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再テストは合格したらしい
しおりを挟む「よし、これで明日の再テストは多分完璧だな」
「はい、ありがとうございます鬼軍曹」
幸田はグッタリとしながら言った。
教科書やノートをしまっていると、母が顔を出してきて言った。
「智紀、ちゃんと送っていってあげるんだよ。夕方は変質者が多いから」
「あー、うん」
智紀は曖昧に返事をした。幸田の家は学校の近くらしい。そして幸田は、学校の近くで智紀に話しかけられるのをとても嫌がる。
「えっと、じゃあ途中まで送ろうか」
智紀が幸田にそう言った時だった。
「ただいま。ああ梨衣ちゃん、遊びに来てくれてたんだね」
ちょうど祥太が帰宅してきて、笑顔で梨衣に呼びかけた。
「はい、お邪魔してました。おばちゃんにもご挨拶させてもらって」
「いつでも遊びに来てくれていいよ。智紀、梨衣ちゃん送っていくのか?」
「あー、うん。そこの公園の向こうまで」
「何言ってるんだ。ちゃんと家まで送らないと意味ないだろう」
「あ、いえ、いいんです。私がその、あんまり家の近くとかで竹中くんと一緒にいるところを同級生に見られたくないというか」
幸田が慌てて言う。すると、祥太はふーんと鼻を鳴らしてすぐに提案した。
「じゃあ智紀が駄目なら、俺が送っていこう」
「えっ!」
智紀と幸田は同時に声をあげた。
「迷惑かな?」
「い、いえ。その、申し訳ないです」
「大丈夫だよ。女のコ一人で帰らせる方が気が気でない。俺なら同級生に見られても大丈夫だよね」
「あ、そう、ですね」
少しだけ戸惑っている幸田だが、ちょっと面白そう、の気持ちに傾いているのが明らかだった。
「えへへ。じゃあお願いしちゃいます」
――味方でいてくれるって約束、忘れてないよな。
智紀は内心面白くなかった。そんな智紀のことは気にも止めず、幸田は「じゃあ、今日はありがとうねー」と明るい声で挨拶すると、祥太と一緒に行ってしまった。
「あんた……情ないねぇ、そんなんじゃ、あの子祥太に取られるわよ」
一部始終を見ていた母が後ろから呆れたように声をかけてくる。
「別に、そんなんじゃねえから」
智紀は不貞腐れながら自分の部屋に戻った。
次の日、幸田を送迎する祥太を見かけた同級生達から、「幸田はホストに送ってもらっている」との噂が立ち、一週間ほど幸田のあだ名が『姫』になったのは余談である。
あと、再テストは合格したらしい。
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