役割の書士たちが、異生物の退治を担ってきているのである。 「小説家になろう」さんの方でも連載しています。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...