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【番外編】生徒会長×ヒロ(不定期更新)
紘の想い2
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「…あ、の、蔵元」
「あれ、落ち着いた?」
しばらく泣いて、泣いて、泣いて、落ち着いてきたらこの状況が恥ずかしくて、なかなか落ち着いたことを言えなかった。
でもいつまでもしがみついているのも悪いし、顔を上げた。
静かだから寝ているのかと思ったけど起きていたようで、蔵元はまた撫でてきた。
「…ごめん、ほんと、ここ、すごい濡らして」
「いや、いーよ」
「ごめんな、今度、なんか奢るから、許してくれ」
「えっ、やった」
蔵元の胸のところはじっとり濡れていて、冬だから寒いだろうと思う。
「…なんで、こんな優しいんだよ」
初めて蔵元が入ってきた時、心臓が止まるかもってくらいに怖かった。話の流れからして、無理矢理ひどい事をされると思ったから。
けど、蔵元は、優しかった。ただ慰めてくれた。
「…んー、理由は2個あるんだけど、ヒミツ」
「えっ、」
「なーそれより、お腹すかない?どっか寄って帰ろう」
「え、うん。………………、」
「え!」
落ち着いたと思ったのにまたこみ上げてきた。だめだ、本当にだめだ。こんなに悲しい感情は初めてだ。視界がゆがんで、見えなくなる。
「なっなんで泣くの!?なんか嫌なこと言った!?俺!」
「ちが…っ、」
「あああ、ほら、よしよし」
「…ごめ、」
やっと離れた蔵元にまた抱きしめられて、濡れてる胸に顔をうずめた。また頭が撫でられる。
「どうしたんだよ」
「…………っお、俺、龍さんに嫌われたら死ぬってずっと思ってきた。ぐす…、龍さんがいないとダメだって」
「……ん、」
「けど、生きてんなって、思って…っ、なんで腹なんか減るんだろう…なんで、」
「……」
「なんで俺っ、龍さんいないのに生きてんだろ…っ」
龍さんのいない世界なんて考えられなかった。忙しくて会えなくても、どこかで龍さんが俺を大事に思ってくれていると考えるだけで幸せだった。
それは10年間全く変わらなくて、これから何十年も変わらないことなんだろうと思ってた。龍さんに大切な人ができても、大事に思っていてくれさえすれば俺は幸せだと思ってた。
けど、俺は今龍さんに見放されて、龍さんのいない世界を生きてる。それなのに、怖いくらいに何も変わらなくて、いつも通りの時間が流れてる。空はだんだん暗くなるし、こんなにつらいのに、寒さも空腹も忘れることはできない。当たり前に生きている。
「…日下くん」
パニックになって吐露したら、蔵元に痛いくらいに抱きしめられた。
「くら、もと、痛い」
「…!ご、ごめん」
「…なんで、蔵元がそんな悲しそうなんだ」
「……だって、つらくて」
そう言われて、わけもわからずとにかくまた泣いてしまった。
龍さんに見放されたら死ぬ、そう思っていた。けど、見放されても自然と息絶えるわけではない。だったら、自分で死ぬか、龍さんがいなくても生きていくか、二択しかない。
龍さんなしで生きるなんて、考えたこともなかった。考えるのが怖くて、死んでしまうと決めて逃げていた。そんなはずはないのに。そんなバカなことに、今になって気付いてしまった。
死なないのなら、こんなにつらいのは、どうしたら解放されるんだろう。
忘れることなんてできないのに。
10年経っても20年経っても、俺はきっと忘れないのに。
「…な、日下くん。代わりになんかならないかもしれないけど、俺なんかどうかな」
「…え」
「君の会長への想いを否定するつもりはないよ。俺なんかじゃダメってわかってる。けど、1人ぼっちよりかは、会長のこと考えなくても済むかなって」
蔵元は、俺の両手を優しく握って、ゆっくりそう言った。
「…なん、で」
「…俺も、ちょっと切ない片思いしてたから、かな」
「蔵元…」
「会長のこと思い出して切なくなったらさ、パッと俺のことも思い出してよ。呼んでくれたら行って話聞くし、泣いていいから」
俺も片思いのこと忘れられるしね、と言って笑う蔵元は、優しくて、少し癒された。
龍さんの代わりとかじゃなくて、蔵元は本当にいいやつで、つらい時に会えたら助かるかもしれないと思う。
「…じゃあ、お願いします」
「ぶっ、お願いしますって。お互い様なんだってば。あと、俺のことはクラでいいよ」
「…クラ」
「うん」
ふふっと笑って撫でられて、手を引かれて、屋上を後にした。
学校から出て、近くでハンバーガーをお礼におごって、ちゃんと笑って食べた。
たぶん、蔵元がいなかったら笑ってなかった。泣きながらまだ屋上にいた。
龍さんが、そのために蔵元を呼んでくれたのかな、なんてばかなことを思ってまた切なくなったけど、隣で笑う蔵元を見て、考えないようにした。
それから本当に、龍さんのいない生活が始まった。学校に来てないわけじゃない。
俺も龍さんも同じ学校にいるのに、たまに見かけるだけ。見かけても、目も合わない。
これが本当だったんだ、と今更気づいた。俺が会いに行かなかったら、龍さんが呼び出してくれなかったら、ほとんど交わることなく時間が過ぎていく。
トラは、気づいてるのか気づいていないのか、全く龍さんのことについて触れることはなかった。いつも通りツンツンして、でもどことなく優しい気もした。
安里は、全部知ってんだろうなと思う。俺が龍さんを好きなことも、ふられたことも。けどやっぱり、その話に触れてくることはなかった。
それから。
「日下くん、今日一緒に帰ろう」
「あー、うん、待って」
蔵元、クラは、あれからずっととにかく優しい。龍さんの話も、クラとだけはたまにした。どんなところが好きとか、昔どんなことがあったとか、龍さんはその時、どんな言葉をくれたとか。
話しているとじわじわと泣けてきて、その度にクラは悲しそうに頷きながら聞いてくれた。
ふられた瞬間よりも、落ち着いてきているとは思う。ふられた事実と、龍さんがいない事実が、ちゃんと理解できた気がする。
すれ違っても何も声をかけてくれないとき、何日喋ってないかな、と数えたとき、廊下を曲がった向こうで安里と話す声が聞こえて立ち止まってしまったとき、ああ、こういうことなんだな、と噛みしめる。
その場は堪えて、放課後にクラと話しながら泣いた。
「よしよし」
撫でられるのにも、抱きしめられるのにも慣れてきて、すっかりその優しさに甘えている。龍さんのことで頭がいっぱいになっても、クラに話を聞いてもらうと、少しずつ忘れられる気がする。
「もう、1ヶ月経つのに」
「うん、しょうがないよ。10年想ったんだもんな」
「……迷惑、ばっか」
「いいんだってば」
また、よしよしと撫でられる。
10年想いつづけたのは、何年経ったらなくなるんだろう。なくなってしまうのが、想像できない。
身体が弱くて軟禁状態で家からほとんど出たこともなかった俺に、外の世界を教えてくれた。外が怖いと言った俺を笑い飛ばして、強引に引っ張り出してくれた。そばにいるうちに龍さんの目に映る世界が見てみたくなって、怖くても泣きながらでもついて行った。
誰にもわからない。
毎日寝たきりで、1人でじっと天井を見ていた。たまに入って来る両親は食事と世話だけをくれて、愛ある会話や知識はくれなかった。それが生き物として不自然なことであると知らなかった。
外の音は怖かった。
両親に開けてはいけないと言われて、開けようとも思わなかった窓から、ある日突然龍さんが入ってきた。
なにもなかった真っ暗な世界を、龍さんが明るく照らしてくれた。
ずっと聞こえていた音は鳥の鳴き声だと知った。明るくなったり暗くなったりするのは太陽が昇って沈むからだと知った。人間はほんのちっぽけな存在で、地球は、宇宙は広大なんだと教えてくれた。
急に、世界が明るく、大きくなっていった。何度か外に出たことはあったのに、その時の何倍も、何倍も綺麗に見えた。
誰にもわからない。
俺にとって、龍さんの存在がどれだけ大きいか。どれだけ救われたか。
誰にも。
それはきっと、龍さんにも。
「あれ、落ち着いた?」
しばらく泣いて、泣いて、泣いて、落ち着いてきたらこの状況が恥ずかしくて、なかなか落ち着いたことを言えなかった。
でもいつまでもしがみついているのも悪いし、顔を上げた。
静かだから寝ているのかと思ったけど起きていたようで、蔵元はまた撫でてきた。
「…ごめん、ほんと、ここ、すごい濡らして」
「いや、いーよ」
「ごめんな、今度、なんか奢るから、許してくれ」
「えっ、やった」
蔵元の胸のところはじっとり濡れていて、冬だから寒いだろうと思う。
「…なんで、こんな優しいんだよ」
初めて蔵元が入ってきた時、心臓が止まるかもってくらいに怖かった。話の流れからして、無理矢理ひどい事をされると思ったから。
けど、蔵元は、優しかった。ただ慰めてくれた。
「…んー、理由は2個あるんだけど、ヒミツ」
「えっ、」
「なーそれより、お腹すかない?どっか寄って帰ろう」
「え、うん。………………、」
「え!」
落ち着いたと思ったのにまたこみ上げてきた。だめだ、本当にだめだ。こんなに悲しい感情は初めてだ。視界がゆがんで、見えなくなる。
「なっなんで泣くの!?なんか嫌なこと言った!?俺!」
「ちが…っ、」
「あああ、ほら、よしよし」
「…ごめ、」
やっと離れた蔵元にまた抱きしめられて、濡れてる胸に顔をうずめた。また頭が撫でられる。
「どうしたんだよ」
「…………っお、俺、龍さんに嫌われたら死ぬってずっと思ってきた。ぐす…、龍さんがいないとダメだって」
「……ん、」
「けど、生きてんなって、思って…っ、なんで腹なんか減るんだろう…なんで、」
「……」
「なんで俺っ、龍さんいないのに生きてんだろ…っ」
龍さんのいない世界なんて考えられなかった。忙しくて会えなくても、どこかで龍さんが俺を大事に思ってくれていると考えるだけで幸せだった。
それは10年間全く変わらなくて、これから何十年も変わらないことなんだろうと思ってた。龍さんに大切な人ができても、大事に思っていてくれさえすれば俺は幸せだと思ってた。
けど、俺は今龍さんに見放されて、龍さんのいない世界を生きてる。それなのに、怖いくらいに何も変わらなくて、いつも通りの時間が流れてる。空はだんだん暗くなるし、こんなにつらいのに、寒さも空腹も忘れることはできない。当たり前に生きている。
「…日下くん」
パニックになって吐露したら、蔵元に痛いくらいに抱きしめられた。
「くら、もと、痛い」
「…!ご、ごめん」
「…なんで、蔵元がそんな悲しそうなんだ」
「……だって、つらくて」
そう言われて、わけもわからずとにかくまた泣いてしまった。
龍さんに見放されたら死ぬ、そう思っていた。けど、見放されても自然と息絶えるわけではない。だったら、自分で死ぬか、龍さんがいなくても生きていくか、二択しかない。
龍さんなしで生きるなんて、考えたこともなかった。考えるのが怖くて、死んでしまうと決めて逃げていた。そんなはずはないのに。そんなバカなことに、今になって気付いてしまった。
死なないのなら、こんなにつらいのは、どうしたら解放されるんだろう。
忘れることなんてできないのに。
10年経っても20年経っても、俺はきっと忘れないのに。
「…な、日下くん。代わりになんかならないかもしれないけど、俺なんかどうかな」
「…え」
「君の会長への想いを否定するつもりはないよ。俺なんかじゃダメってわかってる。けど、1人ぼっちよりかは、会長のこと考えなくても済むかなって」
蔵元は、俺の両手を優しく握って、ゆっくりそう言った。
「…なん、で」
「…俺も、ちょっと切ない片思いしてたから、かな」
「蔵元…」
「会長のこと思い出して切なくなったらさ、パッと俺のことも思い出してよ。呼んでくれたら行って話聞くし、泣いていいから」
俺も片思いのこと忘れられるしね、と言って笑う蔵元は、優しくて、少し癒された。
龍さんの代わりとかじゃなくて、蔵元は本当にいいやつで、つらい時に会えたら助かるかもしれないと思う。
「…じゃあ、お願いします」
「ぶっ、お願いしますって。お互い様なんだってば。あと、俺のことはクラでいいよ」
「…クラ」
「うん」
ふふっと笑って撫でられて、手を引かれて、屋上を後にした。
学校から出て、近くでハンバーガーをお礼におごって、ちゃんと笑って食べた。
たぶん、蔵元がいなかったら笑ってなかった。泣きながらまだ屋上にいた。
龍さんが、そのために蔵元を呼んでくれたのかな、なんてばかなことを思ってまた切なくなったけど、隣で笑う蔵元を見て、考えないようにした。
それから本当に、龍さんのいない生活が始まった。学校に来てないわけじゃない。
俺も龍さんも同じ学校にいるのに、たまに見かけるだけ。見かけても、目も合わない。
これが本当だったんだ、と今更気づいた。俺が会いに行かなかったら、龍さんが呼び出してくれなかったら、ほとんど交わることなく時間が過ぎていく。
トラは、気づいてるのか気づいていないのか、全く龍さんのことについて触れることはなかった。いつも通りツンツンして、でもどことなく優しい気もした。
安里は、全部知ってんだろうなと思う。俺が龍さんを好きなことも、ふられたことも。けどやっぱり、その話に触れてくることはなかった。
それから。
「日下くん、今日一緒に帰ろう」
「あー、うん、待って」
蔵元、クラは、あれからずっととにかく優しい。龍さんの話も、クラとだけはたまにした。どんなところが好きとか、昔どんなことがあったとか、龍さんはその時、どんな言葉をくれたとか。
話しているとじわじわと泣けてきて、その度にクラは悲しそうに頷きながら聞いてくれた。
ふられた瞬間よりも、落ち着いてきているとは思う。ふられた事実と、龍さんがいない事実が、ちゃんと理解できた気がする。
すれ違っても何も声をかけてくれないとき、何日喋ってないかな、と数えたとき、廊下を曲がった向こうで安里と話す声が聞こえて立ち止まってしまったとき、ああ、こういうことなんだな、と噛みしめる。
その場は堪えて、放課後にクラと話しながら泣いた。
「よしよし」
撫でられるのにも、抱きしめられるのにも慣れてきて、すっかりその優しさに甘えている。龍さんのことで頭がいっぱいになっても、クラに話を聞いてもらうと、少しずつ忘れられる気がする。
「もう、1ヶ月経つのに」
「うん、しょうがないよ。10年想ったんだもんな」
「……迷惑、ばっか」
「いいんだってば」
また、よしよしと撫でられる。
10年想いつづけたのは、何年経ったらなくなるんだろう。なくなってしまうのが、想像できない。
身体が弱くて軟禁状態で家からほとんど出たこともなかった俺に、外の世界を教えてくれた。外が怖いと言った俺を笑い飛ばして、強引に引っ張り出してくれた。そばにいるうちに龍さんの目に映る世界が見てみたくなって、怖くても泣きながらでもついて行った。
誰にもわからない。
毎日寝たきりで、1人でじっと天井を見ていた。たまに入って来る両親は食事と世話だけをくれて、愛ある会話や知識はくれなかった。それが生き物として不自然なことであると知らなかった。
外の音は怖かった。
両親に開けてはいけないと言われて、開けようとも思わなかった窓から、ある日突然龍さんが入ってきた。
なにもなかった真っ暗な世界を、龍さんが明るく照らしてくれた。
ずっと聞こえていた音は鳥の鳴き声だと知った。明るくなったり暗くなったりするのは太陽が昇って沈むからだと知った。人間はほんのちっぽけな存在で、地球は、宇宙は広大なんだと教えてくれた。
急に、世界が明るく、大きくなっていった。何度か外に出たことはあったのに、その時の何倍も、何倍も綺麗に見えた。
誰にもわからない。
俺にとって、龍さんの存在がどれだけ大きいか。どれだけ救われたか。
誰にも。
それはきっと、龍さんにも。
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