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8 パンダ的な‥?
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マヒロは目をかっぴらいてハルタカを凝視した。
‥この人、頭おかしいのか?したかったらしていいものでもないだろう!いや確かにこんな美形に抱きしめられたりキスされたりしたら喜ぶべきなのかもしれんけど!
ハルタカが離すまいとぎゅうぎゅう抱きしめてくるからまた息苦しくなってきた。
「‥したくなったら相手の同意なしに抱きしめたりキスしたりしても許される世界なんですかここは⁉」
マヒロが低い声で恫喝するようにハルタカに言葉を投げつける。ハルタカは全くそのような様子のマヒロを意に介さず、マヒロの額に自分の額をすりつけた。
「そんなことはないな。ヒトなら多分、どこかに突き出される」
ヒトなら。
えっ、自分は許されるってこと?
「龍人(タツト)は許されるんですかっっ!?」
マヒロの焦りや戸惑いや怒りを全く感じ取っていない様子のハルタカは、マヒロを腕から離すことなくのんびりと答えた。
「許すも何も、龍人(タツト)をヒトがどうこうはできないな。住んでいる世界が違うのだから」
エライこと言い出したぞこいつ。何、龍人(タツト)なら何しても許されるって?人じゃないから?
いやそもそも私は人だし!
「私は、人なので、嫌です!離れて!」
ハルタカは仕方ない、といった体で腕を離し、ゆっくりと起き上がった。さらっと流れ落ちてくる銀髪を煩そうにかきあげる。その様子が美しくて思わずマヒロは息を呑んだ。
「お前は私に抱かれるのがそんなに嫌なのか」
「い、言い方!‥いやっていうか恥ずかしいでしょ別に付き合っているわけでもないのに‥」
そうひとりごちるマヒロの声を聞き逃さずハルタカは尋ねた。
「つきあってる、とは何だ?」
うーーー。またか。
「お互いに好き同士、恋人ってことです」
ハルタカは寝台から降りて長椅子に移動し腰掛けた。それを見てようやくマヒロも寝台から起き上がる。‥汚れた制服のまま寝ちゃったんだ。綺麗なお布団なのに申し訳なかったな。
掛け布団の中でもぞもぞ身支度を整えているマヒロを見て、ハルタカは言った。
「私はお前のことを好きだと思うが」
スカートの皺を必死に伸ばしていた手が、がちんと固まった。‥今、なんて言った?
「へ?何て?」
「私はマヒロの事が好きだと思う」
パニックになりながらもマヒロは学習していた。この人は普通の人じゃない。多分私が考えている「好き」とは違う可能性の方が高い。だって昨日は面と向かって「面倒だ」って言ったやつなんだよ!美形だけど。美形だけど!
「‥ハルタカさん、その好きって‥好きな食べ物とか飼っている動物とかそれに対する好きって感情と同じってことですよね‥?」
ハルタカは奥の部屋に向かって手をかざす。するとスーッとお茶道具の入った盆が空中を飛んでやってきた。そこに載っている急須に手をかざせばすぐにほわほわと湯気が立つ。そこに茶葉を入れて蓋をする。流れるようなその作業に、あっけに取られてマヒロは見ていた。
ハルタカはしばらく茶葉を蒸してから薄い茶器に茶を二つ、注いだ。一つをマヒロの方に持ってきてくれる。あ、この時は持ってきてくれるんだ、とマヒロは思った。
再び長椅子に座り、茶を含んでからハルタカは言った。
「わからんな。特に好きな食べ物はない。テンセイは‥好きという感情ではないな。お前のことは面白いと思った。もう少し一緒にいたい」
あ、パンダ的なやつだった。
珍しいから、ってことね。‥でも。
「私の国では、恋愛的な意味で好きじゃない人に抱きつく習慣はないんです、だからやめてほしいんです」
「ふむ」
長い指を顎に当ててまたハルタカは考えている。この人が考えてろくなことになってない気がする。
「番いということか。‥なるほど、この安心する感じはお前が番いだからか?私はまだたった三百年ほどしか生きていないのに、番いに出会ったということだろうか」
知らん!
「龍人(タツト)って人とあんまり一緒にいちゃダメみたいに言ってませんでした?」
「番いなら別だ。‥どうだ、試しに性交してみるか?そうすれば番いかどうかわかるかもしれん」
せいこう。
せいこうってなんだったっけ。えーと昨日、聞いた気がする‥。
‥‥セックスのことじゃね⁉
はああああああああ!?
「ばっっっかじゃないのふざけんな!」
思わず手にしていた茶器をハルタカに向けて投げつけた。ハルタカは事もなげにさっと茶器に手をかざしその動きを止める。そしてそのまま茶器を掴んで机の上に置いた。
「危ないな」
「昨日会ったばっかの知らないやつと、何で、試しでセックスしなきゃならんの!私は処女よ!」
ハルタカは少し首をかしげた。
「しょじょ?」
「セックスしたことがないってことよばーーーか!」
そう言い捨ててマヒロはバサッと掛け布団の中に潜った。もう、もう何なんだ。訳がわからない。せめて普通の人に出会いたかった。この人確かこの世界でも珍しい生き物なんだって言ってたっけ。何でそんなやつに拾われるんだよりにもよって!
また涙がじわっと滲んできた。昨日から全然落ち着けない。この先私はどうなってしまうんだろう、パンダ的な興味でセックスされちゃうんだろうか。そんなのすぐに飽きられて捨てられて知らない世界で路頭に迷うかもしれない。ハルタカはなんか能力もありそうだし絶対抵抗とかできない。さっきだって腕から抜け出そうとしてもびくともしなかった。
こわい。
こわい、この世界。
帰りたい。
そんなに元の世界に不満なんてなかった。普通に愚痴とか言ってたけど、あれは誰だって言うくらいのレベルのもんじゃん。
私が一体なにしたって言うんだ。何でこんなところに来なきゃいけなかったんだ。
顔中が涙で濡れる。制服の袖口でごしごしと乱暴に拭っても後から後からあふれてくる。
‥この人、頭おかしいのか?したかったらしていいものでもないだろう!いや確かにこんな美形に抱きしめられたりキスされたりしたら喜ぶべきなのかもしれんけど!
ハルタカが離すまいとぎゅうぎゅう抱きしめてくるからまた息苦しくなってきた。
「‥したくなったら相手の同意なしに抱きしめたりキスしたりしても許される世界なんですかここは⁉」
マヒロが低い声で恫喝するようにハルタカに言葉を投げつける。ハルタカは全くそのような様子のマヒロを意に介さず、マヒロの額に自分の額をすりつけた。
「そんなことはないな。ヒトなら多分、どこかに突き出される」
ヒトなら。
えっ、自分は許されるってこと?
「龍人(タツト)は許されるんですかっっ!?」
マヒロの焦りや戸惑いや怒りを全く感じ取っていない様子のハルタカは、マヒロを腕から離すことなくのんびりと答えた。
「許すも何も、龍人(タツト)をヒトがどうこうはできないな。住んでいる世界が違うのだから」
エライこと言い出したぞこいつ。何、龍人(タツト)なら何しても許されるって?人じゃないから?
いやそもそも私は人だし!
「私は、人なので、嫌です!離れて!」
ハルタカは仕方ない、といった体で腕を離し、ゆっくりと起き上がった。さらっと流れ落ちてくる銀髪を煩そうにかきあげる。その様子が美しくて思わずマヒロは息を呑んだ。
「お前は私に抱かれるのがそんなに嫌なのか」
「い、言い方!‥いやっていうか恥ずかしいでしょ別に付き合っているわけでもないのに‥」
そうひとりごちるマヒロの声を聞き逃さずハルタカは尋ねた。
「つきあってる、とは何だ?」
うーーー。またか。
「お互いに好き同士、恋人ってことです」
ハルタカは寝台から降りて長椅子に移動し腰掛けた。それを見てようやくマヒロも寝台から起き上がる。‥汚れた制服のまま寝ちゃったんだ。綺麗なお布団なのに申し訳なかったな。
掛け布団の中でもぞもぞ身支度を整えているマヒロを見て、ハルタカは言った。
「私はお前のことを好きだと思うが」
スカートの皺を必死に伸ばしていた手が、がちんと固まった。‥今、なんて言った?
「へ?何て?」
「私はマヒロの事が好きだと思う」
パニックになりながらもマヒロは学習していた。この人は普通の人じゃない。多分私が考えている「好き」とは違う可能性の方が高い。だって昨日は面と向かって「面倒だ」って言ったやつなんだよ!美形だけど。美形だけど!
「‥ハルタカさん、その好きって‥好きな食べ物とか飼っている動物とかそれに対する好きって感情と同じってことですよね‥?」
ハルタカは奥の部屋に向かって手をかざす。するとスーッとお茶道具の入った盆が空中を飛んでやってきた。そこに載っている急須に手をかざせばすぐにほわほわと湯気が立つ。そこに茶葉を入れて蓋をする。流れるようなその作業に、あっけに取られてマヒロは見ていた。
ハルタカはしばらく茶葉を蒸してから薄い茶器に茶を二つ、注いだ。一つをマヒロの方に持ってきてくれる。あ、この時は持ってきてくれるんだ、とマヒロは思った。
再び長椅子に座り、茶を含んでからハルタカは言った。
「わからんな。特に好きな食べ物はない。テンセイは‥好きという感情ではないな。お前のことは面白いと思った。もう少し一緒にいたい」
あ、パンダ的なやつだった。
珍しいから、ってことね。‥でも。
「私の国では、恋愛的な意味で好きじゃない人に抱きつく習慣はないんです、だからやめてほしいんです」
「ふむ」
長い指を顎に当ててまたハルタカは考えている。この人が考えてろくなことになってない気がする。
「番いということか。‥なるほど、この安心する感じはお前が番いだからか?私はまだたった三百年ほどしか生きていないのに、番いに出会ったということだろうか」
知らん!
「龍人(タツト)って人とあんまり一緒にいちゃダメみたいに言ってませんでした?」
「番いなら別だ。‥どうだ、試しに性交してみるか?そうすれば番いかどうかわかるかもしれん」
せいこう。
せいこうってなんだったっけ。えーと昨日、聞いた気がする‥。
‥‥セックスのことじゃね⁉
はああああああああ!?
「ばっっっかじゃないのふざけんな!」
思わず手にしていた茶器をハルタカに向けて投げつけた。ハルタカは事もなげにさっと茶器に手をかざしその動きを止める。そしてそのまま茶器を掴んで机の上に置いた。
「危ないな」
「昨日会ったばっかの知らないやつと、何で、試しでセックスしなきゃならんの!私は処女よ!」
ハルタカは少し首をかしげた。
「しょじょ?」
「セックスしたことがないってことよばーーーか!」
そう言い捨ててマヒロはバサッと掛け布団の中に潜った。もう、もう何なんだ。訳がわからない。せめて普通の人に出会いたかった。この人確かこの世界でも珍しい生き物なんだって言ってたっけ。何でそんなやつに拾われるんだよりにもよって!
また涙がじわっと滲んできた。昨日から全然落ち着けない。この先私はどうなってしまうんだろう、パンダ的な興味でセックスされちゃうんだろうか。そんなのすぐに飽きられて捨てられて知らない世界で路頭に迷うかもしれない。ハルタカはなんか能力もありそうだし絶対抵抗とかできない。さっきだって腕から抜け出そうとしてもびくともしなかった。
こわい。
こわい、この世界。
帰りたい。
そんなに元の世界に不満なんてなかった。普通に愚痴とか言ってたけど、あれは誰だって言うくらいのレベルのもんじゃん。
私が一体なにしたって言うんだ。何でこんなところに来なきゃいけなかったんだ。
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