祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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今日楽しかった

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「何か、色々ばあちゃんワガママ言ってすみません」

 帰ろうとする亮子と茉莉花に、智紀は頭を下げた。

「全くだ。とんだ強情な人だね」

「おばあちゃんも似たようなもんでしょ」

 茉莉花は亮子を支えながら呆れ顔で言った。


「車の用意ができましたのでどうぞ」

 祥太が外から玄関に入ってきた。

 亮子を後部座席に乗せてから、祥太は茉莉花に真面目な顔で言った。

「バリアフリー工事の件、いくらでも相談乗りますよ」

「うん、工事の件だけは相談に乗ってもらおうかな」

 茉莉花はそう笑うと、自分も後部座席に乗った。



 二人を乗せた祥太の車を見送ると、智紀はさち子の部屋へ戻った。

「ばあちゃん、あんまり強情っぱりすんなよー。せっかく来てくれたんだから」

 そう言いながら部屋へ入っていくと、さち子のベット近くにいた幸田が、シーッと指を立てた。

「おばあちゃん、寝ちゃった。疲れたみたい」

「あ……」

 そうか、いつもよりうるさくしてしまった。仮眠の時間も取れなかっただろう。

「ヤバ。ばあちゃんに負担だったかな」

 智紀は焦ってさち子のベットに近寄った。

 幸田は小さく首を振った。

「おばあちゃん、今日楽しかったって呟いて寝ちゃったんだよ。たまにはいいんじゃない?」

 幸田の言葉に、智紀はさち子の顔を覗く。いつもと変わらずポヘーという呑気な顔で寝ているさち子に少しだけホッとする。

「じゃ、私も帰るね。面白かったよ。お茶もお菓子も全部美味しかった」

「うん、来てくれてありがとう。あ、送って……」

「いらないいらない」

 ひらひらと手を振りながら幸田は言って帰っていった。

 賑やかだった部屋に、寝てしまったさち子と二人きりになり、なんだか妙に寂しくなってしまった。


 智紀はさち子の食事の用意をするために台所に向かう。

 台所に何か紙袋が置かれているのに気付いた。茉莉花の忘れ物だろうか、と中を覗いてみてギョッとした。

 黒いフサフサしたものが入っていたのだ。生き物?何!?智紀はおそるおそる手を入れてみると、フワッと軽い。

「あー、ウイッグ……」

 これは忘れ物なのか、あえて置いていったのか。あとで茉莉花に確認しなければ、と思いながら再度フサフサを紙袋に戻す。

 本格的に計画が進んでいくのを感じながら、智紀はさち子の食事の材料を冷蔵庫から取り出し、日常の準備をしだすのだった。

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