媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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誘惑魔法の優しい使い方

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 ジャスの顔は薄っすらと赤らんでおり、瞳も軽く充血していた。

「俺が寝ている間にキスしたな」

 アウルが指摘すると、少し下を向いて黙り込んでいたジャスは、開き直ったように言った。

「悪かったな!」

「全く悪くはねえ」

 アウルはそう言って口角を上げた。

「仕方ないだろ!もう耐えられなかったんだよ!治療してた時は無我夢中だったけど、落ち着いたら我慢出来なかったんだよ!」

 ジャスは、悔しそうに叫ぶ。



 ジャスは、逃げるつもりだった。逃げようと思っていた。

 しかし全く動けなかった。

 夜になってしまったので危ないから、と自分に言い聞かせていたが、多分理由は違う事を、薄っすらと自分でもわかっていた。

 とりあえず……とりあえず、アウルの枕元に痛み止めだけでも置いていってやろうと思って部屋に入った。

 まだ顔色が悪く、ぐっすり眠っているアウルを見た瞬間、ジャスは頭がぼーっとしてきた。

 アウルが外出している間も何度も感じたキスを欲する衝動が強く現れた。

 一瞬だけ。一回だけ。

 そう思ってついキスをした。

 あのときのようにアウルが起きたりはしなかった。

 深い眠りに入っているのだろう。

 起きないアウルを確認すると、ついもう一度、もう一度、と数回キスをする。

 そのうち酩酊状態になり、ついベットの横で寝てしまっていたのだ。



「お前のせいだからな。どうせお前が、寝てる間に僕に変なことしたんだろう」

 アウルは、開き直って泣きそうな顔をするジャスの頬を両手で掴んだ。

「泣くな。好きな時にキスすればいい」

「こっちが良くないんだってば」

「良いっつってんだろ。キスしてゆっくりと寝れんならそれでいい」

 そう呟いてアウルは頬をつかむ両手の力を緩めた。

「テメェが怖い思いをしないで、ゆっくりと寝れんなら、それでいいんだ。俺の誘惑魔法が、テメェを恐怖から守ってくれたんだな」

 信じられない程、見たことも無いほど優しい目をしてアウルはジャスを見た。

「俺の怪我、気持ち悪かっただろう。本当に悪夢になってねぇか?正直に言えよ」

「平気だって」

 ジャスはそっぽを向きながら答える。

 ていうか、なんでこんなに優しい顔をしてるんだ、気持ち悪い。

「……てか、何してんだよ。恨まれてる人のとこにわざわざ行ったんだろ?」

「クロウから聞いたのか」

 アウルは面倒くさそうに顔を顰めた。

「あいつ、余計な事言いやがって」

「馬鹿じゃねえの。ていうか、僕に怖い思いをさせない為だとか言われても、正直迷惑だからな」

「はあ?テメェの為だあ?」

 アウルは吐き捨てるように言った。

「自分の花嫁傷つけられる可能性あるのに黙って狙われるのを待ってる馬鹿がどこにいるってんだよ。花嫁に怖い思いさせてビービー泣かれんのも迷惑だ。先手打つのはあたりまえだろうが。テメェの為じゃねえ。俺の矜持だ」

「そのために顔潰れてもかよ」

「俺のモン守るのに、目玉一つで済むんなら安いもんだろうが」

 アウルは顔をそむけたままのジャスを無理矢理引っ張った。魔法ではなく、手で。

「別にテメェの為でもねえし、テメェのせいでもねえ。気負いだけはすんな」

 そう言ってジャスの体を乱暴に抱きしめた。

「大事にさせろ」


 やめてくれ、とジャスは思った。

 やめてくれ。何でそこまで優しい顔でそんな事を言うんだ。

 ジャスは呟くように声を絞り出してアウルに言った。

「僕は、お前が嫌いなんだ」

 価値観がおかしくて、傍若無人で、考え無しの馬鹿で。

「嫌いなのに。大嫌いなのに。お前から逃げたいのに」

 何度か逃げるチャンスはあったのに。

「でも、僕は流されやすくて」

 大事にされていることはわかっていた。やり方が下手くそ過ぎて気づかないふりをしたけど。何度か、何度も。

 ジャスはアウルの事は嫌いだ。でもこの先、ここまで愛して思ってくれる人は現れるだろうか。



「もう、降参だ」



 ジャスはアウルの目をしっかり見た。


「花嫁に、なる」


 ジャスの言葉に、アウルは大きく目を見開いた。


「何を今更。花嫁になるのは決定事項だっただろうが」


 そう言いながらもアウルの顔は嬉しそうだった。

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