上 下
42 / 58

このシーンは必至

しおりを挟む

 ※※※※

 撮影の決行は、皆の、主に仕事が忙しい祥太と、バイトや介護で忙しい茉莉花の予定の合った、ある日の日曜日に行われることになった。


 ヘルパーさんに頼んで、さち子は1日だけデイサービスにお願いした。

 父と母は、仕事が入っていたので、智紀はホッとした。さすがに両親に見られるのはキツすぎる。


「うちもね、今日はおばあちゃんの事、お父さんに任せること出来たんだ。イベントとかの時にはよくお願いするんだけどね。なんかあったら、お父さんが対処してくれるから、今日は思いっきり楽しむぞー」

 茉莉花は背伸びしながら言った。

「本当に何かがあったら、無理しないで中止しても大丈夫ですからね」

 智紀は一応言ったが、茉莉花はケラケラと笑った。

「ありがとね、そうするよ。まあでも大丈夫だよ」


 メイキングを撮影したいと言っていた米村と、野次馬をしにきた幸田も集合して、早速撮影が始まる。


 まずは衣装を身に着ける。

 着替えるために部屋の死角で服を脱いでいく姿も米村は撮っているので、智紀は慌てた。

「え、どこまで撮るんですか」

「さすがに下半身は撮らねーし、見ねーよ。撮られて嫌なところはすぐに言ってくれ」

「わかりました……」

 智紀は少し米村を気にしながら着替えを続ける。

 すぐに米村は、祥太の方にターゲットを変更しに行った。

「お、ホストのお兄さん、なかなかいい体つきしてるね」

「まあな。好きなだけ撮るがいい」

「やめてくれよ、そこは撮らねーよ」

 ――兄貴何してんだよ。てかもうホストは否定しねえのかよ。

 智紀はドン引きしながら別の死角で着替えをしている祥太の方を見ていた。


 着替え終えて、茉莉花にチェックを受ける。

 勿論不合格だ。

「そんなきっちり着ちゃだめじゃん。ナツは森の奥に住んでるんだよ。走ったり、木登りしたり、その格好でしてるの。もっとダルダルに」

「でも、それじゃ、胸とか 股 (モモ)とか見えるじゃん」

「見せんだよ!一巻、第5話、136ページ見たことない!?」

「こ、怖えよぉ」

 智紀は豹変した茉莉花に怯える。

 幸田が慌てて仏壇から漫画本を持ってきて、二人の間に入ってきた。そして、智紀に急いで該当するシーンを開いてみせた。

「ほら、竹中くん、このシーンだよ。部屋でリラックスしてるナツ。ハルに肩を預けて、ゆるゆるになってるでしょ」

「部屋で撮るっていったらこのシーンは必至じゃん。まさか予習してなかったとでも言うんじゃないでしょうね」

 鬼のように睨む茉莉花に、智紀は縮んだ。

「す、すみません……」

「教官!私が代わりにシーンについて竹中くんに解説しますので、ここは一つ穏便に!」

「仕方ない。私はお兄様の方を見てくるから、梨衣!ここは任せる!」

「うっす!」

 自衛隊コントをしてみせた幸田は、智紀に笑ってみせた。

「任せて、いつも勉強教えてもらってるお礼に、今回はきっちり教えてあげるよ」

「幸田さん!ありがとう」

 智紀が抱きつかんばかりに幸田に近づいたので、幸田は険しい顔で智紀の顔を押しのけた。

「だから、その顔でそんな距離感詰めないでってば!私の母性本能殺す気!?」


 そうしてはしゃいでいると、祥太が着替えを終えてやってきた。

「お兄様、さすが完璧。ただのユニクロが使い古された寂れたシャツに見えるよ」

 茉莉花に褒められて、祥太はフッと笑う。

「漫画本を読んで、買ったままだとちょっと違うと思ってね。あえて数日前に土で汚して、乱暴に洗濯しておいたんだ。さらに、少しここの裾をほつれさせた」

 いつの間に。

 何事にも要領の良いところが、こんなところにも発揮されて、智紀は少しだけ不貞腐れた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストロベリー・スモーキー

おふとん
ライト文芸
 大学二年生の川嶋竜也はやや自堕落で、充足感の無い大学生活を送っていた。優一をはじめとした友人達と関わっていく中で、少しずつ日々の生活が彩りはじめる。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾
恋愛
余命半年の妻は、不倫をしている夫と最後まで添い遂げるつもりだった……【小春】 小春は人の寿命が分かる能力を持っている。 ある日突然自分に残された寿命があと半年だということを知る。 自分の家が社家で、神主として跡を継がなければならない小春。 そんな小春のことを好きになってくれた夫は浮気をしている。 残された半年を穏やかに生きたいと思う小春…… 他サイトでも公開中

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

カメラとわたしと自衛官〜不憫なんて言わせない!カメラ女子と自衛官の馴れ初め話〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
「かっこいい……あのボディ。かわいい……そのお尻」ため息を漏らすその視線の先に何がある? たまたま居合わせたイベント会場で空を仰ぐと、白い煙がお花を描いた。見上げた全員が歓声をあげる。それが自衛隊のイベントとは知らず、気づくとサイン会に巻き込まれて並んでいた。  ひょんな事がきっかけで、カメラにはまる女の子がファインダー越しに見つけた世界。なぜかいつもそこに貴方がいた。恋愛に鈍感でも被写体には敏感です。恋愛よりもカメラが大事! そんか彼女を気長に粘り強く自分のテリトリーに引き込みたい陸上自衛隊員との恋のお話? ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。 ※もちろん、フィクションです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...