群青に消える桜

ポレロ

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嫉妬の権利《希編》

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  私の名前は、佐倉希。趣味は、読書で好きな食べ物は、甘い物。
  これが私の基本プロフィールだ。今までの人生で余り友達などを作った事はない。大抵は一人で過ごしている感じだ。なにせ本中心の生活をしてきたから、人とのコミュニケーション能力など皆無に等しい。
  でも、そんなある日。私の高校生活の中で初めての友達ができた。その友達の名前は、野々村青斗君。彼は、突然私に話しかけてきた。頭の中では混乱していたが、なにせ高校に入学してからあまり人と会話をしていなかったので、頭の中の思考に表情がついて行ってくれなかった。
  『どうしよう』
頭をグルグルと回転させて思考を巡らすが、言葉がでてこない。すると、気づかない内に言葉がポロリと出てきた。
  「そうなんだ」
相手の目が驚いたのがわかった。でもそれ以上に、自分で自分の言葉に驚いた。
  それからは、嵐の様に話が進み、気づいたら私は、野々村君と友達になっていた。
彼が去り図書室に私一人。外からは、野々村君と思わしき雄叫びが聞こえてくる。私はゆっくりと椅子に腰を落とした。すると、自分の心臓の音に驚いた。バクバクと激しい音を立てている。この事は、私の人生の中で初めての出来事かもしれない。一抹の嬉しさを胸に、メアドに登録した新しい名前。
  【野々村青斗】
私は、この嬉しい気持ちをメールにして野々村君に伝えた。
  「私の気持ち伝わるかな」
顔から笑顔がこぼれるのがわかった。
  それから私は、野々村君を見かける度に心臓が高鳴りはじめた。今まででない感覚。
新しくて嬉しい。そんな気持ちが私の心を占領していた。すると、昼休みの時間に野々村君が私に話しかけてきた。
  「ねぇお昼さ一緒に食べていいかな?」
  「うん、いいよ」
  それから毎日、野々村君とお昼を一緒に食べる様になった。私は、内心嬉しくも、この表情を見られたくない一心で本に没頭した。いつか、こんな自分に呆れてどっかに行ってしまう、そう思っていた。でも、呆れるどころか、彼まで本を読み始めた。こうした時間が過ぎていき、いつしか心の中で、この昼休みの時間を楽しみに待っている自分がいた。
野々村君の隣で本を読む時間は、一人で読んでいる時間と比べてはるかに短く感じた。こうした毎日がずっと続けばよかった。そう思っている時に私は、学級委員に選ばれた。
  「急にごめんなさいね。前の学級委員の中野さんの変わりで先生が勝手に選んでしまって」
  「いえ、私は大丈夫です」
  「本当に!ありがと、佐倉さん。よろしくね。わからない事があったら先生か長谷川君に相談してね」
  「はい、わかりました。失礼します」
いつもの事だか、自分はとても押しに弱い。
どんなに嫌な事でも引き受けてしまう、自分の性格が嫌い。そして、野々村君との時間も少なくなってしまう。そこが一番懸念してしまう。そんな事を考えていると、長谷川君が話しかけてきた。
  「やぁ佐倉さんあのさ、放課後ちょっと学級委員の仕事があって、荷物を持って行くんだけど、いいかな?」
学級委員の仕事なら仕方ない。私はそう割り切ってやるしかない。
  「うん、わかった。いいよ」
  「ありがとう」
そう言って長谷川君は走り去って行った。
  放課後。私と長谷川君は委員の仕事で荷物を運んでいた。場所は図書室。授業で使った有名な文学者の本を返しにきた。
  「ねぇ佐倉ってさ、本とか好きだよね」
  「そうだよ」
運んでいる最中に長谷川君が話掛けてきた。
  それから図書室までの道筋を長谷川君となんでもない会話をした。好きなものや友達はいるのとか、そんな会話をした。
  図書室についた。文豪の本棚に本を直す。そんなお仕事をしていると、長谷川君が一冊の本を取り出していた。その本は
                  『群青』
  「この本、面白いよね」
そう言って私に近づいてきた。
  「そうだよね。私も好きなんだ」
  それから私は、長谷川君と『群青』の話をした。それは、高校に入って初めて好きな本を語り合う事が出来る機会だった。私は、目をキラキラとさせて話をした。
  それから、クラスでも長谷川君と本の話をした。楽しくて、初めて他人と好きなものを共有する事が出来て嬉しかった。
  昼休みの時間。私は、野々村君との待ち合わせの場所に行こうとしていると、長谷川君に呼び出された。「また委員の仕事かな?」
そう思いながら、長谷川君の所に行った。そこには、クラス日誌を書いている長谷川君がいた。どうやら、クラス日誌の書き方を教えてくれるらしい。一通りクラス日誌の書き方を教えてもらい、私は、野々村君の所に行こうとした。すると、「待って」と長谷川君の声がした。
  「何か仕事があるの?」
  「違うんだ。今日の放課後、図書室に来てくれないか」
なにか用事があるのかな?そう思い、
  「うん、わかった」
   そう了解した。
  その日は、結局20分遅れて、いつものベンチに向かった。野々村君は、「大丈夫だよ」そう言ってくれたが、今度謝罪の気持ちも合わせて、なにかしないといけない。そう思いながらお弁当を食べた。
  放課後、図書室。
私は、長谷川君に呼ばれた通り図書室に来た。「ガチャリ」とドアを開けた。
するともう長谷川君がいた。
  「佐倉、あのさ、今日来てくれてありがと」
  「うん」
  「佐倉、急だけどさ、ずっとずっと君のことが好きだったんだ」
  「俺、佐倉の事が好きなんだ」
  「ガチャリ」ドアが開いた。そこには野々村君がいた。彼は、唖然とした表情をしていた。て事は、さっきの言葉を聞かれた……
私の胸の鼓動が速くなった。何故かわからない。でも、彼には聞かれたくなかった。そう思ってしまう私がいた。
  「まっまっ待って野々村君」
彼だけには、この事をちゃんと説明しないと。焦るが次の言葉が出ない。
  気づいたら、野々村君はいなくなっていた。図書室には、私と長谷川君。シンとした空気がこの教室を覆う。長谷川君は苦笑いしながら、私の顔を見る。
  「ごっごめんなさい、その…なんて言うか…」
  「わかったよ。今日は、本当にありがと。明日からも、学級委員頑張ろうね」そう言って無理な笑顔をしている彼を見る度に、私の胸が痛んだ。そして、静かに図書室からでて行った。

  目の前の光景は異様だった。私の目の前には、知らない女子生徒と話をしていた。親しげに。
  私の胸は、鎖で繋がれた様にギュッと縛られたみたいに痛くなった。声が出ない。喉に違和感を感じる。目から涙が溢れてくる。
  「うっうっくぅっ」
小さな嗚咽が漏れる。
  「野々村……君……」


改めて実感した。私は野々村青斗君の事が好きなんだ。
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