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1 ある日の出来事
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何。
ここ、どこ。
なんかのドッキリ?素人向けの企画かなんかなわけ?
じゃなかったら、目の前の光景、意味わかんない。
なんで、角曲がったら通学路が亜熱帯みたいになってんの‥‥
鳴鳥天尋は、いつも通り自転車で下校中にいつもの通学路を通っていただけだ。ポケットに入れていたスマホの通知が鳴って、誰から?って確認してすぐ目を上げたのに。
先ほどまでとは全く違う、舗装もされていない道に変わっていた。道の両側には鬱蒼とした森が広がっており、昼間だというのに高く伸びた木の梢が影になって薄暗くさえ感じる。思わず自転車を降りて、辺りを見回してみるが目の届く限り人家は見えない。「マジなんなのこれ」と言いながら携帯を見てみると、圏外になっている。そして少し前に見た時には50%はあったバッテリーの残量は、その示すところが赤くなって残り僅かなことを表していた。
「え、何ホントこれ」
自転車を止めて両脇に生えている木々をよく見てみる。あまり、見たことのない色だ‥幹がでこぼこしているし、薄紫色の幹ってみたことがない。
「え~と‥‥まさか、異世界に来ちゃった系?」
そんな突拍子もないことを考えてみるが、とにかく建物も見えなければ人もいない。ただ、茶色い、土で固められた道が前後に伸びているだけだ。
「‥行くしかない?かな‥」
とりあえず自転車が向かっていた方向に歩くことにする。土で舗装されている道は全く平らではなくて、自転車の移動には向かない。仕方なく押して歩く。ガタガタと揺れる自転車の振動が手に伝わってきて、地味に辛い。背負っていたリュックを自転車のかごに入れた。
ひたすら歩いているとようやく少し開けたところに出た。が、森が広がっているのが片側になっただけで、辺りは草原というか野原だ。ふと携帯の時計を見ると1時間近くは歩いたようである。
「マジ、きっつ・・」
と呟き、残っていたペットボトルのお茶を飲む。ぐびぐび飲もうとしたところで、はっと次いつ飲み物が手に入るかわからない、と考えついて慌てて飲むのをやめた。
そういえば自動販売機ひとつ見当たらない。疲れ果て、自転車を停めてその横に座り込んだ。
「いや、ちょっとさ‥勘弁してよ‥」
万が一これ異世界転移とかだったらふつう誰かに出会うもんじゃないの?んで、助けてもらってーのそこからの物語が始まるって感じじゃないの?知らんけど。読んだことないし、そういうの。
ところがどこをどう見まわしても、人間どころか動物にさえ出くわさない。
「虫もいないってさ‥」
そう、虫もいない。
とても静かなのだ。
風の渡る音、それになぶられる草や木の葉のすれる音。それしか聞こえてこない。現代日本に暮らしていた天尋が、こんなに音の種類の少ない空間にいるのは初めてなのだ。だからこそ違和感を覚え、空恐ろしさを感じているのだが、自分自身ではそれに気づかない。
「‥何。ホント‥」
不安や恐ろしさ、気持ち悪さといった負の感情が、動きを止めたことによって天尋の中にふつふつと湧き上がってくる。このままじっとしていると涙がこみ上げてきそうだ。不安な気持ちを振り払うように天尋は立ち上がって自転車のハンドルに手をかけた。
このまま、誰にも会わなかったら。そもそもここはどこなのだ。さっきから考えないようにしていたがやはりこれは異常事態だ。‥人工物が一つも見当たらない。土の道はあるが、これがけもの道なのか人が固めたものなのかもわからない。柵も縁石もないし案内の看板などもない。
動物の、いない世界に連れてこられた・・?
そう考えてぞわあっと駆けのぼってきた不安に息が詰まる。
「は、はっ、はっ、」
じわりと涙がにじんでそのせいで余計に息が詰まった。一度不安になるともう恐ろしい怖い、という感情がぶわりと心の中を占めてたまらなくなる。
「う、うぅ、もう、何で、だよぉ‥」
とうとう天尋はうつむいてボロボロと泣きだした。どうすればいいのか。このまま歩いていけば何か変わるのか。それとも歩いても歩いても「何もない」のか。
自分はここで孤独に死ぬのか。
死ぬ、と考えればまた息がひゅっと詰まった。息苦しい、息苦しいのに泣き止めない。
「うう、うっ、うっ」
耳がキーンとする。泣きすぎて頭も痛い。
天尋はそんな状態で下を向き泣き続けながらもとぼとぼと歩いていたから、辺りの異変に気付かなかった。
音が止んでいる。
風さえも止まった。先ほどまで聞こえていた木々の葉擦れの音がぴたりと止まったのだ。
きん、と耳を打つような静寂に天尋は異様な空気を感じ顔を上げた、
先ほどまでずっと遠くまで見渡せていた道の奥に、何やら黒く大きいものが見える。
それはざわざわと揺れ動いていて、しかもだんだんこちらに近づいてきているようだった。それを見た天尋は、身体中にぞっと悪寒が走るのを覚えた。あれが何かはわからない、まだ遠いところにあるし詳しい姿は見えないからわからない。
ただ、気持ち悪い。
あれはきっとよくないものだ。このままでは、あれは自分に追い付いてしまうかもしれない。そうなったら‥
「やだ、やだあああ!」
天尋は自転車を放り出して逆方向に走り出した。身体は結構疲れていたはずだが、恐怖が足を、身体を動かしている。必死に足を動かしてアレから遠ざかろうとするのに、ずずずずというおどろおどろしい音がどんどん自分の近くに寄ってきている気がする。
天尋はもう恐ろしくて後ろを振り向けない。もつれる足を叱咤しながら必死に逃げた。
(やだ、なに、こわい、こわい、お母さん!)
心の中で最近ぎくしゃくしていた母を思わず呼んだ。無論何の助けも応えも返ってこない。
走って走って、疲労が蓄積していた天尋の足がでこぼこした道のでっぱりに取られた。がん、と膝を強打して倒れ込む。じんじんと骨に響くような痛みに顔をしかめ、脚を手でかばっているその時天尋の視界がふっと暗くなった。
いつの間にかずずず、という不気味な音に代わってざわざわという音になっていた。頭の上に大きなものがいる。そこから恐ろしいほどの不快さが滲んできていて、天尋は恐怖でガタガタ震えた。とてもではないが頭をあげられない。
するとずるるっという音ともに黒っぽい縄のようなものが伸びてきて、天尋の足にぐるっと巻き付いた。焼けただれたような熱と痛みが足を襲い、「うああああ!」と叫び声が出た。黒っぽい縄のようなものはそのままぐんっと天尋の身体を持ち上げた。脚一本で身体を吊り上げられ、浮遊感に吐き気がした。それでも咄嗟にスカートを手で覆う。
「ひっ!!」
そして、天尋の身体を吊り上げていたモノを見た。
そこに在ったのは、異形、だった。
全体はまだらに黒と灰色と茶色と、とにかく淀んだような色をしている。その色は全く一定しておらず、そのモノの中でぐるぐると色彩を変化させていてそれも気味が悪い。大きさは3メートルくらいは軽くあるように見え、形としては大きな熊と猿と、それから木を合わせたような不気味な何とも言えぬ形だった。熊の部分と思われる頭には大きな口がついており、それはまさに今大きく開かれていてその中には蠢く赤黒い何本もの触手のようなものが見えた。牙や歯などがないことが余計にグロテスクさを際立たせている。
黒っぽい縄のような触手はゆっくりと天尋をその熊の口部分に運んでいる。
よりにもよって、こんな気持ち悪いものに食われて死ぬの‥?
あまりにも大きな恐怖と絶望で声も出ない。ひっひっとせわしい息が洩れるだけだ。
そして蠢く熊の口の触手の気配を頭で感じたその時、
ダアアアアン!!
鼓膜をびりびり震わせるような大きな音が鳴り響いた。
黒っぽい縄のような触手は、天尋の足から離れ天尋の身体はドサッと地面に放り出された。全身を強く打って息ができない。酸素を求めて、は、は、と口が開く。身体中の骨がバラバラになったような痛みが襲ってくる。
異形の化け物はその大きな体をぶるるる、と震わせている。嫌な空気がずんと濃くなった。そしてその化け物の向こうにまた大きな生き物が見えた。
(翼、竜‥?)
恐竜博などでその模型を何度か見たことのある、プテラノドンのような生き物が羽をバサバサと羽ばたかせている。銀色に光るその身体を見て新たな絶望が天尋の意識を支配した。
(私を、餌を奪い合ってる‥?)
食べられるなら、まだあのプテラノドンの方がいい。あのプテラノドンからは嫌な気持ち悪い空気を感じない。
もう、食べるならひと思いに一気に食べてくれ。
全身を襲う痛みで意識が朦朧とする。そのおぼろげな視界の隅で、何かが金色に光っているのを見たような気がした。
そして天尋は意識を失った。
ここ、どこ。
なんかのドッキリ?素人向けの企画かなんかなわけ?
じゃなかったら、目の前の光景、意味わかんない。
なんで、角曲がったら通学路が亜熱帯みたいになってんの‥‥
鳴鳥天尋は、いつも通り自転車で下校中にいつもの通学路を通っていただけだ。ポケットに入れていたスマホの通知が鳴って、誰から?って確認してすぐ目を上げたのに。
先ほどまでとは全く違う、舗装もされていない道に変わっていた。道の両側には鬱蒼とした森が広がっており、昼間だというのに高く伸びた木の梢が影になって薄暗くさえ感じる。思わず自転車を降りて、辺りを見回してみるが目の届く限り人家は見えない。「マジなんなのこれ」と言いながら携帯を見てみると、圏外になっている。そして少し前に見た時には50%はあったバッテリーの残量は、その示すところが赤くなって残り僅かなことを表していた。
「え、何ホントこれ」
自転車を止めて両脇に生えている木々をよく見てみる。あまり、見たことのない色だ‥幹がでこぼこしているし、薄紫色の幹ってみたことがない。
「え~と‥‥まさか、異世界に来ちゃった系?」
そんな突拍子もないことを考えてみるが、とにかく建物も見えなければ人もいない。ただ、茶色い、土で固められた道が前後に伸びているだけだ。
「‥行くしかない?かな‥」
とりあえず自転車が向かっていた方向に歩くことにする。土で舗装されている道は全く平らではなくて、自転車の移動には向かない。仕方なく押して歩く。ガタガタと揺れる自転車の振動が手に伝わってきて、地味に辛い。背負っていたリュックを自転車のかごに入れた。
ひたすら歩いているとようやく少し開けたところに出た。が、森が広がっているのが片側になっただけで、辺りは草原というか野原だ。ふと携帯の時計を見ると1時間近くは歩いたようである。
「マジ、きっつ・・」
と呟き、残っていたペットボトルのお茶を飲む。ぐびぐび飲もうとしたところで、はっと次いつ飲み物が手に入るかわからない、と考えついて慌てて飲むのをやめた。
そういえば自動販売機ひとつ見当たらない。疲れ果て、自転車を停めてその横に座り込んだ。
「いや、ちょっとさ‥勘弁してよ‥」
万が一これ異世界転移とかだったらふつう誰かに出会うもんじゃないの?んで、助けてもらってーのそこからの物語が始まるって感じじゃないの?知らんけど。読んだことないし、そういうの。
ところがどこをどう見まわしても、人間どころか動物にさえ出くわさない。
「虫もいないってさ‥」
そう、虫もいない。
とても静かなのだ。
風の渡る音、それになぶられる草や木の葉のすれる音。それしか聞こえてこない。現代日本に暮らしていた天尋が、こんなに音の種類の少ない空間にいるのは初めてなのだ。だからこそ違和感を覚え、空恐ろしさを感じているのだが、自分自身ではそれに気づかない。
「‥何。ホント‥」
不安や恐ろしさ、気持ち悪さといった負の感情が、動きを止めたことによって天尋の中にふつふつと湧き上がってくる。このままじっとしていると涙がこみ上げてきそうだ。不安な気持ちを振り払うように天尋は立ち上がって自転車のハンドルに手をかけた。
このまま、誰にも会わなかったら。そもそもここはどこなのだ。さっきから考えないようにしていたがやはりこれは異常事態だ。‥人工物が一つも見当たらない。土の道はあるが、これがけもの道なのか人が固めたものなのかもわからない。柵も縁石もないし案内の看板などもない。
動物の、いない世界に連れてこられた・・?
そう考えてぞわあっと駆けのぼってきた不安に息が詰まる。
「は、はっ、はっ、」
じわりと涙がにじんでそのせいで余計に息が詰まった。一度不安になるともう恐ろしい怖い、という感情がぶわりと心の中を占めてたまらなくなる。
「う、うぅ、もう、何で、だよぉ‥」
とうとう天尋はうつむいてボロボロと泣きだした。どうすればいいのか。このまま歩いていけば何か変わるのか。それとも歩いても歩いても「何もない」のか。
自分はここで孤独に死ぬのか。
死ぬ、と考えればまた息がひゅっと詰まった。息苦しい、息苦しいのに泣き止めない。
「うう、うっ、うっ」
耳がキーンとする。泣きすぎて頭も痛い。
天尋はそんな状態で下を向き泣き続けながらもとぼとぼと歩いていたから、辺りの異変に気付かなかった。
音が止んでいる。
風さえも止まった。先ほどまで聞こえていた木々の葉擦れの音がぴたりと止まったのだ。
きん、と耳を打つような静寂に天尋は異様な空気を感じ顔を上げた、
先ほどまでずっと遠くまで見渡せていた道の奥に、何やら黒く大きいものが見える。
それはざわざわと揺れ動いていて、しかもだんだんこちらに近づいてきているようだった。それを見た天尋は、身体中にぞっと悪寒が走るのを覚えた。あれが何かはわからない、まだ遠いところにあるし詳しい姿は見えないからわからない。
ただ、気持ち悪い。
あれはきっとよくないものだ。このままでは、あれは自分に追い付いてしまうかもしれない。そうなったら‥
「やだ、やだあああ!」
天尋は自転車を放り出して逆方向に走り出した。身体は結構疲れていたはずだが、恐怖が足を、身体を動かしている。必死に足を動かしてアレから遠ざかろうとするのに、ずずずずというおどろおどろしい音がどんどん自分の近くに寄ってきている気がする。
天尋はもう恐ろしくて後ろを振り向けない。もつれる足を叱咤しながら必死に逃げた。
(やだ、なに、こわい、こわい、お母さん!)
心の中で最近ぎくしゃくしていた母を思わず呼んだ。無論何の助けも応えも返ってこない。
走って走って、疲労が蓄積していた天尋の足がでこぼこした道のでっぱりに取られた。がん、と膝を強打して倒れ込む。じんじんと骨に響くような痛みに顔をしかめ、脚を手でかばっているその時天尋の視界がふっと暗くなった。
いつの間にかずずず、という不気味な音に代わってざわざわという音になっていた。頭の上に大きなものがいる。そこから恐ろしいほどの不快さが滲んできていて、天尋は恐怖でガタガタ震えた。とてもではないが頭をあげられない。
するとずるるっという音ともに黒っぽい縄のようなものが伸びてきて、天尋の足にぐるっと巻き付いた。焼けただれたような熱と痛みが足を襲い、「うああああ!」と叫び声が出た。黒っぽい縄のようなものはそのままぐんっと天尋の身体を持ち上げた。脚一本で身体を吊り上げられ、浮遊感に吐き気がした。それでも咄嗟にスカートを手で覆う。
「ひっ!!」
そして、天尋の身体を吊り上げていたモノを見た。
そこに在ったのは、異形、だった。
全体はまだらに黒と灰色と茶色と、とにかく淀んだような色をしている。その色は全く一定しておらず、そのモノの中でぐるぐると色彩を変化させていてそれも気味が悪い。大きさは3メートルくらいは軽くあるように見え、形としては大きな熊と猿と、それから木を合わせたような不気味な何とも言えぬ形だった。熊の部分と思われる頭には大きな口がついており、それはまさに今大きく開かれていてその中には蠢く赤黒い何本もの触手のようなものが見えた。牙や歯などがないことが余計にグロテスクさを際立たせている。
黒っぽい縄のような触手はゆっくりと天尋をその熊の口部分に運んでいる。
よりにもよって、こんな気持ち悪いものに食われて死ぬの‥?
あまりにも大きな恐怖と絶望で声も出ない。ひっひっとせわしい息が洩れるだけだ。
そして蠢く熊の口の触手の気配を頭で感じたその時、
ダアアアアン!!
鼓膜をびりびり震わせるような大きな音が鳴り響いた。
黒っぽい縄のような触手は、天尋の足から離れ天尋の身体はドサッと地面に放り出された。全身を強く打って息ができない。酸素を求めて、は、は、と口が開く。身体中の骨がバラバラになったような痛みが襲ってくる。
異形の化け物はその大きな体をぶるるる、と震わせている。嫌な空気がずんと濃くなった。そしてその化け物の向こうにまた大きな生き物が見えた。
(翼、竜‥?)
恐竜博などでその模型を何度か見たことのある、プテラノドンのような生き物が羽をバサバサと羽ばたかせている。銀色に光るその身体を見て新たな絶望が天尋の意識を支配した。
(私を、餌を奪い合ってる‥?)
食べられるなら、まだあのプテラノドンの方がいい。あのプテラノドンからは嫌な気持ち悪い空気を感じない。
もう、食べるならひと思いに一気に食べてくれ。
全身を襲う痛みで意識が朦朧とする。そのおぼろげな視界の隅で、何かが金色に光っているのを見たような気がした。
そして天尋は意識を失った。
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BLのR18ですが、同じ世界を舞台にしたお話「森蘭丸の弟異世界に渡る」もあります。よかったら見てやって下さい。
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