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本編
世話する犬
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目を覚ました時、2人でベッドに倒れ込んだままの体勢だった。
気がつけば外は暗くて、スマホで時間を確認したらちょうど深夜を回ったくらい。いつも安里に言われているから、今更かなと思いつつも母親に泊まると連絡を入れる。
安里はまだぐっすり寝ている。
来た時は余裕がなくて気付かなかったけど、見渡すと部屋は珍しくかなり荒れている。床に散らばる物を踏まないように、安里を起こさないように静かにリビングへ向かう。
「……なんだこれ」
思わず口の中で小さく呟いた。
キッチンには食器と、何かを食べた後のトレーが積み上げてある。ソファの周りには衣服、そして部屋の端には、割れた皿か何かの破片がそのままになっていた。
この一週間で安里に何かが起こっているのは間違いないようだった。それが何かはわからないけど、綺麗好きの安里がこんなの、絶対におかしい。
とりあえず片付けよう。綺麗になってれば少し気分が晴れるかもしれない。
まずはゴム手袋をして破片を片付けて、掃除機は使えないから雑巾で拭いてコロコロもした。それから食器洗い。洗濯は無理だけど一応畳んで、と黙々と片付けて、廊下に投げっぱなしになっていたジュースとゼリーも入れとこうと、冷蔵庫を開けた。
そしたらそれまでに俺が買ってきた物たちが、袋のまま冷蔵庫に並べてあった。袋のまま入れるなんて安里らしくない。けど一応ちゃんと回収して、冷蔵庫に入れてくれてる。
「…ほとんど減ってねぇ」
食器が出てたから何かしら食べてはいるんだろうけど、痩せてるし、この部屋の荒れ具合から見ても、まともに食べる余裕があるとは思えなかった。
山元が言ってた、去年もしばらく学校に来なかったって、どれくらいの期間なんだろう?たった1週間でこれなら、もし1ヶ月続いたらどうなるんだ?そばにいて、安里が元気になるまで部屋の掃除でも料理でもできることはしたい。けど、許してくれるだろうか。
考えながら黙々と片付けをしていると、急に、ガタン!という大きな音が聞こえた。
それは安里の部屋からで、畳んでいる途中だった服を放り投げて、駆け寄った。
「安里!」
「…海斗…」
電気もつけずに、覇気なく部屋に立つ安里。さっきの音は、たぶん椅子が倒れた音だ。
「……海斗、どこ行ってた」
「洗いもんとかしてた。大丈夫か?」
「………大丈夫、部屋、汚かったろ」
「もう掃除したから大丈夫」
「………」
本当に気だるげに、安里はゆっくりとベッドに腰掛ける。はぁ、とため息をついて、両手で顔を覆ってしまった。
「…、安里」
「……」
勝手に片付けたことを怒ってるのか体調が悪いのかわからなくて、けどとにかく背中をさすろうと近寄ったら、腕を掴まれた。
「……ここにいろって、言った」
「……………、ご、ごめん」
拗ねたような口調に、驚いてしばらく何も言えなかった。もしかして、起きた時に横にいなかったから拗ねてたのか?
「………」
無言で腕を引かれて、安里の横に座る。俯いていて髪が顔にかかってるから表情はよく見えないけど、拗ねてるんだとしたら、可愛すぎないか?
想定外の展開にドキドキしていたら、すり、と肩に頭を擦り付けてきて、たまらない気持ちになる。可愛いなんて言ったら絶対に怒られるから、必死で平静を装った。
「…俺、しばらく風呂入れてないんだ」
安里が俺の方を向いて、ずっと髪で隠れてた顔が、やっと見える。俺の好きな顔が、間近で、いつもよりちょっととろんとしていて、上目遣いで、甘えるように。
「…洗ってくれ」
「わかった」
たぶんちょっと食い気味だった。
ぼーっと座ってる安里の服を脱がせて、俺も脱いで、全裸で手を引いて風呂場へ向かう。大人しく風呂場の椅子に座ってる安里を綺麗に洗ってやって、俺も簡単に洗って、拭いて、服を着せて、リビングのソファに座らせて、ドライヤーで髪を乾かす。
「………」
帰れっていつ言われるかと思ってたけど、安里の部屋着を勝手に着ても何も言われなかった。
「なんか食うか?」
「……なにか、食う」
「なにか」
冷蔵庫を漁って、賞味期限が3日切れてる卵を見つけた。卵は火を通せば賞味期限が多少切れてても余裕だ。安里の家で料理をするようになって、それまで知らなかった知識がかなり増えた。
炊飯器でご飯を早炊きにして、炊いてる間にネギを切って、水を沸騰させて、適当に粉末の出汁を入れて、炊けたらご飯を入れて、卵を溶いて入れて、塩を入れて、卵がゆを作った。海苔を破って入れて、ソファーでぼーっとしてる安里に渡す。
「…食わせて」
「………」
とことん甘えてくる。なんなんだ可愛い。たぶんいつもの安里に戻ったら、こんなことはもうないだろう。フーフーして冷まして、安里の口に入れる。時々俺も食べて、しっかり完食した。
お粥だから腹持ちは良くないだろうけど、とりあえずあったかい物を口にしてる安里を見れてよかった。折角だからと、買っておいたゼリーも開けてみたら安里も食べた。
歯を磨いてやって、トイレにも案内して、終わったらベッドまで連れて行く。
「……おまえもここで寝ろ」
布団をめくって、ポンポンと叩いて呼ばれる。そこに寝転んだら、ヨイショと抱えられて撫でられて、目の前に綺麗な顔があって、ちょんと当たるだけのキスをされて、そのまま安里はスーッと眠ってしまった。
俺はもう、甘えられるのも、必要とされてるのも嬉しくて、気持ちは布団の中で踊りたいくらいに浮かれてる。
今日の安里は物凄く素直で正直かなり可愛いし、相変わらずかっこいいし、世話するのは少しも苦じゃない。けど、弱ってるってのはすごいわかるから、早く元気になってほしいと思う。
明日も学校なのに目覚ましセットし忘れたな、と思いながら、でももう動けないし、いいか、と俺も目を閉じた。
気がつけば外は暗くて、スマホで時間を確認したらちょうど深夜を回ったくらい。いつも安里に言われているから、今更かなと思いつつも母親に泊まると連絡を入れる。
安里はまだぐっすり寝ている。
来た時は余裕がなくて気付かなかったけど、見渡すと部屋は珍しくかなり荒れている。床に散らばる物を踏まないように、安里を起こさないように静かにリビングへ向かう。
「……なんだこれ」
思わず口の中で小さく呟いた。
キッチンには食器と、何かを食べた後のトレーが積み上げてある。ソファの周りには衣服、そして部屋の端には、割れた皿か何かの破片がそのままになっていた。
この一週間で安里に何かが起こっているのは間違いないようだった。それが何かはわからないけど、綺麗好きの安里がこんなの、絶対におかしい。
とりあえず片付けよう。綺麗になってれば少し気分が晴れるかもしれない。
まずはゴム手袋をして破片を片付けて、掃除機は使えないから雑巾で拭いてコロコロもした。それから食器洗い。洗濯は無理だけど一応畳んで、と黙々と片付けて、廊下に投げっぱなしになっていたジュースとゼリーも入れとこうと、冷蔵庫を開けた。
そしたらそれまでに俺が買ってきた物たちが、袋のまま冷蔵庫に並べてあった。袋のまま入れるなんて安里らしくない。けど一応ちゃんと回収して、冷蔵庫に入れてくれてる。
「…ほとんど減ってねぇ」
食器が出てたから何かしら食べてはいるんだろうけど、痩せてるし、この部屋の荒れ具合から見ても、まともに食べる余裕があるとは思えなかった。
山元が言ってた、去年もしばらく学校に来なかったって、どれくらいの期間なんだろう?たった1週間でこれなら、もし1ヶ月続いたらどうなるんだ?そばにいて、安里が元気になるまで部屋の掃除でも料理でもできることはしたい。けど、許してくれるだろうか。
考えながら黙々と片付けをしていると、急に、ガタン!という大きな音が聞こえた。
それは安里の部屋からで、畳んでいる途中だった服を放り投げて、駆け寄った。
「安里!」
「…海斗…」
電気もつけずに、覇気なく部屋に立つ安里。さっきの音は、たぶん椅子が倒れた音だ。
「……海斗、どこ行ってた」
「洗いもんとかしてた。大丈夫か?」
「………大丈夫、部屋、汚かったろ」
「もう掃除したから大丈夫」
「………」
本当に気だるげに、安里はゆっくりとベッドに腰掛ける。はぁ、とため息をついて、両手で顔を覆ってしまった。
「…、安里」
「……」
勝手に片付けたことを怒ってるのか体調が悪いのかわからなくて、けどとにかく背中をさすろうと近寄ったら、腕を掴まれた。
「……ここにいろって、言った」
「……………、ご、ごめん」
拗ねたような口調に、驚いてしばらく何も言えなかった。もしかして、起きた時に横にいなかったから拗ねてたのか?
「………」
無言で腕を引かれて、安里の横に座る。俯いていて髪が顔にかかってるから表情はよく見えないけど、拗ねてるんだとしたら、可愛すぎないか?
想定外の展開にドキドキしていたら、すり、と肩に頭を擦り付けてきて、たまらない気持ちになる。可愛いなんて言ったら絶対に怒られるから、必死で平静を装った。
「…俺、しばらく風呂入れてないんだ」
安里が俺の方を向いて、ずっと髪で隠れてた顔が、やっと見える。俺の好きな顔が、間近で、いつもよりちょっととろんとしていて、上目遣いで、甘えるように。
「…洗ってくれ」
「わかった」
たぶんちょっと食い気味だった。
ぼーっと座ってる安里の服を脱がせて、俺も脱いで、全裸で手を引いて風呂場へ向かう。大人しく風呂場の椅子に座ってる安里を綺麗に洗ってやって、俺も簡単に洗って、拭いて、服を着せて、リビングのソファに座らせて、ドライヤーで髪を乾かす。
「………」
帰れっていつ言われるかと思ってたけど、安里の部屋着を勝手に着ても何も言われなかった。
「なんか食うか?」
「……なにか、食う」
「なにか」
冷蔵庫を漁って、賞味期限が3日切れてる卵を見つけた。卵は火を通せば賞味期限が多少切れてても余裕だ。安里の家で料理をするようになって、それまで知らなかった知識がかなり増えた。
炊飯器でご飯を早炊きにして、炊いてる間にネギを切って、水を沸騰させて、適当に粉末の出汁を入れて、炊けたらご飯を入れて、卵を溶いて入れて、塩を入れて、卵がゆを作った。海苔を破って入れて、ソファーでぼーっとしてる安里に渡す。
「…食わせて」
「………」
とことん甘えてくる。なんなんだ可愛い。たぶんいつもの安里に戻ったら、こんなことはもうないだろう。フーフーして冷まして、安里の口に入れる。時々俺も食べて、しっかり完食した。
お粥だから腹持ちは良くないだろうけど、とりあえずあったかい物を口にしてる安里を見れてよかった。折角だからと、買っておいたゼリーも開けてみたら安里も食べた。
歯を磨いてやって、トイレにも案内して、終わったらベッドまで連れて行く。
「……おまえもここで寝ろ」
布団をめくって、ポンポンと叩いて呼ばれる。そこに寝転んだら、ヨイショと抱えられて撫でられて、目の前に綺麗な顔があって、ちょんと当たるだけのキスをされて、そのまま安里はスーッと眠ってしまった。
俺はもう、甘えられるのも、必要とされてるのも嬉しくて、気持ちは布団の中で踊りたいくらいに浮かれてる。
今日の安里は物凄く素直で正直かなり可愛いし、相変わらずかっこいいし、世話するのは少しも苦じゃない。けど、弱ってるってのはすごいわかるから、早く元気になってほしいと思う。
明日も学校なのに目覚ましセットし忘れたな、と思いながら、でももう動けないし、いいか、と俺も目を閉じた。
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