祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

文字の大きさ
上 下
24 / 58

それはおかしいよ!!

しおりを挟む

 ※※※※

 その日、また智紀はさち子の部屋で幸田に勉強を教えていた。今度は化学の再テストが控えているらしい。

 熟睡しているさち子の横で、二人はテキストを開いていた。


「これは難しそうに見えて実はただの単純なモル計算をするだけだから」

「私、モル計算できないけど」

「まじかよ。モル計算できなくてどうやって化学のテスト受けてんだよ」

「気合い」

「じゃあ気合いでモル計算覚えようぜ」

 智紀の言葉に幸田は顔をしかめながら、勉強を進めていく。


「そう言えば、今週末打ち合わせしようって茉莉花さんから連絡あったんだけどさ、幸田さん来る?」

 休憩タイムで、智紀はカレンダーを見ながらたずねた。幸田もカレンダーを見てがっくりとうなだれた。

「あー、ごめん、今週末は用事入ってるわ」

「あ、そう」

 智紀は素っ気なく言いながらも少し不安げな顔をしてみせる。

「なんだよお、そんな捨てられた子犬みたいな顔して」

「そんな顔してねえよ」

 智紀はブスッと答える。

「ただ、今回は兄貴も仕事で欠席なんだ」

「一人だと寂しい?」

「違うって。何か最近、兄貴の様子がおかしくてさ」



 茉莉花から、次の打ち合わせについての連絡が来た時、祥太は気のせいかホッとしたような顔を浮かべていた気がするのだ。

 そして、次の打ち合わせには自分は行かないと言い出したのだ。

「ちょっと早めに解決したい案件があるんだ。あと、前に茉莉花さんの事でちょっと失敗してしまったので少し距離を置きたい」

「失敗?」

 祥太が女のコの事で失敗するようなことなど、少なくとも智紀は聞いたことがなかった。 

「一体何しでかしたんだよ」

「まあ、俺もまだ若いってことだ」

 フッとあさっての方を見る祥太は、それ以上何も話すつもりは無さそうだった。



「なんか、もしかして茉莉花さんと喧嘩とかしたのかなって思ってさ。それだったらなんか俺まで気まずくなりそうじゃん」

「お兄さんと竹中くんは別人格なんだから気にしなくてもいいんじゃない?ってか、喧嘩してても別にいいでしょ」

「兄貴は女のコと喧嘩したことなんてない」

「そんなバカな」

 幸田は呆れて言った。

「まあ、どっちにしろ普通に打ち合わせがあるんだから、喧嘩してたとしても大したことじゃないって。大丈夫大丈夫。一人で頑張っておいで」

 そう言って、幸田は煎餅をバリバリ食べる。

「次の打ち合わせは何かなー。衣装かな。あ、その前にどのシーンを撮るかだよね。いや、それよりまだ配役が決まってなかったか」

 能天気に話す幸田に、智紀はムスッとして煎餅を取り上げた。

「あ、まだ食べてるのに」

「さっさと早く続きの問題解くぞ」

「ちえっ、鬼軍曹再び」

 ぶつくさ言いながら、幸田はまたテキストに向かった。


 智紀は勉強を教えながら考えていた。

 ――絶対に兄貴と茉莉花は何かあったと思う。だいたい、あの急な耳齧り事件だって、茉莉花を送っていった後だった。あんな事をするなんて、よっぽどなんかあったに違いない。

 祥太に聞いても答えてくれないだろうから、次に会った時に茉莉花に直接聞いてみようと決めていた。

 ただ、正直一人だと不安だったから、幸田も来てくれればいいなと思っていたが仕方が無い。


「ま、お兄さんだってあんなしっかりしてても色々悩んだりすることだってあるでしょ。そりゃいつもはしないことだってするよ」

 何も知らない幸田が、テキストを解きながら能天気に言ってくれる。何だかそう言われると智紀も少し気が楽になってきた。

「そういうもん?」

「そうだよ。だからしたことない喧嘩するのだっておかしくないよ」

「そうか」

「そうだよ」

「じゃあ、兄貴が急にばあちゃんの目の前で俺の耳齧ってくるのもおかしいことじゃねえよな」

「それはおかしいよ!!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

かあさん、東京は怖いところです。

木村
ライト文芸
 桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。 「知らないわよ、そんなの!」  東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

麗機人になるまでの

いさご
ライト文芸
夢で見た内容に肉付けして言語化、再編成したものです。 「俺達の戦いはここからだ⋯⋯!!」エンドになりますが、夢がそこで終わっているんだからしょうがない。 一夜の夢なので短いです。十話以内で纏めたい。

処理中です...