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幕間2
一節 鏡の国のアリス
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鏡は鏡を反射する。鏡は自分の心を映し出す。どんなに美しい容姿でも、心を映し出せばもう終わり。
人の振り見て我が振り直せ。
鏡は誰をも映し出し、本は全てを記しだす。
本を読むことはすなわち自分を見つめ直すことに他ならない。
魔法使いは長いつばのついが三角帽子をしきりに左右に揺らす。卓上に置かれた本をしきりに指でなぞる忙しない動きはまさに何かを楽しみにする子供のようだ。
ティーカップの中身は空で、水滴一つも残っていない。
しばらく待てばあたり一帯をクラゲのようにただよう光が一瞬で中心に集い始める。
「おかえり、今回はどうだったかな?」
魔法使いは妖艶な笑みをたたえながら光の先へと声をかける。
「まぁ、よかったかな……」
曖昧な返答を返した光は少女の身体を象りはじめ、はじけると制服を纏った桃髪の少女が現れる。
「それならよかった。私も読ませた甲斐があるよ」
「なんか上からだな……」
少しばかりの不満を漏らしながらも少女は腰かける魔法使いへの前へと足を動かす。
一冊目の本を読んだ時よりも表情は明るく、その様子に魔法使いは相変わらず怪しい笑みを浮かべ続けた。
「ほら、お茶でも飲みなよ。私が特別に淹れたんだ」
「いや、何も入ってないけど」
「あれ」
「……」
しばしの沈黙が流れる。ティーカップの中身が空であることを放念していたのだろうか。カップの中身と少女の黄金の瞳を交互に見比べる。その動きに合わせて、古本屋の内装が暖色や寒色へと移り変わっていく。
その様子を感嘆を漏らしながら少女は見上げるも、何もしなければカップの中身は満たされない。
「……次の本読もうかな」
「まって!まって!今淹れるから!感想聞かせてよぉ!」
「……」
珍しく慌てふためき懇願する魔法使いの様は特異である。
ため息をなんとか飲み込んだ少女は、慌てて茶葉を取り出し水を沸かせる魔法使いを傍目に椅子に腰を下ろした。
カウンター座席からは奥に並ぶ棚が非常に良く見える。
奇怪な物が入った瓶が大半だが、紅茶の茶葉が入っていたりと日常生活に使うであろうものも立ち並んでいた。
「そういえば」
「なんだい?」
落ち着きを取り戻したのか、丁寧に湯をポットに注いでいる。
もくもくと上がる湯気は魔法使いと少女の視界を霞ませるが両者ともに気にするそぶりは見せない。
「そういえば君に頼みがあってね」
「え、なに」
「そろそろ帰る時間だろ?」
「あっ」
今度は少女が慌てる番となった。店に入るころは日が傾き、外が黄昏に包まれ頃となっていた。
そろそろ帰宅しなければ家に残った兄に心配をかけることになるのは明白であった。
それを見計らったかのように、魔法使いはシャツの胸ポケットから一枚の手紙を取り出す。それと同時に湯気を上げるハーブティーも差し出すとまた笑みを浮かべた。
「これ、君の家の人に渡して欲しいんだ」
「果たし状?」
「招待状」
呆然と言葉を口にする少女と高速で返答をする魔法使いの姿はさもコントである。
「んぐ、はい、ごちそうさま!」
「お粗末様」
カップに注がれたハーブティーを一気に飲み干すと、少女はその場から勢いよく立ち上がり差し出された手紙を手に取る。
そして、勢いよく扉の方へと駆け出した。
走りさる少女の後姿を魔法使いはただにたにたと見送るだけで、少女はそれを意にも介さない。
ドアノブに手をかけると、チリンと鈴が音を鳴らす。
むわっとした熱帯夜の空気がむさくるしく、少女は顔を顰めるがそれにもかまっていられない。
夜の空気に少女は飲まれながらも帰路についたのだった。
人の振り見て我が振り直せ。
鏡は誰をも映し出し、本は全てを記しだす。
本を読むことはすなわち自分を見つめ直すことに他ならない。
魔法使いは長いつばのついが三角帽子をしきりに左右に揺らす。卓上に置かれた本をしきりに指でなぞる忙しない動きはまさに何かを楽しみにする子供のようだ。
ティーカップの中身は空で、水滴一つも残っていない。
しばらく待てばあたり一帯をクラゲのようにただよう光が一瞬で中心に集い始める。
「おかえり、今回はどうだったかな?」
魔法使いは妖艶な笑みをたたえながら光の先へと声をかける。
「まぁ、よかったかな……」
曖昧な返答を返した光は少女の身体を象りはじめ、はじけると制服を纏った桃髪の少女が現れる。
「それならよかった。私も読ませた甲斐があるよ」
「なんか上からだな……」
少しばかりの不満を漏らしながらも少女は腰かける魔法使いへの前へと足を動かす。
一冊目の本を読んだ時よりも表情は明るく、その様子に魔法使いは相変わらず怪しい笑みを浮かべ続けた。
「ほら、お茶でも飲みなよ。私が特別に淹れたんだ」
「いや、何も入ってないけど」
「あれ」
「……」
しばしの沈黙が流れる。ティーカップの中身が空であることを放念していたのだろうか。カップの中身と少女の黄金の瞳を交互に見比べる。その動きに合わせて、古本屋の内装が暖色や寒色へと移り変わっていく。
その様子を感嘆を漏らしながら少女は見上げるも、何もしなければカップの中身は満たされない。
「……次の本読もうかな」
「まって!まって!今淹れるから!感想聞かせてよぉ!」
「……」
珍しく慌てふためき懇願する魔法使いの様は特異である。
ため息をなんとか飲み込んだ少女は、慌てて茶葉を取り出し水を沸かせる魔法使いを傍目に椅子に腰を下ろした。
カウンター座席からは奥に並ぶ棚が非常に良く見える。
奇怪な物が入った瓶が大半だが、紅茶の茶葉が入っていたりと日常生活に使うであろうものも立ち並んでいた。
「そういえば」
「なんだい?」
落ち着きを取り戻したのか、丁寧に湯をポットに注いでいる。
もくもくと上がる湯気は魔法使いと少女の視界を霞ませるが両者ともに気にするそぶりは見せない。
「そういえば君に頼みがあってね」
「え、なに」
「そろそろ帰る時間だろ?」
「あっ」
今度は少女が慌てる番となった。店に入るころは日が傾き、外が黄昏に包まれ頃となっていた。
そろそろ帰宅しなければ家に残った兄に心配をかけることになるのは明白であった。
それを見計らったかのように、魔法使いはシャツの胸ポケットから一枚の手紙を取り出す。それと同時に湯気を上げるハーブティーも差し出すとまた笑みを浮かべた。
「これ、君の家の人に渡して欲しいんだ」
「果たし状?」
「招待状」
呆然と言葉を口にする少女と高速で返答をする魔法使いの姿はさもコントである。
「んぐ、はい、ごちそうさま!」
「お粗末様」
カップに注がれたハーブティーを一気に飲み干すと、少女はその場から勢いよく立ち上がり差し出された手紙を手に取る。
そして、勢いよく扉の方へと駆け出した。
走りさる少女の後姿を魔法使いはただにたにたと見送るだけで、少女はそれを意にも介さない。
ドアノブに手をかけると、チリンと鈴が音を鳴らす。
むわっとした熱帯夜の空気がむさくるしく、少女は顔を顰めるがそれにもかまっていられない。
夜の空気に少女は飲まれながらも帰路についたのだった。
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