上 下
11 / 90

11 指なら‥?

しおりを挟む
どうしても自分でシーツを洗いたい、と申し出るとハルタカは建物の裏側にある玉石を敷き詰めた場所に案内してくれた。
「私も何か洗う時はここで行っている。まず私のやり方をみていてくれ」
ハルタカはそう言ってマヒロを少し大きな石に座らせ、シーツを少し広げて玉石の上に置いた。そして右手をかざす。するとハルタカの右手の前に大きな水の玉が現れた。「うわあ!」とマヒロが声を上げるのにも構わず、ハルタカは手をシーツの汚れているところにかざし続ける。水の玉からは激しい水流が迸り、汚れを直撃している。その後水の玉を全体に降らせてシーツ全体をまんべんなく濡らした。
「本当にお水も引っ張ってきちゃうんですねえ」
「ああ」
一度水を止め、持参してきていた小瓶の中身を少しシーツに垂らす。そしてまた離れるとシーツに向かって再び手をかざした。すると今度はシーツが持ち上がり、空中でぐるぐる回転しだした。ふわりといい匂いがする。先ほど垂らしていたものの香りだろうか。一分ほど回転させたらもう一度大きな水の玉を引き寄せその中にシーツを入れてまた回転。水からシーツを引き上げると今度はシーツだけで回転させ、そこに強い風を当てた。
しばらくして完全に乾燥したシーツがふわりと浮き上がったのをハルタカが手で掴み、さっとたたむ。
この作業全てでおよそ五分ほどだった。
ハルタカの手にシーツが収まった時には思わずマヒロは拍手してしまった。ハルタカはなぜ拍手されているのかよくわからなかったようで「なぜ手を打っている?」と訊いてきた。
「すごいなあと思って!‥確かに私がやるより断然早かったですね」
「どうしてもやりたいなら止めはしないが‥」
そう言われて、結局洗うためにハルタカに水を出してもらわないとならないのなら自分がやる意味はあまりないのでは‥?とマヒロは思った。しかし手洗いが基本の世界であれば慣れておいた方がいいかもしれない。少しまだ身体のだるさは残っているから、完全によくなったら試しにさせてもらおう、と考えた。
「そのうちやらせて下さい。まだちょっと身体怠いから治ってから‥」
でお願いします、と言いたかったがその言葉が終わらぬうちにハルタカがつかつかと近づいてきて、がばっとマヒロを抱き上げた。
へっ!?と驚いているとそのまま寝台のある部屋に有無を言わさず連れていかれる。
「痛みやだるさが残っているのに余計なことを考えるな。休め」
「え、いや、そこまで酷いわけじゃ‥」
そう言おうとするマヒロを寝台にそっと下ろした。そして厳しい顔でマヒロの顔を覗き込む。
「お前は結構ひどい状態だった。内臓に折れたあばらが掠ってたんだ。タツリキを流して傷ついたところは修復したがそこに使ったお前自身の体力は回復していない。だからまだ怠いんだ。‥もう少しタツリキを流せば、回復も早まるが‥」
そう言ってそっとマヒロの頬に手を当てる。
いやそれってまたあのディープキス到来!ってやつよな!?それは‥マジで無理・・
「え~、あ、本当に色々ありがとうございます‥で、でも自力でも大人しくしてれば回復するってことですよね?」
「‥そうだが‥」
「大人しくしてます!」
ハルタカはやや不機嫌な顔をしながらもマヒロからは離れた。マヒロはほっと息をついた。恋愛経験値ゼロの身にあのキスはかなりやばい。
「‥指ならどうだ」
ぼそっと低い声でハルタカが告げる。何についての事かさっぱりわからないマヒロは「は?」と返した。ハルタカは腕組みをして不機嫌な顔のままこちらを睨むようにして言葉を続けてくる。
「私の指を咥えてくれるかお前の指を私が咥えるかでもいい、体内粘液を通せばタツリキは通りやすくなる」

‥‥‥‥
‥えーと‥‥‥
私がハルタカさんの指舐めるかハルタカさんが私の指舐めるか、という選択肢を出されているんだなこれは‥
「‥‥ちょっと‥断りたい、です‥‥」
「‥‥‥そうか」
そういうとハルタカはさっと立ち上がりそのままドアのほうに歩きだした。出て行きしなに
「少し出かける。すぐ戻る」
と言い残して、扉の向こうに消えていった。

マヒロは、はーと思わず深いため息をついて、目をつぶった。
イケメンの距離感、つかめん‥。
いや、イケメンだからというより龍人タツト?という種族の考えが読めない。ハルタカさんは何を考えているんだろう。
‥‥そう難しくもないか。興味があることをどんどん聞いたりしたりしている感じだったもんな。
キスしたいわけじゃなくて、私を早く治したい感じだったし。でも、無理なんよイケメンとのキスは!指舐めろって余計なんか‥やらしー感じするし!余計無理だし!
「でも、やっぱり傷つけちゃってるのかなあ‥?そういう気恥ずかしさってこちらの人にはないのかな?あ~~せめてこっちの普通の人とも常識のすり合わせがしたい!」
結局こちらの世界に転移?してきてからはハルタカとしか話をしていない。だから、ハルタカが思っている常識が本当にこの世界の常識なのか、まだわからない部分がある。
デリカシーのなさにドン引く部分はあるが、ハルタカは決して悪い人ではないと思う。自分を気遣って言ってくれている部分もたくさんあるし。
ただ、‥キスだったり抱きしめたりとかのくだりがどうもマヒロはこそばゆくて恥ずかしくてどうしようもない。
「HPが瀕死になるからなあ‥」
そう思ってぼふんと顔を枕に埋めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

義母の秘密、ばらしてしまいます!

四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。 それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。 けれど、彼女には、秘密があって……?

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...