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眠る少年
しおりを挟む奇奇怪怪の一日が終わりを告げる。後から考えると今日という日は今までに比べて本当に激しい一日だったと思う。賞金首を早く捕まえられたことはそう珍しいことではなかったが、今回は賞金首自体が特殊だった。あそこまで狂気的な殺人鬼を私は見たことはない。これからああいうものを沢山見て行くとなるとまるで終わりなき悪夢の永い続きをみているような気分になって胸が苦しくなる。あそこまで徹底的に人殺しを行う意図とはいったい何なのだろうか。そもそもの話ではあるが彼は何故酒場の人間を皆殺しにしたのか。強盗目的の殺人なら見たことはあったが、ただ人を殺す為にここまで派手にやらかすものなのか。わけが解らなくなってきた。
解らない事といえば自分の行動だ。今日の自分の行動が未だに自分で理解できていないし、理解できる可能性が見えない。何故『奴』を保護しようとでも思ったのか。いくらそれが幼い子供だったとしても彼は立派な犯罪者であり、立派な狂人であるはずだ。
なのに、私という愚か者は何故彼を宿屋まで隠し通してまで彼を保護しようと言う気に駆り立てられたのか、彼に助ける意義など存在したのか、全くもって分からない。これが彼の持つ力なのだろうか?とりあえず彼を自警団にばれない様に秘かに処理しなければならない。そうでなければまるで私が彼の悪行を補助したように見られかねないからだ。だがさっきから何度もこのことを試みたが一向にできやしない。やることになんら問題はなくむしろ今がチャンスであるのは既知のことである。しかしやろうとするたびにあと一歩が踏み出せない。まるで私の心が私自身を束縛してるような気分だ。そういえば酒場で戦闘のときからそうだった。あと一突きで彼を倒せた筈であったのになぜ気絶させる程度で済ませてしまったのか。なぜ彼の瞳だけに目が行ったしまったのだろうか。考えれば考えるほど分からない。
彼がいつ動き出すのかも分からない。今はまだ気絶しているからベッドに寝かせて無理やり封をして彼の動きを止めているが、彼がいつ目覚めるのか、いつ封が切れるのか分からない。今はそれが一番の懸念事項だ。
そういえばさっきから書いていて気付かなかったが何故急に『奴』を彼と呼ぶようになってしまったのか。彼は私と親しい間柄ではない筈だ。ますます自分の行動に疑問を感じる。
とりあえず私に対するこの束縛の意味を探らなければ――
その日の日記はそこで終わっていた。
旅人が旅路を往く中で世界も時間と共に旅を進めていた。しかしその旅路は一本道ではなかった。
いわば世界は混乱に満ちていた。この地域一帯を支配していた大帝国が内部の反乱によって崩壊、大帝国の威圧によって保たれた諸国の均衡や秩序は一夜にして無効化し諸種族の利害のみで衝突する紛争地帯へと様変わりした。紛争、ともなれば舞や村が突如戦場となるのは間違いない。もしそうでなかったとしても統制するもの、すなわちストッパーがなければそこで封じられてきた種族間の対立感情が炎上化するのは必至のこと。ともなればもうそれは闘争であり、紛争なのであった。
そうなると村や町は当然の如く荒廃の一途をたどってしまう。町や村が荒廃化すれば廃墟となるのは当然の理。廃墟となれば人々は職を失ってしまうのも当然の理。ならばそれが一部の人々によって犯罪へと駆り立ててしまう事も当然の理であった。
特に少年少女たちの犯罪はそれに起因するものが大きく、自らの意思で事を犯す割合はほぼ0に近い。彼等の犯罪の大半の理由は自分自身がお金に困っているか、家族を養うためかの二つのどちらかである。
旅人はその理論に沿って『奴』もその理由に当てはまるのではないかと考えた。ただしこれには問題点が一つ存在していた。それは『奴』が少年であるかどうかという問題であった。『奴』が少年であるならば、あの襲撃は何の為だったのだろうか。何の意味があるのだろか。金稼ぎのためならば殺し屋か。しかし『奴』が殺し屋だとすればあんなに大量殺人を依頼するものなどいない筈である。ならば強盗か。理由を考えれば考える程、旅人は混乱の渦に苦しめられていた。
その時ふと何かを思いつき、『奴』の顔を見ようとした。そもそも『奴』が本当に少年の顔をしていたかどうかが疑問点であったからだ。もし『奴』が人を襲う化け物であったら――
その可能性を否定する事はできなかった。『奴』は少年だと決定づけるにはあまりにも不審な点が多い。あんな大量殺人など人の心を失った化け物しかできる筈が無かったのだ。そう考えると旅人は恐ろしくて『奴』を見るのをとたんに躊躇し始めた。もしも『奴』が起きていたら、もしも『奴』が起きて旅人に襲い掛かったら、ということを考えていたら旅人は『奴』の顔を見るにみれなくない状況に陥ってしまった。しかし『奴』もいずれかは眠りから起き上がる身。危機的状況は必ず発生してしまう。ならば安全な時に全てを調べ上げた方がいつか起き上がった際にも対応できるはずであるのだ。そうして旅人は奴の顔を見た。
『奴』はやはり少年の顔をしていた。
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