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一体何が問題なんだ

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「ちょっとだけ待って」

 家の外で、茉莉花に呼び止められた。

 祥太が振り向くと、何となく茉莉花がもじもじしている。


「あの、ありがとう。いっぱいお節介してくれたおかげで、お父さんとちゃんと話が出来た」

「いえ、俺はただ、危うく詐欺しかけただけです」

 祥太は冗談交じりに笑って肩をすくめた。

 計画どおりにはならなかった。でもかえって良い結果になった。

 茉莉花の日々が少しでも良くなるならいい。


「あの、こんなに色々味方してくれたり何とかしようとしてくれてさ。いっぱい文句言ってたけど、嬉しかったよ」

「そうですか。良かったです」

「それで、……その、あの、あの時言ってたのって、どういう意味だったのかなって……」

 茉莉花は真っ赤になっている。祥太は首を傾げた。

「あの時言ってたのって?」

「だから!その……私の事を、あ、あ、愛してるって……」

「ああ、文字通りの意味ですよ」

 そう言って、祥太は茉莉花に近寄って笑いかけた。

「俺は茉莉花さんを愛していますよ。だからこそ、こうして何とか力になりたくて、嫌がられてもたくさんお節介をやいていたんですよ」

「その、じ、じ、じゃあ、私と付き合ったりなんかしたい……?」

 真っ赤になりながら言う茉莉花に、祥太は目を丸くした。

「本当ですか?」

「え、え、えっと。でも梨衣ちゃんから、お兄様……祥太さん、週一で彼女が替わるって聞いてて……私こう見えて結構真面目な純情女子だし、そういう遊びっぽいのはちょっと嫌なんだけど……」

「そんな事!俺は自分から女の子を振ったことなんて無いんです!お付き合いするときはいつでも真剣です。結婚を前提にお付き合いしているんです!」

「け、結婚!?そこまでじゃないけど……」

「勿論、結婚なら茉莉花さんの気持ちを待ちます!とにかく真剣です!」

 あまりに必死な祥太の様子に、茉莉花はちょっとだけ笑ってしまった。

「祥太さんのそんな顔、初めて見たよ」

「そうですか?これからもっと見てください」


 祥太は茉莉花の顔をやさしく両手で包み、そっと自分の方を向かせた。

 耳まで真っ赤になった茉莉花に、ゆっくりと顔を近づけてキスをしようと……した時だった。


 ピリピリピリ、とけたたましい音が響いた。


 祥太の電話だ。


 祥太はすぐに電話に出た。

 茉莉花はあまりのタイミングに恥ずかしくてしまって顔を覆った。ちょっとだけ、祥太の様子を見ると、電話の相手と、何やら真剣な顔で話をしている。仕事だろうか。


「はい、大丈夫ですよ。問題ありません。任せて下さい。ええ、ええ、愛しています」

「はっ!?」

 茉莉花は、思わず低い声が出た。


 祥太は何ごとも無かったかのように電話を切ると、さっきのキスを再開しようとしたので、慌てて茉莉花は顔を押しのけた。

「ちょ、ちょっと!何なの!?」

「何とは?」

「いやいや、さっき電話の相手に『愛してる』って言ってたよね?その口で普通にキスしようと出来る神経どうなってんの!?」

 ぷりぷりと怒る茉莉花に、祥太は一切の悪びれもせずに答えた。

「さっきの電話の相手ですか?彼女の事は確かに愛していますが、お付き合いしているわけではありません」

「はあ?嘘でしょ。何その言い訳……。堂々と二股!?」

「二股なんて!俺が結婚を前提にお付き合いしようとしているのは茉莉花さんだけです!」

 心外、とでも言うように祥太は口を尖らす。


 茉莉花は混乱した。そしてちょっとだけ状況を整理してみる。

「えーっとお、もしかして祥太さん、私以外にも結構愛してるって言ってる?」

「愛してる人には愛してると言います」

「……もしかして祥太さん、私以外にも、今お節介をやいてる女性いる?」

「お節介というか、まあどうにかしてあげようとしている女性は三人ほど」

「さっ!三人ほど……!……えっと、結構私にしてくれたのと同じくらいの熱量でお節介を?」

「女性に手を抜くはずないでしょう」

 キッパリと祥太は言い切った。


「あー、ふーん。なるほどなるほど。わかった。お兄様、さっきのお付き合いの件、キャンセルで!」

「なっ!?」

 祥太は慌てて茉莉花に詰め寄った。

「なぜっ!それにさっきはようやく名前で呼んでくれてたのに、またお兄様呼びに……!」

「私にはお兄様のような博愛系男子と付き合うのは荷が重いわ。いままで通りの関係でいさせて」

「そんな!……しかしまだ婚約を結んでなかったから法的拘束力が無い……。契約さえしていたら逃さないように手段はあったのに……」

「怖い怖い」

 茉莉花は苦笑いして祥太から少し離れた。


「でなわけで、ごめん!じゃ、また写真出来たら連絡するねー!」

 そう言ってサッサと茉莉花は家に戻ってしまった。

 残された祥太は呆然としながら立ち尽くしていた。


「いつもいつも……一体何が問題なんだ。」

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