57 / 58
最終話① 少し肌寒くて天気の良い日
しおりを挟む※※※※
さち子の葬式は少し肌寒くて、天気の良い日に執り行われた。
「よう、さっきまで忙しそうだったね」
式が終わり、ぼーっとしている智紀に、幸田は声をかける。
智紀は、顔見知りに会ってホッとした顔をみせた。
「いや、俺はただ香典返しホイホイ渡すだけの仕事だったから大したことねえけどさ」
「ホイホイって……気持ちがこもってないぞ!」
「すみません」
素直に智紀は謝る。
「兄貴のほうが忙しそうなんだよね。挨拶したり親戚と話をしたり」
「まあ、大人って大変そうだよね。てか、お兄さん髪青いままたんだ。葬式だし、ウィッグとか被るのかと思ってたよ」
「まあ本当はそれが常識なんだろうけどさ。眉ひそめてた人も正直いたけど」
智紀は肩をすくめる。
「でも、最後まで兄貴らしいほうがばあちゃんも嬉しいだろ」
さち子のお葬式の朝。
祥太が黒のウィッグを被ろうとしたのを止めたのは両親だった。
「お前が黒髪になったら、天国のばあちゃん、お前の事どれだかわかんなくなるぞ」
「そうよ。最後まであんたらしく見送りなさい。何か言ってくる親戚がいたら、私が火葬場に放り込んであげるから」
そう背中をおされて、祥太は堂々といつもの青髪で葬式に参加した。
初めは眉をひそめる人もいたが、テキパキと葬式の進行をこなし立派に弔辞を読む祥太に、最後には何も言う人はいなくなった。
「弟ちゃん!梨衣ちゃん!」
向こう側から茉莉花が走ってくるのが見えた。
「茉莉花さん、あれ?香典返し2個も持ってる。一人一個ですよ!」
眉をひそめる幸田を、茉莉花はコツンと香典返しの箱出叩く。
「これは今日来れなかった米村っちの分なの!欲張ってるわけじゃないんだけど」
「そうなんですね。あ、米村さん、結局写真コンクールどうでした?」
幸田がたずねると、茉莉花は渋い顔をしてみせた。
「一応賞は取ったみたいだけどね、奨励賞。ま、下の賞だよ」
あの後、米村はあのコスプレのメイキング写真を、写真のコンクールに提出した。
名前を出さないなら、と智紀は渋々オッケーしたが、どうせ出すなら賞に入ってほしいな、とは思っていた。
「下でも賞は凄くないですか?」
「でも、米村っちは結構いつも賞とるし。皆で頑張ったしさ、どうせなら最優秀賞とか狙いたかったよねー」
勝手な事をブツクサ言う。
「てかさ、私は『あればさっちんだけの写真だと思う』ってエモいこと言って即売会での頒布遠慮したのに。米村っちはそういうこと一切関係ないって感じなのがちょっとムカツクー。今度賞金でなんか奢ってもらお」
茉莉花は勝手に奢りを決定してしまっている。
「おい、智紀、こんな所にいたのか」
三人で話していると、遠くから祥太がやって来て声をかけた。手にはあの着せることが叶わなかった赤い衣装があった。
「出棺の準備に手間取っているらしくてな。ばあちゃんのお別れまで、もう少し時間かかりそうらしい」
祥太は智紀にサクッと連絡事項を伝えると、茉莉花と幸田に向き合った。
「二人とも、今日は来ていただいてありがとうございます。茉莉花さん、ばあちゃんの遺影の提供、助かりました」
「ううん。いい写真、選んでくれてありがとう」
茉莉花は微笑む。
「もう少し頑張ってくれたら、コスプレ写真遺影に使えたね」
「誰だこれ!って葬式の最中ザワザワしっぱなしでしょうね」
想像して幸田も笑う。
「兄貴、それもしかしてお別れの時に棺桶に入れる?」
智紀は祥太の手の衣装を指さした。
「あの世で着たいだろうしな。是非着てもらって、先にあの世にいるじいちゃんにびっくりしてもらおう」
祥太は笑う。
そして、困ったようにもう一つ、紙袋を取り出した。
「本当はこれも入れてやりたかった。でも、生きている人の写真をいれると連れて行かれるだの何だのあるらしくてオススメしないと葬儀屋のスタッフに言われてな」
そう言ってチラリと袋から中身を取り出す。
中身は案の定、二人のコスプレ写真集だった。
「ばあちゃん、墓まで持っていってくれると言ったんだかな」
「まあ、スタッフさん困らせるわけにもいかねえよな」
智紀も苦笑いする。
「じゃあ仕方ないからそれは持って帰ろう。その衣装だけ入れてあげよう」
「生きてる人の写真、入れちゃだめなんだ。じゃあこれは無理なんだ。あわよくば一緒に入れてもらおうと思ってたんだけど」
茉莉花はそう言って、一枚の写真を取り出した。
智紀はそれを受け取った。
「えっ?なにこれ。どういう事?」
智紀は写真をみて驚いた。
茉莉花は肩を竦める。
「ごめん、おふざけに見えて気を悪くしたらごめんね。フォトショで加工しただけなの」
祥太もその写真を覗き込んだ。
「……?これは……」
祥太は思わず写真を手にとって、マジマジと見つめた。
「どうして……元気な、ばあちゃんだ」
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】似て非なる双子の結婚
野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。
隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。
そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。
ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる