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41 対異生物特務庁(イトク)のチームと、酷似次元異生物と
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そしてその頃、再び安西に呼び出され二人はまた小さな会議室にいた。安西は遅れてやってきて、有名珈琲店の袋に入った珈琲を二人の前に置いてくれた。
「お二人ともこの三か月随分頑張ったみたいですね」
にこ、と笑う安西に二人は何といえばいいかわからず、揃って珈琲を口に運んだ。その様子を見て安西はまたふふっと笑った。
「観音寺が何か言ったみたいですが‥まあ、あまり気にしなくていいですよ。あの子はちょっと、口が悪くて厳しいところがありますから。あの子がしょってる事情も事情だからなかなか責めることはできないんですが」
そう言って安西は自分も珈琲を飲んだ。そして持ってきた書類を机の上に広げた。
「あなた方は、今のところ書字士会から出向で対異生物特務庁に所属している形になります。だからチームに参加してもらう。参加するチームは二つ。チームはそれぞれ単独で行動するけど、異生物が大型だったり厄介な時だけあなた方に参加してもらう形になります」
そう言いながら人物ファイルをてきぱきと机の上に並べていく。一チームは四人で組まれているようで、安西は四人ずつのファイルと別に一人のファイルをきれいに並べた。
「まずは第六チーム。本名は明かしませんが、隊員はこちらです。シダは訓練で一緒でしたね」
並べられたファイルを見れば
六隊長にシダ、他にレン、キョウ、ソネとある。
「え、シダさん隊長?」
「新人じゃなかったんですね‥」
声を上げた二人に安西は悪戯っぽく笑った。
「まあね。あなたたちの資質を見極めたい、って言ってた人にはこっそり新人訓練に加わってもらったの。シダの経歴はあなた方が聞いた事と変わりないわ。それから第九チームはこっち」
並べられたファイルには
九隊長にツメ、他にシン、クウ、サキとある。
「ツメさんもか‥」
「ツメは今回、初めての隊長なの。昇進したばかりだけど周りを見る力には長けていると思うわ。ツメもあなた方を見たいと言ってきたから訓練に参加させたのよ」
三か月の間、二人の隊長に見極められていたということだ。今さらながらに二人は背中に嫌なものが走るのを感じた。
「そしてこっちは、もう今更かしらね」
そう言って差し出したファイルに載っていたのは、観音寺よみね。
「基本的にはあなた方と一緒に行動してもらうわ。だからチームとしては六人で動いてもらうことになる。あなたたち用の装備品も今日支給されるはずだから」
そう言って安西は二人の顔を交互に見つめた。
「何か質問でもあるかしら?」
「出動の時は携帯で連絡が来るんですか?」
「そう。対異生物特務庁から専用のモバイルも支給します。腕時計型だから」
〇ップルウォッチ的なやつか。ちょっとかっこいいかも、と真秀はこっそり思った。読真は重ねて質問をした。
「現場での判断や指揮系統は全部隊長に任せる形ですか?」
「基本的には隊長に従ってもらうけど、封殺に関してはあなた達の方が判断できることもあるでしょうから現場ですぐに打合せしてもらう形になるでしょうね。瞬時の判断力が試されるわよ。‥‥うちのメンバーに、大けがを負わせてほしくないしね」
最後の方は安西からは聞いたことのないような低い声で言われた。
衛門は久しぶりにしっかりと自分の次元に出現した。それでも衛門の次元はかなり読真たちの次元と重なっており、自分たちの次元と認識していてもあちこちに酷似次元のものが見える。
精神体をふわりと漂わせ思考の波の中を揺蕩っていると、ふと大きい精神波を感じた。そちらへ注意を向けると、酷似次元での仮の姿のまま佇んでいるものがいた。
<中将>
精神波を飛ばせば、中将は仮の姿のままふっとこちらを見た。
仮の姿の中将は、美しい女の姿をしている。長く美しい黒髪を緩く後ろで束ね、桜色の小袖を纏った姿だ。顔も美しく整っているが、その目は何を映しているかわからないほど昏い。精神体としての中将の生は長く、いつから存在しているのか衛門にもわからないほどだ。自分たちの次元にいるのに、なぜ仮の姿のままで存在しているのだろうか。
<中将、どうしたそんな姿で。‥何を思っている?>
中将は、衛門の精神波を捉えているようだったが、それには答えなかった。この百年ばかり中将はいつもこのような様子で、衛門は不審に思っていた。
だが、このところ手に入った情報を考えているとよくない方の結果に結びついてしまう。それを中将に確認しなくてはと思っていたのだが、なかなか中将の精神波を捉えることができなかったのだ。
中将はふいっと精神体の衛門から注意を反らした。何の応えもない。衛門は少し精神波を強めた。
<中将>
<‥もう、その名で呼ばれ慣れてしもうたわ>
ようやく中将から精神波が返ってきた。何やら疲れたような、投げやりな答えだった。
<‥‥真の名を忘れたのか>
<忘れたな。何者がそれをつけたのか、それすらも忘れた。吾は中将でしかない。衛門よ、お前は真の名を覚えているのか>
衛門は沈黙した。名とは呼ばれて初めて意味を持つものだ。精神体で存在する衛門たちを名で呼び呼ばれることはほとんどない。
呼ばれるのは、千年ほども前に名付けられた「衛門」という名だけ。
沈黙している衛門に、中将はその美しい顔を向けて疲れたように嗤った。
<我らは名も持たず、思考の波に漂って存在する‥何のために存在するのだろうな?衛門>
中将は長い黒髪を自分の手でもてあそんだ。さらさらと髪が空に舞う。
<‥‥この次元に存在することに、意義はあるのか?こんなに近い次元に生きる者たちは、日々生き生きと様々な感情を持って揺れ動いているというのに>
<‥‥中将、何を思っている>
中将は衛門に話しているのではなく、ただ自分の思いを吐き出して整理しているだけのように見えた。
だが、その精神波は決して正常でも健全でもない。どんどんと何か淀んだものが澱となって重なっていくような、そんな波だ。
中将は仮の姿をほどいた。ふわりと大きな精神体になって空に浮かぶ。その形の波を久しぶりに受けて、衛門は中将の精神の強さを改めて感じた。
<衛門、私はね。欲しいものは手に入れようと決めた。そしてその手段も‥もう、わかった。邪魔をするなよ。するなら‥お前の存在を消す事も厭わない>
「お二人ともこの三か月随分頑張ったみたいですね」
にこ、と笑う安西に二人は何といえばいいかわからず、揃って珈琲を口に運んだ。その様子を見て安西はまたふふっと笑った。
「観音寺が何か言ったみたいですが‥まあ、あまり気にしなくていいですよ。あの子はちょっと、口が悪くて厳しいところがありますから。あの子がしょってる事情も事情だからなかなか責めることはできないんですが」
そう言って安西は自分も珈琲を飲んだ。そして持ってきた書類を机の上に広げた。
「あなた方は、今のところ書字士会から出向で対異生物特務庁に所属している形になります。だからチームに参加してもらう。参加するチームは二つ。チームはそれぞれ単独で行動するけど、異生物が大型だったり厄介な時だけあなた方に参加してもらう形になります」
そう言いながら人物ファイルをてきぱきと机の上に並べていく。一チームは四人で組まれているようで、安西は四人ずつのファイルと別に一人のファイルをきれいに並べた。
「まずは第六チーム。本名は明かしませんが、隊員はこちらです。シダは訓練で一緒でしたね」
並べられたファイルを見れば
六隊長にシダ、他にレン、キョウ、ソネとある。
「え、シダさん隊長?」
「新人じゃなかったんですね‥」
声を上げた二人に安西は悪戯っぽく笑った。
「まあね。あなたたちの資質を見極めたい、って言ってた人にはこっそり新人訓練に加わってもらったの。シダの経歴はあなた方が聞いた事と変わりないわ。それから第九チームはこっち」
並べられたファイルには
九隊長にツメ、他にシン、クウ、サキとある。
「ツメさんもか‥」
「ツメは今回、初めての隊長なの。昇進したばかりだけど周りを見る力には長けていると思うわ。ツメもあなた方を見たいと言ってきたから訓練に参加させたのよ」
三か月の間、二人の隊長に見極められていたということだ。今さらながらに二人は背中に嫌なものが走るのを感じた。
「そしてこっちは、もう今更かしらね」
そう言って差し出したファイルに載っていたのは、観音寺よみね。
「基本的にはあなた方と一緒に行動してもらうわ。だからチームとしては六人で動いてもらうことになる。あなたたち用の装備品も今日支給されるはずだから」
そう言って安西は二人の顔を交互に見つめた。
「何か質問でもあるかしら?」
「出動の時は携帯で連絡が来るんですか?」
「そう。対異生物特務庁から専用のモバイルも支給します。腕時計型だから」
〇ップルウォッチ的なやつか。ちょっとかっこいいかも、と真秀はこっそり思った。読真は重ねて質問をした。
「現場での判断や指揮系統は全部隊長に任せる形ですか?」
「基本的には隊長に従ってもらうけど、封殺に関してはあなた達の方が判断できることもあるでしょうから現場ですぐに打合せしてもらう形になるでしょうね。瞬時の判断力が試されるわよ。‥‥うちのメンバーに、大けがを負わせてほしくないしね」
最後の方は安西からは聞いたことのないような低い声で言われた。
衛門は久しぶりにしっかりと自分の次元に出現した。それでも衛門の次元はかなり読真たちの次元と重なっており、自分たちの次元と認識していてもあちこちに酷似次元のものが見える。
精神体をふわりと漂わせ思考の波の中を揺蕩っていると、ふと大きい精神波を感じた。そちらへ注意を向けると、酷似次元での仮の姿のまま佇んでいるものがいた。
<中将>
精神波を飛ばせば、中将は仮の姿のままふっとこちらを見た。
仮の姿の中将は、美しい女の姿をしている。長く美しい黒髪を緩く後ろで束ね、桜色の小袖を纏った姿だ。顔も美しく整っているが、その目は何を映しているかわからないほど昏い。精神体としての中将の生は長く、いつから存在しているのか衛門にもわからないほどだ。自分たちの次元にいるのに、なぜ仮の姿のままで存在しているのだろうか。
<中将、どうしたそんな姿で。‥何を思っている?>
中将は、衛門の精神波を捉えているようだったが、それには答えなかった。この百年ばかり中将はいつもこのような様子で、衛門は不審に思っていた。
だが、このところ手に入った情報を考えているとよくない方の結果に結びついてしまう。それを中将に確認しなくてはと思っていたのだが、なかなか中将の精神波を捉えることができなかったのだ。
中将はふいっと精神体の衛門から注意を反らした。何の応えもない。衛門は少し精神波を強めた。
<中将>
<‥もう、その名で呼ばれ慣れてしもうたわ>
ようやく中将から精神波が返ってきた。何やら疲れたような、投げやりな答えだった。
<‥‥真の名を忘れたのか>
<忘れたな。何者がそれをつけたのか、それすらも忘れた。吾は中将でしかない。衛門よ、お前は真の名を覚えているのか>
衛門は沈黙した。名とは呼ばれて初めて意味を持つものだ。精神体で存在する衛門たちを名で呼び呼ばれることはほとんどない。
呼ばれるのは、千年ほども前に名付けられた「衛門」という名だけ。
沈黙している衛門に、中将はその美しい顔を向けて疲れたように嗤った。
<我らは名も持たず、思考の波に漂って存在する‥何のために存在するのだろうな?衛門>
中将は長い黒髪を自分の手でもてあそんだ。さらさらと髪が空に舞う。
<‥‥この次元に存在することに、意義はあるのか?こんなに近い次元に生きる者たちは、日々生き生きと様々な感情を持って揺れ動いているというのに>
<‥‥中将、何を思っている>
中将は衛門に話しているのではなく、ただ自分の思いを吐き出して整理しているだけのように見えた。
だが、その精神波は決して正常でも健全でもない。どんどんと何か淀んだものが澱となって重なっていくような、そんな波だ。
中将は仮の姿をほどいた。ふわりと大きな精神体になって空に浮かぶ。その形の波を久しぶりに受けて、衛門は中将の精神の強さを改めて感じた。
<衛門、私はね。欲しいものは手に入れようと決めた。そしてその手段も‥もう、わかった。邪魔をするなよ。するなら‥お前の存在を消す事も厭わない>
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