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27 鹿野山森林公園での闘い 2
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少し大きめの縫い針ほどのそれが、読真の身体一面に突き立った。思わず手を上げて顔をかばったせいで、顔面を刺されるのは避けられたが痺れるような痛みが全身を駆け抜ける。
「う、あ‥」
読真はがくりのその場に膝をついた。その拍子に膝辺りに刺さっていた針が余計に押し込まれ、膝に激痛が走る。
「読真!!」
封字陣を張り、祈念を続けていた真秀が読真の姿を見て立ち上がった。祈念され形を作りつつあった陣がぶわっと霧散した。
読真は膝をついたその次の瞬間、ぐらりと身体を倒してしまった。じんじんとした疼痛と痺れるような激痛が交互に身体を襲っている。腕に刺さっている針を左手で抜こうとするが、うまく左手が動かず抜くことができない。そうしているうちに痛みは痺れに少しずつ取って代わられ、身体が動かなくなる。
「‥あ、くっ」
時間にして一分ほどだろうか、読真が無数に突き立った針に苦しんでいるとその針がふわっと黒い靄に変わって霧散した。だが全身を覆う痺れは全く引かず、字柄身刀を握る右手もうまく動かなくなってきた。必死に力を込めて何とか手放さないようにしているが、指先が震える。
「読真、しっかりしろ!意識はあるか!?」
「‥あ、る‥」
「くそっ」
祈念を切らしてしまったので、封字陣は完成しなかった。仕方なくそのまま真秀は読真の傍に駆け寄った。読真の身体を見れば、刺さった痕などは残っていないが身体中を小刻みに振るわせて苦しそうに荒い息を吐いている状態だった。
読真に手をかけようとした瞬間、ざざざざっと異生物たちが集まってこちらの方へ移動してきた。どう見ても、複数の個体が何らかの意図を持って動いているように見える。真秀も異生物が連携を取ることはないと教えられてきたので、その動きを見て驚いた。
そして再び異生物が二人を囲うように整列し、一斉に針を放ってきた。
咄嗟に真秀は読真の身体を自分の身体で覆い、かばった。真秀の身体に無数の針が突き立てられる。物理的な刺さった痛みと内腑を抉られるような熱い痛みが真秀を襲う。
「ぐあ!」
読真の全身をかばえたわけではなく、読真の身体にも針は突き立ち低い呻き声が出ている。
針はしばらくすると消えるが、身体中に痺れと鈍い痛みが残り上手く身体を動かせない。
真秀は身体の中を走る違和感と痺れが、異生物の発する瘴気から来ているのではないかと考えた。だとすれば。
(もう一度、俺と読真を中心として少しデカい砕躯浄空域の陣を張れば‥)
痺れも少しマシになり、時間が稼げるかもしれない。一度バラバラになってうろうろしていた異生物が、また整列しようとしているように見える。読真は必死に字柄身刀を振ろうとしているが、既に身刀は消えていた。
真秀は震える手で軸先の針につぷりと親指を刺し、闘筆に血を吸わせた。
「砕躯浄空域!」
血封字を書いて何とか背中から弓字幹をとり、空に向かって構えた。弓柄の辺りに向かって祈念すれば血矢が形成される。濃い紅の血矢がくっきりと形成されたところで真秀はそれを空に向けて引き絞り、射った。
血矢はひょおっと音を立てて空を切り飛んでいった。それを見ながら必死に祈念し続ける。
血矢が消え、ぶわりと封字陣が形成された。小さな個体の異生物は弾かれたり身体から靄を出したりして真秀たちから離れた。
浄化の部分を特に意識しながら祈念する。すると少し身体が軽くなったような気がした。振りむけば、読真も身体を起こしている。
「読真、大丈夫か⁉」
「はい、助かり、ました‥あの針は、瘴気の、塊なんですね」
「多分、そうだと思う。もう動けるか?」
そう問われて読真は字柄を握り直し、何とか立ち上がった。
「何とか。‥厄介ですね‥エネルギーを削るか動きを止めるか‥とりあえず動きを止める方の闘字の方が気力が少なくて済みますから、それを血闘字で書いてみます」
真秀は祈念を続けながら答えた。
「わかった、俺はまだ浄化の方を祈念しておく、異生物の動きが止まったらすぐに広域陣を張り直す」
「了解」
読真は字柄の刃に親指を滑らせ、闘筆に血を吸わせた。
「必中央身動制!」
血闘字が流麗に空に書かれ、読真の祈念により字柄にのって赤い刀身が現れて字柄血刀になる。
字柄血刀を祈念しながら読真は異生物の群れに向かって振り抜いた。赤い血闘字がぶわりと広がり、異生物をからめとっていく。からめとられた異生物たちは震えながらその場に固められた。数が多いので読真はよろけながらも異生物に向かっていき字柄血刀を振り下ろしていった。次々に異生物たちがからめとられ、ほとんどの異生物が動きを止めようとしていた。
最初の異生物に読真の血闘字が絡みついたのを確認して、新たに真秀は広域封字陣を張り始めた。これも確実性を期して血封字で張っていく。
「総域留置横拡陣!」
弓柄の辺りへ祈念をすれば、血矢が形成されていく。だが、先ほどの封字よりは時間がかかる。この陣は血矢の形成にも封字陣の形成にも時間がかかるのが難点だ。
「う、あ‥」
読真はがくりのその場に膝をついた。その拍子に膝辺りに刺さっていた針が余計に押し込まれ、膝に激痛が走る。
「読真!!」
封字陣を張り、祈念を続けていた真秀が読真の姿を見て立ち上がった。祈念され形を作りつつあった陣がぶわっと霧散した。
読真は膝をついたその次の瞬間、ぐらりと身体を倒してしまった。じんじんとした疼痛と痺れるような激痛が交互に身体を襲っている。腕に刺さっている針を左手で抜こうとするが、うまく左手が動かず抜くことができない。そうしているうちに痛みは痺れに少しずつ取って代わられ、身体が動かなくなる。
「‥あ、くっ」
時間にして一分ほどだろうか、読真が無数に突き立った針に苦しんでいるとその針がふわっと黒い靄に変わって霧散した。だが全身を覆う痺れは全く引かず、字柄身刀を握る右手もうまく動かなくなってきた。必死に力を込めて何とか手放さないようにしているが、指先が震える。
「読真、しっかりしろ!意識はあるか!?」
「‥あ、る‥」
「くそっ」
祈念を切らしてしまったので、封字陣は完成しなかった。仕方なくそのまま真秀は読真の傍に駆け寄った。読真の身体を見れば、刺さった痕などは残っていないが身体中を小刻みに振るわせて苦しそうに荒い息を吐いている状態だった。
読真に手をかけようとした瞬間、ざざざざっと異生物たちが集まってこちらの方へ移動してきた。どう見ても、複数の個体が何らかの意図を持って動いているように見える。真秀も異生物が連携を取ることはないと教えられてきたので、その動きを見て驚いた。
そして再び異生物が二人を囲うように整列し、一斉に針を放ってきた。
咄嗟に真秀は読真の身体を自分の身体で覆い、かばった。真秀の身体に無数の針が突き立てられる。物理的な刺さった痛みと内腑を抉られるような熱い痛みが真秀を襲う。
「ぐあ!」
読真の全身をかばえたわけではなく、読真の身体にも針は突き立ち低い呻き声が出ている。
針はしばらくすると消えるが、身体中に痺れと鈍い痛みが残り上手く身体を動かせない。
真秀は身体の中を走る違和感と痺れが、異生物の発する瘴気から来ているのではないかと考えた。だとすれば。
(もう一度、俺と読真を中心として少しデカい砕躯浄空域の陣を張れば‥)
痺れも少しマシになり、時間が稼げるかもしれない。一度バラバラになってうろうろしていた異生物が、また整列しようとしているように見える。読真は必死に字柄身刀を振ろうとしているが、既に身刀は消えていた。
真秀は震える手で軸先の針につぷりと親指を刺し、闘筆に血を吸わせた。
「砕躯浄空域!」
血封字を書いて何とか背中から弓字幹をとり、空に向かって構えた。弓柄の辺りに向かって祈念すれば血矢が形成される。濃い紅の血矢がくっきりと形成されたところで真秀はそれを空に向けて引き絞り、射った。
血矢はひょおっと音を立てて空を切り飛んでいった。それを見ながら必死に祈念し続ける。
血矢が消え、ぶわりと封字陣が形成された。小さな個体の異生物は弾かれたり身体から靄を出したりして真秀たちから離れた。
浄化の部分を特に意識しながら祈念する。すると少し身体が軽くなったような気がした。振りむけば、読真も身体を起こしている。
「読真、大丈夫か⁉」
「はい、助かり、ました‥あの針は、瘴気の、塊なんですね」
「多分、そうだと思う。もう動けるか?」
そう問われて読真は字柄を握り直し、何とか立ち上がった。
「何とか。‥厄介ですね‥エネルギーを削るか動きを止めるか‥とりあえず動きを止める方の闘字の方が気力が少なくて済みますから、それを血闘字で書いてみます」
真秀は祈念を続けながら答えた。
「わかった、俺はまだ浄化の方を祈念しておく、異生物の動きが止まったらすぐに広域陣を張り直す」
「了解」
読真は字柄の刃に親指を滑らせ、闘筆に血を吸わせた。
「必中央身動制!」
血闘字が流麗に空に書かれ、読真の祈念により字柄にのって赤い刀身が現れて字柄血刀になる。
字柄血刀を祈念しながら読真は異生物の群れに向かって振り抜いた。赤い血闘字がぶわりと広がり、異生物をからめとっていく。からめとられた異生物たちは震えながらその場に固められた。数が多いので読真はよろけながらも異生物に向かっていき字柄血刀を振り下ろしていった。次々に異生物たちがからめとられ、ほとんどの異生物が動きを止めようとしていた。
最初の異生物に読真の血闘字が絡みついたのを確認して、新たに真秀は広域封字陣を張り始めた。これも確実性を期して血封字で張っていく。
「総域留置横拡陣!」
弓柄の辺りへ祈念をすれば、血矢が形成されていく。だが、先ほどの封字よりは時間がかかる。この陣は血矢の形成にも封字陣の形成にも時間がかかるのが難点だ。
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