nexus〈名前のない手紙〉

ポレロ

文字の大きさ
上 下
5 / 10

第5話

しおりを挟む
  自分に対して嘘をつくのが、多くなってきている。そう実感する事が多くなった。
  前の俺なら、嘘など付かずに友達に隠している事全て話し、どうにかわかってくれる様に説得などして、わかって貰おうとした。
  でも、年齢を重ねるごとに嘘をつく事を躊躇わない自分がいる事に気づき、段々とそれに甘えてしまい、生活をする。
  純粋という物をすり減らしながら。

  学校が終わり、放課後に教室で本間と国木田とダラダラと喋り、そこから1人で帰路につく。
  今日の晩御飯を何にしようかと考えながら歩いていたら、後ろから声をかけられた。
  「ちょっといいかしら?」
  「はい、なんですか」と言い振り向くと、足立咲さんが後ろにいた。
  「仲間君、ちょっと付き合ってくれないかしら?」
  足立さんは近づきながらそう言ってきた。
  「何か、俺に用があるのかな?」
  後ずさりしながら足立さんに聞く。
  「そうね、お姉ちゃんの事で聞きたい事があるの」
  『お姉ちゃん』その言葉を聞いて、後ずさりしていた足を止める。
  「君のお姉さんの話は学校で聞いたよ」
  「学校では喋れない事もあるの」
  彼女の目を見つめてみる。嘘をついている様な感じじゃない。ここは、彼女の言葉を信じてみるか。
  「わかった。君の話を聞くよ」
  「わかってくれて嬉しいわ」
  そうしてやってきたのは、カジュアルな感じの喫茶店だった。
  そこで足立さんはオレンジジュースを頼み、俺はアイスカフェオレを頼んだ。
  ドリンクがきて、本題に入る。
  「それで話って何かな?」
  「そうね…まずは、お姉ちゃんの事をあなたはいくつ知ってるの?」
  「えっ」
  「だから、お姉ちゃんの事いくつ知ってるの?」
  「あ、ああ。実は俺、足立美沙さんの事何も知らないんだ」
  「んっ、それはどういう事かしら?」
  「どうもこうも、そのままに意味だよ。俺は、足立美沙さんの事を全くと言っていい程何も知らないんだ」
  「じゃあ、あの手紙が来た時初めてお姉ちゃんを知ったって事になるのね?」
  「うん」
  「と言う事は、あの手紙に書かれた事も、あの手紙を読んで初めて知ったって事なの?」
  「そうなんだ」
  足立さんはクルクルとストローでオレンジジュースの中の氷を回した。
  「って事は、お姉ちゃんの‘‘あの事’’も知らないのね」
  「あの事って何?」
  「こっちの話だから気にしないで」
  そう言って、ぎこちない笑顔を向ける。
  「今日はありがとね。仲間君。ここは、私が払うわ」
  「いや、俺にも払わせてよ」
  「駄目よ。私が呼んだんだから」
  「それでも、半分くらい出すよ」
  そんな事をやって、結局半分半分の割り勘になった。
  喫茶店の前で別れて、再び帰路に向かう。

  「お待ちしておりましたよ。咲お嬢様」
  「どうしたの杉さん。お姉ちゃんは大丈夫なの?」
  「美沙お嬢様の体調に異変はありません。私がここにいるのは、美沙お嬢様に街で見かけたら、私の所に連れてきてと言われたので」
  「そうなの。私もお姉ちゃんに聞きたい事があるんだ」
  「では、お乗りください」
  「ええ、わかったわ」

  家について、晩御飯を作る。今日は前から決めてた、炒飯にした。
  1人でモソモソとご飯を食べる。
  「手紙の返事か…」
  今日学校で言われた事を頭の中で反すうする。
  「返事楽しみに待ってるからか…」
  こうも期待されたら、あの事実を言いにくくなる。
  どうしたら、相手を傷つけずにできるだろうか。
  どうやったら幻滅されずに済むのか。そんな方法を模索する。
  見つからない…
  こうなったら、全て本当の事を書けばいいのか?
  どうしたらいいんだ。
  頭の中で何度も自問自答する。
  「うーん」と考え込んでいたら、急にケータイの着信音がプルルとなった。
  国木田からの電話だ。
  「なんだ、国木田」
  「よう、仲間。今日の宿題教えてくれねぇか?」
  「んーとな、数学のワークP12からP14までだ」
  「そうか、ありがとな」
  「あとさ、国木田。聞きたい事があるんだ」
  「なんだ。宿題教えてくれたから聞いてやるよ」
  「あのさ、見ず知らずの人から突然、手紙が来てさ、その返事書く時さ、国木田ならどうする?」
  「やけに設定が細いな。そうか、俺ならどうだろな」
  「お前の場合を教えてくれ」
  「その時は、ストレートにあなたの事は、何も知りませんすいません。って書くかな」
  「でもさ、それだと相手が傷つくじゃん」
  「お前は優しいな」
  「そうかな」
  「そうだよ。あとさ、絶対に傷つけずに済む方法はないよ」
  「なんでだ」
  「だってさ、知らないって言ってしまえばそれだけで相手を否定してるじゃん」
  「うん」
  「だからさ、100パーセント相手を傷つけずに済む方法なんてないんだよ」
  「そうか」
  「お前が何について悩んでるか知らないけどさ、相手を傷つけたくないって方法はゼロに近いぐらいないんだよ」
  国木田の声が、ケータイから漏れる。
  「わかった。ありがとな国木田」
  「おう。じゃあな」
  「うん。じゃあ」
  俺の考えは、甘いのかもしれない。
  相手を傷つけたくないという考えは、偽善という考えという事を改めて国木田に教わった。
  なら、俺のできる事は1つしかない。
  机の中を探って、ペンと便箋をだす。

    『拝啓、足立美沙さんへ
  お手紙ありがとうございます。


俺の出来る事は1つ。できるだけ相手を悲しませずに、俺の気持ちをかけるかだ。


 
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...