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弱々しい
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アウルとジャスは、駅で汽車を待っていた。
魔法が使えなくなったので、汽車を使う他無かったのだ。
それも、御神木の依頼のときに使ったアウル専用の汽車ではなく、ごく普通の時間の決まっている汽車だ。
「1時間くらい、汽車来ないみたいだけど」
「クソっ。不便ったらありゃしねぇ」
アウルは悪態をつくとボロのベンチに腰掛けた。
「汽車が来たら起こせ。俺は少し寝る。まともに寝れなかったから体調がワリイ」
不機嫌そうにそう言うと、ベンチにごろりと横になった。
ジャスはすぐに熟睡に入ってしまったアウルを放っておいて駅の周辺を散歩した。
無人販売所から果物を買って一人食べる。
しばらくすると雨が降ってきたので慌てて駅に戻った。
駅の屋根はかなりボロボロで、雨漏りがすごかった。
寝ているアウルにもポタポタと雨粒が落ちている。
「おーい、びしょ濡れでも起きないのかよ」
相変わらず寝起き悪いなぁ、と呆れながらジャスはアウルにそっと触る。
「え?熱い……?」
ジャスは、慌ててアウルの頬を再度触ってみる。
「熱出てる?風邪?」
よく見ると顔色もさっきより悪くなっていた。
「魔法使いも風邪なんか引くのかよ…」
ジャスはアウルの濡れた上着を急いで脱がした。
「アウル、おーい、意識あるか?」
軽く頬をペチペチすると、邪魔くさそうにアウルは唸る。
意識はあるようだ。
ジャスは雨漏りのしていない場所にアウルを引きずっていき、自分の上着を着せた。少し小さかったので肩に掛けただけだ。
「えっと、平気?まだ汽車も来ないみたいだけど」
「大丈夫だ。こんなもん、大したことねぇ」
アウルは体をおこして荷物を漁る。
治療魔法薬を手にとって開けようとしたが、手が震えて滑り、落としてしまった。
薬はすぐに煙になって跡形もなく消えてしまった。
アウルは舌打ちをした。
「くそ、全部落ちちまった。勿体ねぇ」
「思ったより体弱ってるんじゃない」
ジャスの問に、アウルはふん、と鼻を鳴らす。
「問題ねぇ。帰れば薬はいくらでもある」
帰れば。
しかしまだ汽車は来ないし、汽車に乗れてもそこそこ時間がかかるようだ。
ジャスは不安そうにアウルを見つめた。
アウルの体調は段々と悪化していった。
ようやく汽車が来た頃には、アウルの顔は真っ青だった。
なんとか汽車に乗せると、ジャスは、さっき買った無人販売所の果物を剥いてアウルに差し出す。
「よく考えたら、アウル昨日からコーヒーも飲んでなくない?そりゃあ魔法使いだって体弱っちゃうよ」
アウルはジャスの果物を受け取らなかった。
「いらねぇ。食える気がしねぇ。大体、今更それだけの栄養素取ったって焼け石に水じゃねぇか」
「そりゃ、完全栄養食コーヒーに比べればたいしたことないかもしれないけど」
ジャスは呆れながら顔色の悪いアウルを見る。食える気がしねぇというのは本当なんだろう。無理させなくてもいいか、とジャスは果物を引っ込める。
熱が上がってきたようで、眠るにも眠れないようだった。
「ドロップを二度も苦しめた罰だろうな」
アウルはボソっと呟く。
いつも傍若無人なアウルの突然の弱々しい言葉に、ジャスは愕然とした。
「どうした?らしくない」
ジャスの言葉に、アウルはフン、とそっぽを向いた。
「彼女、最後に旦那さんに会えて嬉しそうだったよ」
ジャスは慰めるように言ったが、アウルは無反応だった。
アウルはしばらく何も言わず、ハァハァと荒い息だけをしていた。
「おい、なんか適当に話でもしろ」
突然アウルが言う。
変に話しかけないほうがいいと思っていたジャスはポカンとした。
「適当にって?」
「なんでもいい」
アウルは目を瞑ったままそう言った。
「あー、そういえばドロップって、なんとなく僕の姉に似てるなぁって思ったんだ。アウルってああいうタイプの顔が好みなんだな」
ジャスは、軽い話題を振ってみた。
聞いているような聞いていないような声で、アウルは、「ああ」とだけ言った。
「僕を花嫁にしようとしてるのも、もしかして顔が好みだからだったりしてー」
「ああ」
「いや、そこ、肯定するの……?」
「ああ」
「……あー、アウルー?」
「ああ」
全然話は理解して聞いているわけではないようだ。
ジャスは、昔母が言っていたことを思い出した。
病気になってる時には、とても寂しくなる人が多いの。誰かが近くにいるって感じることが出来るだけで安心するんだけどね。人の気配が、何よりの薬だったりするわ。
「魔法使いでも、寂しくなったりすんのかよ」
ジャスが呟くと、アウルは何も理解していない頭で「ああ」と答えた。
魔法が使えなくなったので、汽車を使う他無かったのだ。
それも、御神木の依頼のときに使ったアウル専用の汽車ではなく、ごく普通の時間の決まっている汽車だ。
「1時間くらい、汽車来ないみたいだけど」
「クソっ。不便ったらありゃしねぇ」
アウルは悪態をつくとボロのベンチに腰掛けた。
「汽車が来たら起こせ。俺は少し寝る。まともに寝れなかったから体調がワリイ」
不機嫌そうにそう言うと、ベンチにごろりと横になった。
ジャスはすぐに熟睡に入ってしまったアウルを放っておいて駅の周辺を散歩した。
無人販売所から果物を買って一人食べる。
しばらくすると雨が降ってきたので慌てて駅に戻った。
駅の屋根はかなりボロボロで、雨漏りがすごかった。
寝ているアウルにもポタポタと雨粒が落ちている。
「おーい、びしょ濡れでも起きないのかよ」
相変わらず寝起き悪いなぁ、と呆れながらジャスはアウルにそっと触る。
「え?熱い……?」
ジャスは、慌ててアウルの頬を再度触ってみる。
「熱出てる?風邪?」
よく見ると顔色もさっきより悪くなっていた。
「魔法使いも風邪なんか引くのかよ…」
ジャスはアウルの濡れた上着を急いで脱がした。
「アウル、おーい、意識あるか?」
軽く頬をペチペチすると、邪魔くさそうにアウルは唸る。
意識はあるようだ。
ジャスは雨漏りのしていない場所にアウルを引きずっていき、自分の上着を着せた。少し小さかったので肩に掛けただけだ。
「えっと、平気?まだ汽車も来ないみたいだけど」
「大丈夫だ。こんなもん、大したことねぇ」
アウルは体をおこして荷物を漁る。
治療魔法薬を手にとって開けようとしたが、手が震えて滑り、落としてしまった。
薬はすぐに煙になって跡形もなく消えてしまった。
アウルは舌打ちをした。
「くそ、全部落ちちまった。勿体ねぇ」
「思ったより体弱ってるんじゃない」
ジャスの問に、アウルはふん、と鼻を鳴らす。
「問題ねぇ。帰れば薬はいくらでもある」
帰れば。
しかしまだ汽車は来ないし、汽車に乗れてもそこそこ時間がかかるようだ。
ジャスは不安そうにアウルを見つめた。
アウルの体調は段々と悪化していった。
ようやく汽車が来た頃には、アウルの顔は真っ青だった。
なんとか汽車に乗せると、ジャスは、さっき買った無人販売所の果物を剥いてアウルに差し出す。
「よく考えたら、アウル昨日からコーヒーも飲んでなくない?そりゃあ魔法使いだって体弱っちゃうよ」
アウルはジャスの果物を受け取らなかった。
「いらねぇ。食える気がしねぇ。大体、今更それだけの栄養素取ったって焼け石に水じゃねぇか」
「そりゃ、完全栄養食コーヒーに比べればたいしたことないかもしれないけど」
ジャスは呆れながら顔色の悪いアウルを見る。食える気がしねぇというのは本当なんだろう。無理させなくてもいいか、とジャスは果物を引っ込める。
熱が上がってきたようで、眠るにも眠れないようだった。
「ドロップを二度も苦しめた罰だろうな」
アウルはボソっと呟く。
いつも傍若無人なアウルの突然の弱々しい言葉に、ジャスは愕然とした。
「どうした?らしくない」
ジャスの言葉に、アウルはフン、とそっぽを向いた。
「彼女、最後に旦那さんに会えて嬉しそうだったよ」
ジャスは慰めるように言ったが、アウルは無反応だった。
アウルはしばらく何も言わず、ハァハァと荒い息だけをしていた。
「おい、なんか適当に話でもしろ」
突然アウルが言う。
変に話しかけないほうがいいと思っていたジャスはポカンとした。
「適当にって?」
「なんでもいい」
アウルは目を瞑ったままそう言った。
「あー、そういえばドロップって、なんとなく僕の姉に似てるなぁって思ったんだ。アウルってああいうタイプの顔が好みなんだな」
ジャスは、軽い話題を振ってみた。
聞いているような聞いていないような声で、アウルは、「ああ」とだけ言った。
「僕を花嫁にしようとしてるのも、もしかして顔が好みだからだったりしてー」
「ああ」
「いや、そこ、肯定するの……?」
「ああ」
「……あー、アウルー?」
「ああ」
全然話は理解して聞いているわけではないようだ。
ジャスは、昔母が言っていたことを思い出した。
病気になってる時には、とても寂しくなる人が多いの。誰かが近くにいるって感じることが出来るだけで安心するんだけどね。人の気配が、何よりの薬だったりするわ。
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