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しおりを挟む「あわよくば会えたらちょっと先行公開させてあげようかと思ったんだけど。大丈夫だよね?さっきの女子誰も付けてきていないよね?」
不安げにキョロキョロする茉莉花に、幸田は胸を張って答えた。
「大丈夫!うちの学校では、竹中くんをストーカーするのは校則で禁止されてるから。破ったら停学」
「ねえよ、そんな校則」
智紀はそうツッコみながらも、無いよな?と幸田に念のため再確認する。幸田はしれっとそれを無視している。
「本当はさっちんに一番に見せたいんだけど。でも私も正直これで大丈夫かどうか不安なんだ。だからちょっとだけ、感想聞かせて」
珍しく、茉莉花は自信なさげな顔をしている。
「本ができる時っていつも不安。作ってるときはアドレナリン、ドバーで楽しくて仕方ないんだけど、いざ出来上がったら、私の作品なんて、価値あるのかなっていっつも自問自答しちゃうんだ」
そう言いながら、茉莉花は丁重にその紙袋を智紀に渡した。
智紀も丁重に受け取った。
「あ、そういえば、俺だけで見てもいいの?兄貴は……」
「お兄様はいーの、いーの。とりあえず弟ちゃんだけで大丈夫」
祥太を放っておくような茉莉花の口調に、智紀は少し不安になった。
「え、いいんですか?あの、うちの兄貴が、茉莉花さんにフラレたのって関係あります……?」
智紀の言葉に、幸田が面白そうに目をギラつかせたが、とりあえず彼女の事は一旦放置しておく。
茉莉花は笑って首を振った。
「ぜーんぜん関係ないよ。お兄様から、もし事前チェックするなら弟ちゃんに全部任せちゃって、って言われてたの」
「俺に全部?」
無責任じゃないか、と智紀は少し憤慨した。そんな智紀の様子を見て、茉莉花は言い訳するように言った。
「お兄様は、弟ちゃんに決めてもらいたいみたいだよ。さっちんのお願い事をかなえてやりたいって言い出したのは、弟ちゃんだから」
「そうですか……」
そう言われると確かに自分が見るべきなのかも、と智紀は頷いて、紙袋の中身を取り出した。
ピンクと青の二色の表紙。
金色の文字で、『for SACHIKO』と書かれている。
1ページ目をちらっと開いて、智紀はふるふると頭を振るわせた。
「や、やっぱり恥ずかしい。ちらっと見えただけでもうはずかしくて見れねえ!怖い!」
チラリと見えた自分のコスプレ姿に、思った以上に羞恥心がこみ上げる。
「もー、ほら、竹中くん、手を握っててあげるから、頑張って確認作業しよう」
幸田に言われて、素直に手を握りながら情けなさそうな顔で再度写真集に手を伸ばした。
茉莉花は茶化すように幸田に言った。
「この情けない顔の弟ちゃん皆に見せれば、少しはファンが減るんじゃないの」
「母性本能破裂して何人か死ぬからですか?」
「違うよ」
勝手なことを言う茉莉花と幸田を無視して、智紀は再度ページを開く。
裏表紙には、初恋の杜の漫画絵、多分茉莉花が書いたものだろう。そして1ページ目に、祥太と智紀が、いや、ハルとナツが共に肩を寄せ合っている写真が載っていた。
「わぁ。凄い。綺麗」
覗きこんだ幸田が感嘆の声を上げる。
羞恥心をぐっと堪えて写真を見つめる。
「たしかに、うん、何かとってもいい」
知らない人が見たら、とても仲睦まじい写真に見える。撮影時は結構淡々と作業的にやっていたのに、お互いに笑った一瞬の切り取りで、仲の良い二人にしかみえない。
次のページを開こうとした時、茉莉花に手で止められた。
「ここから先はさっちんと一緒に見て欲しいかな。で、どうかな?」
「良かったと思います。なんかとっても、仲良さそうで。なんか実際よりも仲良さそうだ」
智紀は照れながら言った。
「ま、弟ちゃんの合格点は貰えたし、これであとラッピングして今度渡すね」
茉莉花は写真集を回収して、紙袋に戻す。
智紀はふと、気になっていた事を思い出した。
「そういえば。そのイベント?で売る?写真もこれなんですか?」
「売るんじゃないって。頒布だってば。……まあでも、頒布、やめようかなって思ってる」
「えっ」
茉莉花の言葉に、智紀は少し安心した一方で、罪悪感がつのった。
「せっかく頑張ったのに。もしかして、頒布に耐えられない出来なんですか?」
「いや、違うんだよね」
茉莉花は、写真集の入った紙袋をギュッと握って言った。
「これは、さっちんだけの写真だな、って編集してて思ったの。頒布して知らない人に見せるの、勿体ないって思っちゃったんだ」
茉莉花は困ったように笑う。
「ありがとうございます」
智紀は思わず茉莉花にお礼を言った。
そのお礼が何の意味だったのか智紀自身にも分からなかった。頒布しないでくれてありがとうなのか、そう思うまで真剣に取り組んでくれたことへのありがとうなのか。
それとも、さち子と出会ってくれてありがとうなのか。
分からなかった。
※※※※
「ねえ梨衣ちゃん」
智紀と公園でわかれ、茉莉花が幸田と二人で帰っている途中、何気なく問いかけた。
「下世話だけどさ。梨衣ちゃんって、弟ちゃんと付き合ってないの?」
「付き合ってるわけないじゃないですか」
一切赤くなることもなく、幸田はケロリと言った。
「じゃあ付き合いたいとかは?」
「んー無理かなぁ」
「やっぱりちょっと情けないとこあるから?」
「いや、そうじゃなくて」
幸田はふと、自分の手を見ながら少し恥ずかしそうに言った。
「お菓子をあげて、そのお菓子を『どうせばあちゃん宛だろ?あれ』とか言っちゃうタイプの男子を落とす手腕なんて、私みたいな底辺には無いんですよ。私も恥ずかしくて茶化しちゃうし」
「梨衣ちゃん……」
茉莉花は幸田を見つめ、そして何だか叫び出したい気分になったので、勢いよく空に向かって叫んだ。
「アホ兄弟めーっ!」
「どうしたんですかっ!急にっ」
混乱している幸田の頭を、茉莉花は黙ってくしゃくしゃに撫で回した。
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