祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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女のコに嫌われた事ないんですよ

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 そうしてまんまと言質を取られた智紀は、茉莉花によって頭の先からつま先まで丁寧に採寸されていく。祥太も同じように大人しく採寸されている。


「てか、逆に何で兄貴はそんな、写真売られるのに乗り気なわけ?」

 口を尖らせながら智紀は祥太にたずねる。祥太は質問の意味がわからないとでも言うように答えた。

「お金で解決できるなら楽だ。でも、お金をかけずにできるならもっといいだろう。勿論、経費は払うと茉莉花さんに言ってある」

 現実的な回答で反論の余地もない。智紀はため息をついて呟いた。

「てっきり、兄貴はナルシストだから、むしろ色んな人に見られたいのかと思ってたよ」

「まあ、多少その要素も否定しないが」

 悪びれもなく答える祥太に、智紀は、敵わないな、と天井を見上げた。



「おー、なんか盛り上がってんな」

 簡易暗室から出てきた米村が、だるそうに言った。

「あ、すみません、お騒がせししてます」

 会釈する祥太を見て、米村は茉莉花に険しい顔を向けた。

「お前、コスプレだけじゃなく、ホストにまで手を出したのか?破産するぞ」

「米村っち、この人ホストじゃないから」

「あーあー、まあ俺が口出すことじゃねえか」

 米村はそう言うと、部屋を出ていった。そしてすぐに戻ってきたその手には、缶コーヒーと缶ジュースが人数分抱えられていた。

「ほら、こいつ気が利かなくて。コーヒーも出さなくて悪いな」

「ありがとうございます」

 智紀と幸田はお礼を言いながらジュースを受け取った。米村は、だるそうにしながらも智紀と幸田に下手くそな笑顔を向けた。

「お前ら高校生か?志望大学どこだ。もしうちに入るなら、うちのサークル来いよ」

「米村っち、何若い子ナンパしてんの」

「青田買いしてんだよ」

 そう言ってニヤリと笑う米村は、悪い人では無さそうだ。

 米村は祥太にもコーヒーを差し出しながら向き合った。

「ホストさんもさ、うちの狭山からあんまり搾り取らないでくださいよ。こいつ、いつもおばちゃんの世話してるいいヤツなんですよ」

「あ、いや俺はホストでは……」

「米村っち、余計な事言わないで」

 さっきまでニコニコしていた茉莉花が、急に低い声になった。顔がこわばり、笑顔が消えている。


「茉莉花さん?」

 幸田が心配そうに声をかけると、ハッとしたようにまた笑顔を作った。

「あは、ごめんごめん。ほら、私プライベートな事NGでさ。さて、そろそろ帰らないと」

 そう言って、そそくさと茉莉花は採寸道具をしまっていく。

「続きはまた連絡するから。じゃーね!」

 そう言って荷物を背負って部屋を出ようとする茉莉花の腕を、祥太はガシッと掴んだ。

「な、何よ」

「送っていきます。今日俺車で来たんです」

「え、いいよいらない」

「遠慮しないで」

「いや、マジでマジで」

 心底茉莉花は迷惑そうな顔をする。しかし祥太には一切効かない。

「茉莉花さん今日荷物多いですし。ほら、行きましょう」

 そう言って、祥太は茉莉花の肩を優しく抱えた。


「おい、ホストさん、あんまりしつこいのは嫌われんじゃねーの?」

 米村が、だるそうに、しかし強い口調で祥太に問いかける。

 祥太は、フッと鼻で笑って答えた。

「俺、女のコに嫌われた事無いんですよ」


 茉莉花が若干その言葉にドン引きしているスキに、祥太は茉莉花の肩を抱えて部屋を出ていった。


「おい、聞いたか、さっきの言葉」

 米村が、同じく若干ドン引きして言葉を失っている智紀と幸田に話しかけた。

「やっぱホストっつーのは、あれくらい強引なくらいじゃねえと駄目なんだろうな」

「いや、あれはホストじゃなくて……」

 智紀が訂正しようとするのを、幸田が黙って止めた。

 完全に、面白そうだから黙っておこう、という顔をしていた。



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