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21 秘密

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浴場の方で、何か音がした気がする。
確か今は真秀が入っているはずだ。‥何があったとも思えないが、ふと心配になって様子を見に行ってみた。
字通あざとり?」
がらりと風呂場に足を踏み入れる。外に向けて開放的に作られている風呂場だが、その横の壁が大破しており、その下に裸で真秀が転がっていた。
「字通!!」
駆け寄って抱き起せば、ぐっと顔を顰める。意識はありそうだとほっとしながら、呼びかけた。
「字通、わかりますか?何があったんです?字通!」
真秀はうっすらと目を開けた。読真の顔を確認して、また目をつぶる。
「字通!」
「‥‥大丈、夫、安心した、だけ‥」
「何があったんですか?」
真秀は目をつぶったまま、どう言おうかと考えた。自分が混ざりものであることはまだ読真には知られたくない。だが、衛門と契約をしたことは遅かれ早かればれてしまうだろう。その部分は正直に言った方がいいかもしれない。
「‥衛門が、来て」
読真はぎっと厳しい目をした。
「衛門が?ここに?」
「ああ‥契約、をした」
契約、という言葉に目を剥いて、読真は抱き起こしていた真秀の身体を揺さぶった。
「何、何を契約したんですか⁉字通!」
揺さぶられると全身打撲した身体が軋んで痛む。読真の腕を弱々しくつかんで制した。
「いて、いてえって‥身体全体打ってっからさ‥」
その真秀の顔を見てはっと揺さぶるのをやめ、そっと抱き起すだけにする。そのまま真秀の腕の下に肩を入れ、助け起こしながら立たせた。こんなところにいつまでも素っ裸で転がしておくわけにもいかない。脱衣所まで運んで着替えを手伝う。あちこち打撲しているようで、身動きするたびに呻き声を出していた。
「明日、病院に行きましょう」
「いや、‥多分一晩休めば大丈夫だから」
ぎろりと読真は真秀を睨んだ。こいつの大丈夫は当てにならない。
「病院に行きます。その前に契約の事を教えてください」
水を飲んでひと息ついたらしい真秀は、言いづらそうに読真の顔を伺った。読真は真秀の身体を気遣いながらも、絶対に聞かせてもらうという顔をしている。
はあ、とため息をついて話し始めた。
「‥なんか、衛門は俺の事が面白いっぽくて‥居場所がわかる契約と衛門が呼べば俺がすぐに衛門のところに行けるように、っていう感じだったな。あとはおいおい、って言われたからまた追加されるのかも」
その内容を聞いて、読真は考え込んだ。衛門とはそこまで長い付き合いではないが、基本的にその時の気分で動く酷似次元異生物ようかいだ。面白い、という理由は確かに衛門が言いそうではある。だが、真秀の居場所を掴んでおきたい、とでもいうようなこの内容はどういう事だろうか。
読真はじっと真秀の顔を見た。水を飲んだ真秀は、壁に背中をもたせかけてじっと目をつぶっている。‥わざと目を合わせないようにしているのか?
「字通」
「‥ん?」
「何か、俺に隠していませんか」
「‥何かって、何を?」
「それを聞いています」
読真はじっと真秀を見つめ続ける。その読真の視線を、真秀は目をつぶっているのに痛いほど感じていた。
「異生物の傷が、治りやすいことと関連がありますか?」
鋭い。
あまり気にしていないのかと思っていたが、ちゃんと読真は覚えていて心にとめておいたようだ。真秀は一人で病院に行くべきだったと後悔した。
だが、もう遅い。
「‥‥読真、俺との組、解消したいとか言わないでくれるか」
そう言う真秀に、読真はふっと苦笑いをした。
「俺の方がずっと組相手が見つからなかった不人気な闘書士です。真秀から断られない限り、組の解消はしません」
読真の答えを聞いて、真秀はタオルを顔にかけてガシガシと乱暴に拭った。そして意を決したようにタオルを外し、まっすぐ読真の顔を見る。

「読真。俺、ものなんだ。十歳の時から」

もの‥?」
聞いたことのない単語に、読真は首をかしげる。その様子を見ながら、真秀は言葉を続けた。
「さっき衛門に探られてわかったけど‥俺の身体には一割くらい
「何がですか?」
真秀はごく、と唾を呑み込んでからいった。


「異生物だ」


読真は一瞬、何を言われたか理解ができなかった。

異生物、が、いる‥?
そんなことがあり得るのか‥?

驚きと戸惑いで言葉を発することができず固まっている読真を見ながら、真秀は淡々と語り始めた。

「俺が十歳の時、両親が死んだことは知ってるよな。書士道具を何も持たないまま両親は『闘封』として戦って血闘字を使って封殺した。‥だが、異生物のかけらが封殺されずにちぎれて残ったんだ」

読真はただ黙って聞いている。
「その時の場所は公園で、周りには子どもや家族連れがたくさんいてさ。‥だからおれの親は命と引き換えにして封殺を仕掛けたんだけど、その異生物のかけらが子どもに飛びかかろうとしたんだ」
真秀はその時のことを思い出す。無我夢中だった。自分という我が子を置き捨てにしてまで、両親が封殺した異生物をそのままにはしておけなかった。だが自分には何のすべもなかった。
「いまなら莫迦だなって思うけどさ‥俺はその時夢中で他にやりようがなかった」
十歳の真秀は、手が爛れるのも構わず異生物をひっつかみ、

吞み込んだ。


読真は身動きもできず、真秀の話を聞いていた。

「呑み込んだ後は意識がなくなって‥気づいたら病院だったんだ。目が覚めた時には五日以上が経ってて、親の葬式にも参加できなかった」

「異生物を呑み込んだこと、誰にも言えなかった。病院の検査でもそれはバレなくて。俺はどうしていいかわからなかったけど、もう隠すしかないって思った」

「でも、身体に不調が現れたことはないんだ。逆に異生物にやられた傷は異様に治りが早い。‥俺の中の異生物が何か作用しているのかもしれないけど、正直判らない」

「それが衛門にバレててさ。‥居場所を掴んでおきたいって、契約させられたんだよ。‥でも衛門と契約することで異生物の気配を纏うようになってるから、のはバレにくくなったと思う」
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