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一章
16 新しい闘封字
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闘字や封字は、それぞれ書士が自分で考えて作る。自分が何をイメージできるかが重要だからだ。例えば家族や友人などの名前に使われている字などは、どうしてもその人を連想してしまうので闘封字には向かない。地名や施設名なども同じだ。だから人によって使いやすい字は変わってくる。
例えば、読真も真秀も「真」という字が自分の名前に入っているからその字は使えない。その字を使うとどうしても自分自身に影響を及ぼしてしまうからだ。
だから闘封字を考える時は、異生物に対してどのように働きかけたいのかを明確にイメージできる字を考える必要がある。
読真は自分が今使っている闘字をメモ用紙にさらさらと書き出していった。闘筆で書かれた字でなければほとんど祈念はのらないので、浮かび上がることはない。
「俺が確実に使えるのは、対象の動きを制御する『動制』、ほぼ確実に対象の動きを止める『必中央身動制』、対象の動きを制限して封字陣内に誘導する『誘央操陣動制』、対象の生命エネルギーを削る『削体玉緒』、それからまだあまり確実じゃない闘字の『鋼網削刃線』。これは広範囲の対象のエネルギーを削るんだけど、まだ練度が甘いですね」
そう言ってペンを止めた。ふむ、と真秀も書き出された闘字を眺める。
「文字数が多いと、素早さが欠けてこないか?」
読真はくいと眼鏡を上げて答えた。
「その通り。だから一番よく使うのはやっぱり『動制』と『削体玉緒』になりますね‥。もっと強い字をイメージできればいいんですが」
ため息とともにペンをとんとんと突いている。自分でも歯がゆいところがあるようだ。
だがそれは真秀も同じだった。読真からペンを引き取って自分の封字をその下に書き込んでいく。
「多分俺は読真よりずっと練度が低い。‥俺は二文字がなくてよく使っているのは『尖鋭貫躯』だ。効能としては読真の『動制』に近いと思う。あとは動きだけを封じる『塊置総躯』、広域に封字陣を展開する『総域留置横拡陣』、空中にいる対象を陣の地面に落とす『全宙躯体落陣』それから小さくて数が少ない時に手早く封殺するための『縄縛導滅』だな。‥この中だと『全宙躯体落陣』は練度がかなり低い。それから『総域留置横拡陣』は封字昇結までの時間がかかる」
読真は真秀が書き出した封字を見ながら、ぎゅっと眉を寄せた。
「それぞれに課題があるってことですね‥」
そう言うと、また真秀からペンを受け取り、自分の闘字の方に新しいものを書きつけた。
「先日の錬地での戦いで、欲しいなと思ったのが対象を捉えて一度遠くにやる闘字です。時間稼ぎができるものが欲しい。‥確実に動きを縛れればその方がいいが‥そっちは難しい気がします」
メモ用紙に新しく足された『穿刺放擲』という言葉を見て、真秀はうなずいた。
「放擲、って遠くに投げるとかいう意味だよな‥。普段使わないような言葉だが、イメージできそうか?」
「やってみないとわかりません。‥無理そうならまた別のものを考えます。とにかく実践で試してみて、身刀へののり方や効果も見ておきたい」
うんうんと頷きながら、真秀も顎に手を当てて考え込んでいる。その様子を見て読真は訊いた。
「字通は何か考えますか?」
思案顔を崩さぬまま、真秀は腕組みをした。
「俺は、広域の封字をしっかり練度を上げるのと‥異生物から発生する瘴気を抑えられるような封字が欲しいかな。広域の封字を祈念している時、瘴気に悩まされたくない」
なるほど、と同意して読真は立ち上がった。
「とにかくいろいろと試してみましょう。やってみないとわからないこともありますし。‥ここで試してから錬地でもう一度鍛錬してもいいですしね。来月には謹慎も解けますし」
「そうか、謹慎は8月いっぱいだったっけな」
真秀がほっとした様子で同意した。読真はメモ用紙などを一度片付けながら台所へ向かった。
「じゃあ、おれは晩飯の支度をするんで、字通は風呂場の掃除とお湯張りお願いします」
「了解!何作んの?」
「‥合宿と言えば、カレーですよね」
真秀はわっ!と歓声を上げた。
「やった!俺カレー好き!お家カレー好きなんだよ~」
読真はその言葉を聞いてぴくりと肩を震わせた。
作ろうと思っていたのはトマトベースのインドカレーなのだが。真秀の想像しているカレーとは違うのだろうな、と思ったのだ。
ま、いいか。
読真は何も言わずに当初の予定通り、インドカレーを作ることにした。
大きめの風呂場を洗って使えるまでにするのはなかなかの重労働だった。暑いし、お湯を張るのはたまにでもいいかもしれない。だが一回目はきちんと洗うべきだろう、と思って真秀は丁寧に掃除をした。綺麗になってから大きめの湯殿にお湯を張る。これはタイマーもついているのでスイッチを入れるだけだ。
作業を終えて、台所の方へ向かうとカレーのような、だがカレーではないような匂いがしてきた。あれ?カレーじゃないのか?と訝しみながら台所に入ると、読真がかき混ぜている鍋には赤いものが入っていた。台の上には野菜サラダもすでに載っていた。
「え、カレーじゃねえの?」
「カレーです。トマトベースのインドカレーですけど」
真秀は目を丸くして読真を見た。
「インドカレーって、家で作れるんだ‥」
「これは比較的簡単ですよ。食べましょうか」
はっとして真秀は読真に確認した。
「待ってこれってめっちゃ辛い?おれ激辛とかは苦手なんだけど」
「‥常識的な量の香辛量しか入っていません」
あからさまに安心した顔をして、真秀は皿をテーブルに運んだ。
そして、明日の朝まで持たせようと読真が多めに作っておいたインドカレーは、余ることなく全て真秀の胃の中へ収まったのだった。
「うま!うまいよ読真!やったわ俺この合宿めっちゃ楽しみになってきた!」
「字通、食べ過ぎじゃないですか?‥お前がそんなに食べるなんて考えてなかったから、すぐに食材なくなりそうですよ‥」
大口でバクバクカレーをかっ込みながら、真秀は言った。
「だいじょぶ、そん時は俺買い出しに行ってくるから!」
「‥‥食ってる時に喋らないでくださいよ、もう・・」
例えば、読真も真秀も「真」という字が自分の名前に入っているからその字は使えない。その字を使うとどうしても自分自身に影響を及ぼしてしまうからだ。
だから闘封字を考える時は、異生物に対してどのように働きかけたいのかを明確にイメージできる字を考える必要がある。
読真は自分が今使っている闘字をメモ用紙にさらさらと書き出していった。闘筆で書かれた字でなければほとんど祈念はのらないので、浮かび上がることはない。
「俺が確実に使えるのは、対象の動きを制御する『動制』、ほぼ確実に対象の動きを止める『必中央身動制』、対象の動きを制限して封字陣内に誘導する『誘央操陣動制』、対象の生命エネルギーを削る『削体玉緒』、それからまだあまり確実じゃない闘字の『鋼網削刃線』。これは広範囲の対象のエネルギーを削るんだけど、まだ練度が甘いですね」
そう言ってペンを止めた。ふむ、と真秀も書き出された闘字を眺める。
「文字数が多いと、素早さが欠けてこないか?」
読真はくいと眼鏡を上げて答えた。
「その通り。だから一番よく使うのはやっぱり『動制』と『削体玉緒』になりますね‥。もっと強い字をイメージできればいいんですが」
ため息とともにペンをとんとんと突いている。自分でも歯がゆいところがあるようだ。
だがそれは真秀も同じだった。読真からペンを引き取って自分の封字をその下に書き込んでいく。
「多分俺は読真よりずっと練度が低い。‥俺は二文字がなくてよく使っているのは『尖鋭貫躯』だ。効能としては読真の『動制』に近いと思う。あとは動きだけを封じる『塊置総躯』、広域に封字陣を展開する『総域留置横拡陣』、空中にいる対象を陣の地面に落とす『全宙躯体落陣』それから小さくて数が少ない時に手早く封殺するための『縄縛導滅』だな。‥この中だと『全宙躯体落陣』は練度がかなり低い。それから『総域留置横拡陣』は封字昇結までの時間がかかる」
読真は真秀が書き出した封字を見ながら、ぎゅっと眉を寄せた。
「それぞれに課題があるってことですね‥」
そう言うと、また真秀からペンを受け取り、自分の闘字の方に新しいものを書きつけた。
「先日の錬地での戦いで、欲しいなと思ったのが対象を捉えて一度遠くにやる闘字です。時間稼ぎができるものが欲しい。‥確実に動きを縛れればその方がいいが‥そっちは難しい気がします」
メモ用紙に新しく足された『穿刺放擲』という言葉を見て、真秀はうなずいた。
「放擲、って遠くに投げるとかいう意味だよな‥。普段使わないような言葉だが、イメージできそうか?」
「やってみないとわかりません。‥無理そうならまた別のものを考えます。とにかく実践で試してみて、身刀へののり方や効果も見ておきたい」
うんうんと頷きながら、真秀も顎に手を当てて考え込んでいる。その様子を見て読真は訊いた。
「字通は何か考えますか?」
思案顔を崩さぬまま、真秀は腕組みをした。
「俺は、広域の封字をしっかり練度を上げるのと‥異生物から発生する瘴気を抑えられるような封字が欲しいかな。広域の封字を祈念している時、瘴気に悩まされたくない」
なるほど、と同意して読真は立ち上がった。
「とにかくいろいろと試してみましょう。やってみないとわからないこともありますし。‥ここで試してから錬地でもう一度鍛錬してもいいですしね。来月には謹慎も解けますし」
「そうか、謹慎は8月いっぱいだったっけな」
真秀がほっとした様子で同意した。読真はメモ用紙などを一度片付けながら台所へ向かった。
「じゃあ、おれは晩飯の支度をするんで、字通は風呂場の掃除とお湯張りお願いします」
「了解!何作んの?」
「‥合宿と言えば、カレーですよね」
真秀はわっ!と歓声を上げた。
「やった!俺カレー好き!お家カレー好きなんだよ~」
読真はその言葉を聞いてぴくりと肩を震わせた。
作ろうと思っていたのはトマトベースのインドカレーなのだが。真秀の想像しているカレーとは違うのだろうな、と思ったのだ。
ま、いいか。
読真は何も言わずに当初の予定通り、インドカレーを作ることにした。
大きめの風呂場を洗って使えるまでにするのはなかなかの重労働だった。暑いし、お湯を張るのはたまにでもいいかもしれない。だが一回目はきちんと洗うべきだろう、と思って真秀は丁寧に掃除をした。綺麗になってから大きめの湯殿にお湯を張る。これはタイマーもついているのでスイッチを入れるだけだ。
作業を終えて、台所の方へ向かうとカレーのような、だがカレーではないような匂いがしてきた。あれ?カレーじゃないのか?と訝しみながら台所に入ると、読真がかき混ぜている鍋には赤いものが入っていた。台の上には野菜サラダもすでに載っていた。
「え、カレーじゃねえの?」
「カレーです。トマトベースのインドカレーですけど」
真秀は目を丸くして読真を見た。
「インドカレーって、家で作れるんだ‥」
「これは比較的簡単ですよ。食べましょうか」
はっとして真秀は読真に確認した。
「待ってこれってめっちゃ辛い?おれ激辛とかは苦手なんだけど」
「‥常識的な量の香辛量しか入っていません」
あからさまに安心した顔をして、真秀は皿をテーブルに運んだ。
そして、明日の朝まで持たせようと読真が多めに作っておいたインドカレーは、余ることなく全て真秀の胃の中へ収まったのだった。
「うま!うまいよ読真!やったわ俺この合宿めっちゃ楽しみになってきた!」
「字通、食べ過ぎじゃないですか?‥お前がそんなに食べるなんて考えてなかったから、すぐに食材なくなりそうですよ‥」
大口でバクバクカレーをかっ込みながら、真秀は言った。
「だいじょぶ、そん時は俺買い出しに行ってくるから!」
「‥‥食ってる時に喋らないでくださいよ、もう・・」
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