祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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TPO知ってたんだ

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 次の日学校を終えると、智紀は病院へ向かった。


 病院の近くのコンビニで待っていると、祥太が見慣れない車から降りてきた。


「兄貴、また女の人に送ってもらったの?」

 智紀が呆れたように言うと、祥太は悪びれもなく答えた。

「今日は早退して知人の見舞いに行く、と言ったら、是非送らせてくれと依頼人が言ってくれたんだ」

「依頼人に送らせるなよ」

 智紀は更に呆れた。


「ところで兄貴、今日は裁判だったの?」

 今日の祥太は黒のウィッグと黒のスーツ、いわゆる裁判所スタイルだ。

 祥太は首を横に振る。

「見舞いのTPOだ」

「兄貴、TPO知ってたんだ」

 智紀は感心する。


 二人は受付で狭山亮子の見舞いだと伝え、部屋の番号を教えてもらってその部屋へ向かった。

 四人部屋部の入り口側に、亮子がいた。足以外は問題がないようで、ベットの上で上半身を起こし、背伸びをしながらテレビをぼんやりと暇そうに見ていた。


「こんにちは、亮子さん。お元気そうですね」

 祥太が愛想よく挨拶する。


 亮子はチラリと二人を見て、困惑顔をした。

「何だ、お前達は」

「亮子さんが怪我したと聞いてお見舞いに」

 そう言って、祥太は箱菓子を亮子に差し出した。

 智紀も声をかける。

「こんにちは。あの、覚えていますか。亮子さん怪我したときに茉莉花さんと一緒に運ばせて頂いた、竹中といいます」

「ああ、あの。あの時の……」

 亮子の警戒した顔が緩んだ。そして、智紀だけに少し愛想笑いを浮かべてみせた。

「あの時は、怒鳴ったりして悪かった」

「いえ、その、動転してたら興奮しますよね」

 智紀は、亮子が前に会った時に比べて穏やかなのにホッとした。

 しかし亮子は、今度は祥太に向かって吐き捨てるように言った。

「てことは、髪の色が変わってるが、お前は前に来た詐欺師か」

「詐欺師ではありません。弁護士です」

 祥太は飄々と答える。

 ふん、と亮子は祥太を睨んだ。

「お前はどうも気に食わない。なぜ来た。前に水かけてやったし、どうせいい気味だと思ってるんだろう」

「ああ、水。ありましたね。忘れていました」

 祥太はニッコリと笑う。

「私は弟の付き添いです。まだ弟は高校生なので、送迎とかありますし」

 弟を送迎どころか、自分が女の人に送迎されて来たくせに、と智紀は祥太を生ぬるい目で見つめた。


「あ、もう来てたんだ」

 そう声がして振り向くと、茉莉花が病室へ入ってきたのが見えた。

 洗濯物の袋らしきものを手に持っている、黒髪の茉莉花を見て、智紀はキョトンとした。

「茉莉花さん、その髪……」

「あは、弟ちゃんは初めて見るか」

 照れたように茉莉花は笑うと、亮子のベットの横の棚に、荷物を次々詰め替えていく。

「あ、着物の件、ちょっと待っててね。今これやっちゃったたら病室出て、下の方で話しよう」

「茉莉花、この男と話なんかしなくていい。こんな男と付き合っているからお前まであんな派手な……」

「あーもう、おばあちゃん、竹中くんに頭上がらないって言ってたじゃん」

「それは、この若いほうだ。この詐欺師の方じゃない」

「ハイハイ。ほら興奮しないで。血圧上がるから」

 茉莉花は呆れながら亮子をなだめると、二人に向かって、「じゃ、行こうか」と笑ってみせた。

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