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1 対 異生物戦
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「早く!」
流文字読真は苛立った様子で闘筆の先を舐めて闘字を空に書き、異生物に投げつけた。闘字はふわりとほどけて大きな異生物の周りに浮かび上がる。
『動制!!』
読真は闘字を読んで、祈念する。身体からざわあっと力を吸われるのを感じる。と、ともにその力は闘字にのってぐわっと異生物に絡みついた。巨大な異生物の身体がぎしりとからめとられ、動きが止まる。
読真は祈念を続けながら異生物の動きを留め続ける。体力がギリギリと削られるのを感じる。渾身の力で祈念しているのに、この異生物はなかなか力が強く大人しくならない。
だが今ここにいる闘書士は自分だけだ。自分が何としても抑えておかなければならない。必死で体力を削りながら異生物を抑えているというのに、この封書士はどういうことだ。まったく封字を書けていない。何とか封書士の方に首を向けてみれば、まだ半分ほどしか出来上がっていない。
「くっそ‥」
これはもう一度直接攻撃を仕掛けるしかない。‥体力がない時に使いたくはなかったが、『血闘字』を使うしかないだろう。
闘書士が闘う場合、普段使われるのは『身闘字』だ。『身闘字』は体液で賄える。ほとんどの場合、闘筆の穂先を唾液で湿らせ闘字を書く。体力はもちろん唾液を通して闘字に載るが、そこまで削られることはない。だから何度でも書ける。
しかし、書士の血液によって書かれる『血闘字』は、その威力もすさまじいが体力ののり方は『身闘字』の五倍ほどにも跳ね上がる。ハイリスク・ハイリターンの闘字なのだ。
だが、こうなってしまっては迷っている時間はない。そもそもあの封書士には体力がなさそうだ。今も自分の身を守ることもできず、ただ封字陣を書くことだけで精一杯になっている。しかも遅い。
あの封書士をかばって少しでも時間を稼ぎ、ダメージを与えようと思うなら、『血闘字』を使うしかない。
読真は、腰に差していた『字柄』を取り出した。『字柄』は刀の鍔と柄のようなものだが、刀身はついていない。本来刀身があるところには、カッターの刃くらいの僅かな刃がついているだけだ。読真はその刃で軽く親指を引き、血を滴らせた。左手に持っていた闘筆にその血を吸わせ、もう一度闘字を書き出す。
「『必中央身動制!!』」
祈念とともに文字が回る。そこに『字柄』をかざせば本来刀身があるべき場所にすううっと赤い刀身が現れた。
「はやく『封字』陣を組め!!」
そう封書士に叫びながら異生物に向かっていく。自分をからめとっていた闘字が消え、動きの軽くなった異生物が大きな爪で読真に襲いかかってきた。読真はギリギリでその爪を左側に身を躱して避けたが、一本の爪が読真の左足を掠った。
「ぐ‥」
だが怯まずそのまま『字柄血刀』で斬りかかる。今回の異生物は高さ3メートルはあろうかという大物だ。しかし最初に出会ったときにはこの半分くらいしかなかった。だからあの封書士も油断したのだろう。‥この異生物は急速にこちらのエネルギーを吸い取るタイプであることが見抜けなかった読真にも落ち度はあった。
異生物は大きな身体の割に機敏な動きで読真の刀を避けた。一度大きく飛びしさって体勢を整える。祈念し続けながら刀身を振るうのはかなり体力を削られる。腕がびりびりと震えるのを感じながらも、祈念を続け刀身に力を送る。
異生物は読真の方ではなく、『封字』を祈念している封書士の方に向き直った。こちらの獲物の方が動かない、と気づいたようだ。
(まずい)
地を蹴って封書士と異生物の間に身体を滑り込ませる。異生物の足下にスライディングしながらすり抜けざまに『字柄血刀』を振り抜いた。ざくう、と異生物の本体が斬れた音がした。その瞬間、読真の体力がごっそりえぐられる。
「くうっ」
額に脂汗が出る。このままでは『字柄血刀』を振れるのはせいぜい後二回だ。『封字』は間に合うのか。
「おいまだか!」
思わず苛ついて叫ぶ。ようやく封書士が待ちかねていた言葉を放った。
「ふ、『封字昇結』!」
「やっとか」
男の足下に『封字』陣が完成していた。読真はもう一度親指から闘筆に血を吸わせ『血闘字』を書いた。
「『誘央操陣動制!』」
『字柄血刀』に闘字を纏わせ、祈念しながらもう一度異生物に斬りかかる。動きが少し鈍くなっていた異生物はざくりと後ろから大きく斬られ<あおああああああ>と異声を発した。異声から生まれた振動で辺りの木々や建物がぎしぎしと崩れる。
「くそ、『誘央操陣動制!』」
もう一度全体力を載せて祈念する。身体を斬られた異生物はゆっくりと『封字』陣の方へ移動し始めた。封書士も祈念している。
異生物の身体全体が陣の上にのった時、陣がかっと大きく光った。
読真と封書士が一斉に叫ぶ。
「「闘封!!」」
ぐおおおっと二人の身体から念が飛び出し異生物の身体を縛る。異生物が苦しみもがいているのが身体を通じて伝わってくる。倒れそうになるのをこらえながら祈念し続ける。
封書士が叫んだ。
「封殺!!」
ふぉん!という音とともに異生物が消えた。陣もすっと掻き消える。
読真はぐったりとその場に倒れ込んだ。
三時間余りの死闘だった。
流文字読真は苛立った様子で闘筆の先を舐めて闘字を空に書き、異生物に投げつけた。闘字はふわりとほどけて大きな異生物の周りに浮かび上がる。
『動制!!』
読真は闘字を読んで、祈念する。身体からざわあっと力を吸われるのを感じる。と、ともにその力は闘字にのってぐわっと異生物に絡みついた。巨大な異生物の身体がぎしりとからめとられ、動きが止まる。
読真は祈念を続けながら異生物の動きを留め続ける。体力がギリギリと削られるのを感じる。渾身の力で祈念しているのに、この異生物はなかなか力が強く大人しくならない。
だが今ここにいる闘書士は自分だけだ。自分が何としても抑えておかなければならない。必死で体力を削りながら異生物を抑えているというのに、この封書士はどういうことだ。まったく封字を書けていない。何とか封書士の方に首を向けてみれば、まだ半分ほどしか出来上がっていない。
「くっそ‥」
これはもう一度直接攻撃を仕掛けるしかない。‥体力がない時に使いたくはなかったが、『血闘字』を使うしかないだろう。
闘書士が闘う場合、普段使われるのは『身闘字』だ。『身闘字』は体液で賄える。ほとんどの場合、闘筆の穂先を唾液で湿らせ闘字を書く。体力はもちろん唾液を通して闘字に載るが、そこまで削られることはない。だから何度でも書ける。
しかし、書士の血液によって書かれる『血闘字』は、その威力もすさまじいが体力ののり方は『身闘字』の五倍ほどにも跳ね上がる。ハイリスク・ハイリターンの闘字なのだ。
だが、こうなってしまっては迷っている時間はない。そもそもあの封書士には体力がなさそうだ。今も自分の身を守ることもできず、ただ封字陣を書くことだけで精一杯になっている。しかも遅い。
あの封書士をかばって少しでも時間を稼ぎ、ダメージを与えようと思うなら、『血闘字』を使うしかない。
読真は、腰に差していた『字柄』を取り出した。『字柄』は刀の鍔と柄のようなものだが、刀身はついていない。本来刀身があるところには、カッターの刃くらいの僅かな刃がついているだけだ。読真はその刃で軽く親指を引き、血を滴らせた。左手に持っていた闘筆にその血を吸わせ、もう一度闘字を書き出す。
「『必中央身動制!!』」
祈念とともに文字が回る。そこに『字柄』をかざせば本来刀身があるべき場所にすううっと赤い刀身が現れた。
「はやく『封字』陣を組め!!」
そう封書士に叫びながら異生物に向かっていく。自分をからめとっていた闘字が消え、動きの軽くなった異生物が大きな爪で読真に襲いかかってきた。読真はギリギリでその爪を左側に身を躱して避けたが、一本の爪が読真の左足を掠った。
「ぐ‥」
だが怯まずそのまま『字柄血刀』で斬りかかる。今回の異生物は高さ3メートルはあろうかという大物だ。しかし最初に出会ったときにはこの半分くらいしかなかった。だからあの封書士も油断したのだろう。‥この異生物は急速にこちらのエネルギーを吸い取るタイプであることが見抜けなかった読真にも落ち度はあった。
異生物は大きな身体の割に機敏な動きで読真の刀を避けた。一度大きく飛びしさって体勢を整える。祈念し続けながら刀身を振るうのはかなり体力を削られる。腕がびりびりと震えるのを感じながらも、祈念を続け刀身に力を送る。
異生物は読真の方ではなく、『封字』を祈念している封書士の方に向き直った。こちらの獲物の方が動かない、と気づいたようだ。
(まずい)
地を蹴って封書士と異生物の間に身体を滑り込ませる。異生物の足下にスライディングしながらすり抜けざまに『字柄血刀』を振り抜いた。ざくう、と異生物の本体が斬れた音がした。その瞬間、読真の体力がごっそりえぐられる。
「くうっ」
額に脂汗が出る。このままでは『字柄血刀』を振れるのはせいぜい後二回だ。『封字』は間に合うのか。
「おいまだか!」
思わず苛ついて叫ぶ。ようやく封書士が待ちかねていた言葉を放った。
「ふ、『封字昇結』!」
「やっとか」
男の足下に『封字』陣が完成していた。読真はもう一度親指から闘筆に血を吸わせ『血闘字』を書いた。
「『誘央操陣動制!』」
『字柄血刀』に闘字を纏わせ、祈念しながらもう一度異生物に斬りかかる。動きが少し鈍くなっていた異生物はざくりと後ろから大きく斬られ<あおああああああ>と異声を発した。異声から生まれた振動で辺りの木々や建物がぎしぎしと崩れる。
「くそ、『誘央操陣動制!』」
もう一度全体力を載せて祈念する。身体を斬られた異生物はゆっくりと『封字』陣の方へ移動し始めた。封書士も祈念している。
異生物の身体全体が陣の上にのった時、陣がかっと大きく光った。
読真と封書士が一斉に叫ぶ。
「「闘封!!」」
ぐおおおっと二人の身体から念が飛び出し異生物の身体を縛る。異生物が苦しみもがいているのが身体を通じて伝わってくる。倒れそうになるのをこらえながら祈念し続ける。
封書士が叫んだ。
「封殺!!」
ふぉん!という音とともに異生物が消えた。陣もすっと掻き消える。
読真はぐったりとその場に倒れ込んだ。
三時間余りの死闘だった。
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