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本編
ポチと海斗
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安里は俺をしばらく無言で見つめたあと、いつもとは違う、寂しそうな顔で淡々と話し始めた。
「俺、両親がいないんだよ」
「……、」
あまりにさらっと言うから、一瞬なにを言われたかわからなかった。一人暮らしをしているのはそういうことなのか、と思うと、もうそれだけで胸が締め付けられるみたいだ。
「小さい頃、俺とポチの目の前で事故が起きて、死んだ。そっから、親戚の叔父さんに引き取られた。そこはポチを飼うのを許してはくれなくて、叔父さんともうまくいかなくて、結局、先にポチを預かってもらった龍ん家で育てられた。…悪かったな、俺、この間おかしかったろ」
「…え、」
ポン、と頭を撫でられた。
俺はとにかく、淡々と語られる話の辛さに、なんて言えばいいかわからなかった。つらいことをこんなふうに話せることがまた悲しい。
「…ポチと龍ん家でもう一回会ってからは、落ち着いていられたんだけどな。…ポチも去年死んで、本当に家族がいなくなった。秋が近づいてきたら、事故のことを思い出して、平常心が保てない。眠れないし、身体は思うように動かないし、家から出るのも怖い」
「………安里、ごめん、俺、悪いこと、聞いたな」
「………おまえは、いつもそうだな。遠慮ばかりだ」
そうは言うけど、やっぱり安里はつらそうだ。
それを言って楽になるならいくらでも聞くけど、安里がつらいなら、聞きたいなんて思えない。遠慮とかじゃなくて。
「……おまえに、言いたくないわけじゃなかった。おまえは聞かないし、タイミングを逃してた」
また、ぽんぽんと頭を撫でられた。優しすぎて調子が狂う。
ふと思い出した。
「俺が安里の部屋に行った日、会長に送ってもらって帰ってきた日…甘い匂いがした。あれ…花の匂いか」
「……あぁ、命日だったんだ」
命日の1番つらい日に、俺は行ったのか。あの日本当につらそうだった。あの日の安里の様子が思い起こされて、俺が想像していたものなんか目じゃないくらいに壮絶なものと1人で戦っていたんだと思うと、涙が出た。
「あの日、お前が来て」
「………うん、」
「やっと眠れたんだ。1週間ほとんど眠れなくて、死にそうになってたのに、お前が来た瞬間眠気も来て」
「…………え、」
俺が見た安里は、ずっと寝ていた。気絶するように眠って、しばらくして起きて、起きてても寝てるみたいで、また寝て、そんなふうに生活していた。あれが、俺が部屋に行った時からそうなってたのか。
「それから数日あんま記憶もないんだ。………なんだよ、泣くなよ」
「…………俺、行ってよかったんだな」
「そうだよ」
「………じゃあ呼べよ……」
あの時、呼んでくれていたら。毎日ドア越しに会いには行ってたのに、すぐそばにいたのに、そのドアの向こうでは安里が1人で苦しんでいたんだと思うとつらい。
「……だいぶ頭がおかしくなってた自覚はあったから、呼ぶのも怖かった。引かれるかと思って」
「引くかよ………」
「………何回も呼ぼうと思ったんだけどな、ギリギリの理性が止めてた」
「……………、」
安里の中で俺はなんでもないただの犬なんだと思ってた。けど、自分で思ってたより、安里の中に俺はちゃんといるのかもしれない。ポチの代わりって考えてあんなに苦しかったのに、今は、少しでもポチの代わりになれてることが嬉しい。
「……ちゃんと答えるから、なんかあったら聞けよ。俺も聞くから」
「……わかった」
じゃあ早速聞くけど、と、安里の表情が少し厳しくなる。さっきまでちょっと甘い雰囲気が周囲を漂っていたのに、おかしい。
「俺はさっきの女、お前がどんな顔して怒るか楽しみにしてたのにな」
「…え」
「見てたくせにスルーとはな」
怒る、という発想は全くなかった。悲しいとは思ったけど。それを安里が不満そうにしている。
「しょうがねぇだろ。俺は男だし、女に勝てるわけねぇし…」
「………俺別に、女の方が好きとか言ったことないだろ」
確かに言われたことはない。けど、もし女の体だったら、って思ったことは何回もある。
「可愛くねぇし、セックスもできねぇし、勝てる要素がねぇよ」
「………ん?」
「だって無理だろ、俺、男だし」
「……」
安里が固まった。何か言いたそうにしながらも、しばらく俺を真顔で、無言で見つめてくる。何か変なことを言ったか?
「海斗、ゲイって知ってるか」
「え、おぉ…」
いきなりなんだ。下手したら俺もそこに分類されるんだろうってこともわかってる。
「ゲイも、セックスするんだ」
「え、どうやって!」
「……」
安里の顔が、青ざめた、気がした。はーーと長めのため息をつかれる。
「……安里?どうしたんだよ」
「…海斗、ゲイはな、尻でセックスするんだ」
「…………つまり、」
「セックスはしたな」
「……」
ちょっと、待ってほしい。情報が入ってくる速度が、処理速度を大幅に上回った。
あの物凄く痛かったやつ、あれがもしかしてセックスだったのか?俺はただ耐えてたけど、安里はちゃんとそのつもりでいてくれたってことなのか?
「…………っっ」
「わかったかよ。なんだと思ってたんだ…」
「性欲処理……」
「……」
バシンと頭をはたかれた。そりゃそういうものだって知ってた安里からしたらそうかもしれないけど、俺は本当に知らなかった。
「………は!!っ嘘だろ、俺…」
「ん?」
安里に抱かれてたっていうのに、俺はそれを知らないまま、ただ苦痛に耐えて過ごしてしまった。知ってたら痛くてもたぶん物凄く嬉しかったし、全部記憶に焼き付けようとしたはずなのに。
「なんかすげぇ、もったいないこと、した気がする…」
「……じゃ、仕切り直しだな」
「…っ」
床にゆっくり押し倒されて、めちゃくちゃ綺麗な顔が覆い被さってきた。
メイド服の下からスカートの中に手が入ってきて、太股を撫でられる。
「っ!」
くすぐったくて思わずビク、と動いたら、上の方から、ふ、と笑う声が聞こえた。
「…海斗、痛いのと、痛くないの、どっちがいい?」
「えっ…」
いきなりなんの脈絡もなく安里から提示されたのは、2択。しかも考えるまでもないような選択肢だ。
「そりゃ、痛くないほうが…」
「…は、わかった」
優しくしてやるよ、と耳元で言われて、それだけで心臓がばくばく鳴った。さっきまでもかなり鳴ってたから、心臓への負担が凄そうだ。
床に倒されてた俺は、腕を引かれて起こされた。胡座をかく安里の足の間に入れられて、密着して抱きかかえられる。背中に回された安里の手が、俺の腰の後ろで結んでたリボンを音を立ててほどいて、後ろのファスナーを下ろしていく。
その間、安里の顔は、俺の首筋とか耳の後ろにキスを繰り返してくる。さらさら首にあたる安里の柔らかい髪の毛も、唇の感触も、ぞくぞくしてたまらない。痛いことは何もなくて、今日はただ、優しい。
「…っぅ、」
「ん?くすぐったいか?」
スカートの下から入れられた手が、はだけた背中を撫でる。背骨をなぞるみたいな動きにゾクゾクして身体が揺れたら、耳に、目元にキスされた。
「…ちょ、安里…っ!なんか、前と違う…!」
「痛くないほうがいいんだろ?」
「そうだけど…っ!」
それは当たり前だ。痛い方がいいはずはない。けどなんかいつもと違いすぎて、調子が狂うっていうか、どうしていいのかわからない。
まず、向かいあってるのが緊張する。全部安里には見えてるんだって思ったら、いたたまれなくなる。
しかも、俺は興奮してるのに、背中とか腰を触ってきて焦らされる。散々触ったあと、やっとパンツ越しにだけどモノに触ってくれた。
「…ッぅあ、」
「…は、完勃ちじゃねえか」
「…っは、安里、」
「ほら、しがみついとけよ」
まだなんにもされてないのに、俺はもうクタクタで、力が入らない。
「海斗、腰あげろ」
「え、うわ…っ」
下から抱えられて、ちょっとだけ身体が浮いた。安里の太股に乗せられたから、体重をかけないように膝を床につけた。安里にしがみついて膝立ちの体勢になる。
「俺、両親がいないんだよ」
「……、」
あまりにさらっと言うから、一瞬なにを言われたかわからなかった。一人暮らしをしているのはそういうことなのか、と思うと、もうそれだけで胸が締め付けられるみたいだ。
「小さい頃、俺とポチの目の前で事故が起きて、死んだ。そっから、親戚の叔父さんに引き取られた。そこはポチを飼うのを許してはくれなくて、叔父さんともうまくいかなくて、結局、先にポチを預かってもらった龍ん家で育てられた。…悪かったな、俺、この間おかしかったろ」
「…え、」
ポン、と頭を撫でられた。
俺はとにかく、淡々と語られる話の辛さに、なんて言えばいいかわからなかった。つらいことをこんなふうに話せることがまた悲しい。
「…ポチと龍ん家でもう一回会ってからは、落ち着いていられたんだけどな。…ポチも去年死んで、本当に家族がいなくなった。秋が近づいてきたら、事故のことを思い出して、平常心が保てない。眠れないし、身体は思うように動かないし、家から出るのも怖い」
「………安里、ごめん、俺、悪いこと、聞いたな」
「………おまえは、いつもそうだな。遠慮ばかりだ」
そうは言うけど、やっぱり安里はつらそうだ。
それを言って楽になるならいくらでも聞くけど、安里がつらいなら、聞きたいなんて思えない。遠慮とかじゃなくて。
「……おまえに、言いたくないわけじゃなかった。おまえは聞かないし、タイミングを逃してた」
また、ぽんぽんと頭を撫でられた。優しすぎて調子が狂う。
ふと思い出した。
「俺が安里の部屋に行った日、会長に送ってもらって帰ってきた日…甘い匂いがした。あれ…花の匂いか」
「……あぁ、命日だったんだ」
命日の1番つらい日に、俺は行ったのか。あの日本当につらそうだった。あの日の安里の様子が思い起こされて、俺が想像していたものなんか目じゃないくらいに壮絶なものと1人で戦っていたんだと思うと、涙が出た。
「あの日、お前が来て」
「………うん、」
「やっと眠れたんだ。1週間ほとんど眠れなくて、死にそうになってたのに、お前が来た瞬間眠気も来て」
「…………え、」
俺が見た安里は、ずっと寝ていた。気絶するように眠って、しばらくして起きて、起きてても寝てるみたいで、また寝て、そんなふうに生活していた。あれが、俺が部屋に行った時からそうなってたのか。
「それから数日あんま記憶もないんだ。………なんだよ、泣くなよ」
「…………俺、行ってよかったんだな」
「そうだよ」
「………じゃあ呼べよ……」
あの時、呼んでくれていたら。毎日ドア越しに会いには行ってたのに、すぐそばにいたのに、そのドアの向こうでは安里が1人で苦しんでいたんだと思うとつらい。
「……だいぶ頭がおかしくなってた自覚はあったから、呼ぶのも怖かった。引かれるかと思って」
「引くかよ………」
「………何回も呼ぼうと思ったんだけどな、ギリギリの理性が止めてた」
「……………、」
安里の中で俺はなんでもないただの犬なんだと思ってた。けど、自分で思ってたより、安里の中に俺はちゃんといるのかもしれない。ポチの代わりって考えてあんなに苦しかったのに、今は、少しでもポチの代わりになれてることが嬉しい。
「……ちゃんと答えるから、なんかあったら聞けよ。俺も聞くから」
「……わかった」
じゃあ早速聞くけど、と、安里の表情が少し厳しくなる。さっきまでちょっと甘い雰囲気が周囲を漂っていたのに、おかしい。
「俺はさっきの女、お前がどんな顔して怒るか楽しみにしてたのにな」
「…え」
「見てたくせにスルーとはな」
怒る、という発想は全くなかった。悲しいとは思ったけど。それを安里が不満そうにしている。
「しょうがねぇだろ。俺は男だし、女に勝てるわけねぇし…」
「………俺別に、女の方が好きとか言ったことないだろ」
確かに言われたことはない。けど、もし女の体だったら、って思ったことは何回もある。
「可愛くねぇし、セックスもできねぇし、勝てる要素がねぇよ」
「………ん?」
「だって無理だろ、俺、男だし」
「……」
安里が固まった。何か言いたそうにしながらも、しばらく俺を真顔で、無言で見つめてくる。何か変なことを言ったか?
「海斗、ゲイって知ってるか」
「え、おぉ…」
いきなりなんだ。下手したら俺もそこに分類されるんだろうってこともわかってる。
「ゲイも、セックスするんだ」
「え、どうやって!」
「……」
安里の顔が、青ざめた、気がした。はーーと長めのため息をつかれる。
「……安里?どうしたんだよ」
「…海斗、ゲイはな、尻でセックスするんだ」
「…………つまり、」
「セックスはしたな」
「……」
ちょっと、待ってほしい。情報が入ってくる速度が、処理速度を大幅に上回った。
あの物凄く痛かったやつ、あれがもしかしてセックスだったのか?俺はただ耐えてたけど、安里はちゃんとそのつもりでいてくれたってことなのか?
「…………っっ」
「わかったかよ。なんだと思ってたんだ…」
「性欲処理……」
「……」
バシンと頭をはたかれた。そりゃそういうものだって知ってた安里からしたらそうかもしれないけど、俺は本当に知らなかった。
「………は!!っ嘘だろ、俺…」
「ん?」
安里に抱かれてたっていうのに、俺はそれを知らないまま、ただ苦痛に耐えて過ごしてしまった。知ってたら痛くてもたぶん物凄く嬉しかったし、全部記憶に焼き付けようとしたはずなのに。
「なんかすげぇ、もったいないこと、した気がする…」
「……じゃ、仕切り直しだな」
「…っ」
床にゆっくり押し倒されて、めちゃくちゃ綺麗な顔が覆い被さってきた。
メイド服の下からスカートの中に手が入ってきて、太股を撫でられる。
「っ!」
くすぐったくて思わずビク、と動いたら、上の方から、ふ、と笑う声が聞こえた。
「…海斗、痛いのと、痛くないの、どっちがいい?」
「えっ…」
いきなりなんの脈絡もなく安里から提示されたのは、2択。しかも考えるまでもないような選択肢だ。
「そりゃ、痛くないほうが…」
「…は、わかった」
優しくしてやるよ、と耳元で言われて、それだけで心臓がばくばく鳴った。さっきまでもかなり鳴ってたから、心臓への負担が凄そうだ。
床に倒されてた俺は、腕を引かれて起こされた。胡座をかく安里の足の間に入れられて、密着して抱きかかえられる。背中に回された安里の手が、俺の腰の後ろで結んでたリボンを音を立ててほどいて、後ろのファスナーを下ろしていく。
その間、安里の顔は、俺の首筋とか耳の後ろにキスを繰り返してくる。さらさら首にあたる安里の柔らかい髪の毛も、唇の感触も、ぞくぞくしてたまらない。痛いことは何もなくて、今日はただ、優しい。
「…っぅ、」
「ん?くすぐったいか?」
スカートの下から入れられた手が、はだけた背中を撫でる。背骨をなぞるみたいな動きにゾクゾクして身体が揺れたら、耳に、目元にキスされた。
「…ちょ、安里…っ!なんか、前と違う…!」
「痛くないほうがいいんだろ?」
「そうだけど…っ!」
それは当たり前だ。痛い方がいいはずはない。けどなんかいつもと違いすぎて、調子が狂うっていうか、どうしていいのかわからない。
まず、向かいあってるのが緊張する。全部安里には見えてるんだって思ったら、いたたまれなくなる。
しかも、俺は興奮してるのに、背中とか腰を触ってきて焦らされる。散々触ったあと、やっとパンツ越しにだけどモノに触ってくれた。
「…ッぅあ、」
「…は、完勃ちじゃねえか」
「…っは、安里、」
「ほら、しがみついとけよ」
まだなんにもされてないのに、俺はもうクタクタで、力が入らない。
「海斗、腰あげろ」
「え、うわ…っ」
下から抱えられて、ちょっとだけ身体が浮いた。安里の太股に乗せられたから、体重をかけないように膝を床につけた。安里にしがみついて膝立ちの体勢になる。
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