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7.たぎる血潮

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 与えられた自室に戻り寝台に人心地をつくと、身体に異変がおとずれた。…………なんか、むずむずする。血を流した場所がじくじくと痛み、熱を持っている。神殿を出たあとクゥトによって包帯は巻かれていたし、血が滲んでいる気配もないが、生ぬるく疼いて、それが血流に乗って、全身に伝播していく、妙な感覚だけがある。

 なにかしらの不調だろうか。息が上がってきたし、背中あたりがびりびりする。ぎゅうと丸まってやりすごそうにも、肌と衣服が擦れ合う感覚を鋭敏に感じとってしまう。
 不調っていうか――これって、もしかして、発情してる? え、なんで? 血を流したから? ぼくってじつはマゾだった? わけわからんぞ。
 いかに淫蕩を極めしぼくといえど、理由なしに発情など、ちょっとした恐怖だ。や、たぶんあの儀式が関係しているとは思うのだが……詳しいところがまるでわからない。
 下衣をゆるく押し上げる自分のモノを見ながら、まじかあ……とつぶやく。ここには、おのれひとりだけ。ひとりで処理なんて、いつぶりだ。
 いさぎよく下衣を脱いで、天に向かって反り立つ自分のモノに触れる。

「わ……びちょびちょ……」

 先走りがすごいことになってる。透明なしずくがペニス全体を濡らして、あわれさすらおぼえるほどだ。

「……っはぁ、」

 先走りを塗りたくるように上下に軽く扱きながら、衣服の上から胸のいただきを軽くつまむ。単純な刺激なのに、それだけで、イイ。アー……絶対これおかしい……普段自慰でこんなんにならないもん。
 まぶたを閉じ、ひたすら快感を追いかけている、その最中で。
 コン、コン、とノックが鳴った。
 反射で飛び起きる。この部屋に訪れるのは基本、一人しかいない。王族からの呼び出しでさえも、そのひとからを通じてしか、行われないから。
 ぺたりとベッドから降りて、扉にまで向かう。これで扉を開けたら下半身丸出しの変態男になるが、まあ仕方ない。想定外の人物だったとして、案外、物事ってどうにでもなるもんだし。
 思考がゆだっている。ぼくはぜんぜん、正常じゃない。裸体を見られて恥ずかしいと思うような倫理観は神にはないが、それが人間社会で非常識であるという自覚はある。それでもいま、こうして扉を開けようとしているんだか
ら。

 ――果たして、扉の先にいたのはクゥトだった。

 視認するより先に、出会い頭、首に絡みついて口づけた。

「アレ――んぅ、」

 部屋に引きずり込んで、いきなりのことでぼくを受け止めきれずに倒れ込んだクゥトのくちびるを舐める。また頭突きされるかな。それはちょっと嫌だけど、止まらない。
 ペニスが痛いくらい張り詰めている。クゥトの腰にそれを擦り付けると、ぼくの状態を察したのか「ああ……」となんとも言えない声を出した。

「これ、なに……ふ、ぎしきにこんな効果あるっの……?」
「それは……。……それより、私いま、襲われてる……?」
「うん……っ」
「かわいい……」

 かわいい? いや、造形だけでいったら、かわいいと言えなくもないだろうが、いまクゥトの口から出る言葉か、それ? 
 クゥトは、拒む気配が、ない。……どころか、骨ばったてのひらが、ぼくの両頬をつつみ、星屑の瞳と目が合う。その奥底がこれでもかと、溶けているのを知る。……あ、神殿のときの、顔だ。

「クゥト……」
「ん、」

 くちびるが、たべられた。あわいをつつかれ、クゥトの長い舌が、ぼくの咥内に侵入してくる。粘膜どうしがすりあって、うわあごまでべろりと舐められるのが、たまらなく気持ちいい。
 夢中になってクゥトの舌を追いすがる。くちびるの端から唾液がこぼれて、さぞみっともない顔をしているだろうが、その合間にもクゥトは「かわいい、」と言葉を落としてくるのだから、よほど熱に浮かされている。
 腰がむずむずして、へこへこと動きが止まらない。クゥトに擦り付けているから、クゥト自身の熱さも直に感じる。……クゥトも、勃っている。
 挿れたい、し挿れられたい。どっちでもいいけど、どっちかはしたい。……進んでも許されるだろうか。この発情が、クゥト本人の意思じゃないことは、さすがにわかるので、迷う。迷うくらいにはまだ、冷静な部分があるらしかった。

「アレイ、さま……」

 溶けて消えそうなほど小さな声で、名前を呼ばれる。祈りのような響きだった。

「私を見て……」

 いじらしくて、クゥトのほうがよほどかわいらしい。
 そういう、我慢できなくなることを、言わないでほしい。いや、ほんとうに……。神らしく傲慢に、ぼくのものにしたくなるじゃないか。
 頭の端で考えているうちに、どさりと床に押し倒された。
 クゥトの長い白髪がカーテンになって、ぼくを閉じ込める。

「いい……?」

 否と言うつもりなんて微塵もないけれど、うるんだ瞳や上気した頬、ほんとう、びっくりするくらいの色気が発せられて、これを断れる人なんていないだろうと思う。
 返事の代わりに、首裏にてのひらを持って行き、引き寄せた。耳元に、熱を囁く。

「……たくさんシて」
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