7 / 7
ねざすもの
しおりを挟む
寒村には6人の村人がいる。
過去を忘れ、厳冬を地熱でやり過ごす村人たちは、多くの子に恵まれて安定した生活を謳歌していた。
「デリック!」
「……ヒース。お産は終わったのか?」
地熱の伝わる温かな岩盤に腰掛け、気のよさそうな青年が仲間に微笑む。
腹の薄くなったヒースは理知的な顔を心配そうに歪め、デリックの隣に座り込む。
「いつも通りつつがなくね。……それよりお前、また村の外に出たって?神父様が心配してたぞ」
「……なんだかいつも、探さなきゃいけないものがある気がして……。神父様には、もう怒られたよ。卵産むの、一ヶ月お預けだってさ」
腹がすかすかして、妙に寂しい。一週間前の出産から時間も経たぬうちに、下腹部の痣がきゅうと夜泣いて困ってしまう。
「ヒースは、ケイさんとしばらく休暇だろ。身体休めなきゃいけないんだから激しくするなよ」
「う、うるさいな。番いなんだからいいだろ。神父様だって……」
「あの人の言うこと、鵜呑みにし過ぎだろ。……怖くないか?たまに俺……。」
「滅多なこといわないほうがいい。二ヶ月卵抜きにされたいのか」
「そ、……そうだな……。悪かったよ……」
デリック達村人は、皆上質の綿の服を着ている。神父様のくれた教団の服だ。
●●様に卵を授かって、番いと愛し合い、命を育む。この間まで寒さに震えて、自分たちの命がかき消えないよう必死だったなんて嘘みたいだ。
ヒースはと言えば、やせ衰えていた肉体にしなやかな筋肉が戻り、頬に血の気が戻った。●●様と神父様が来てからこのかた、狩りの獲物に困ることがないからだ。……あれほど姿を現さなかった鹿や兎が、村の中へ迷い込んでくるようにすらなった。
皆幸せそうだ。●●様に祈りを捧げるようになってから、ずっとそう。
「あ、あれ」
「お盛んだなあ」
視界の端に映ったのはアンリとグウェンだ。相変わらず仔犬のようにグウェン老にひっついて回るアンリの腰を、戦働きで鍛えた好色爺の手が擦っている。2人ともまわりが見えていないらしい。あまりキャンキャン煩いアンリの尻を、グウェンの手がいやらしく撫で回す。嫌がるかと思いきや、アンリは飛びついてキスを返した。青年を抱え上げると、グウェンは繁殖小屋に入っていってしまう。あのままきっと数日出てこない。
見ているだけでうんざりする光景だが、神父様はそう思わないようだった。
「実に平和でよろしい。ヒース、デリック。おはよう」
「おはようございます!神父様」
「……はようございます。……」
きらきらした眼差しで神父を見上げるヒースの横で、デリックはばつが悪そうに居住まいを正した。この間の散歩で叱られたばかりなのだ。
神父様はにっこりと笑い、デリックの肩に手を置いた。
「ヒース、向こうでケイが呼んでいましたよ。休暇を楽しんできなさい」
「あ、はい……。じゃあデリック!またな」
「ぁ、うん……。」
友人が駆けていってしまい、神父様とふたりになってしまった。青年はどうしてか震える身体を押さえ込み、声を出す。
「あ、あの……?」
「うん?なんだね」
「なんで、俺のとこに……?用向きはなんでしょう」
見上げると、不思議そうな顔で神父がこちらを見下ろしている。感情の読み取れない顔に、デリックの膝が笑い始める。デリックは思い出せない。このカソックを着た男が、いつこの村にやってきたのか。●●様がどうして仲間達の信仰の対象になったのか。どうして俺たちは、男なのに……。
そこまで考えたところで、神父様の顔がそこまで迫っていることに気がついた。手を重ねられ、唇が深く重なり合う。熱い舌で上顎や、弱い箇所を舐られるともう何を考えていたか覚えていられない。数分かけた長いキスのあと、荒い呼吸を整えるデリックに悪い言葉が囁かれる。
「用向きか、そうだな……。今からたくさん卵を植えつけたいんだが、どうだろう」
「……っ♡♡♡……、お、俺でいいんですか……?♡」
「君が良いんだ」
神父様に腰を抱かれて立ち上がる。番いがいない青年には、卵を植えられたあと精を注ぐ者がいない。神父様はそんなデリックをベッドで存分に慰めてくれるのだ。
疑う機能を奪われた脳が、快楽を期待して全身を震わせる。
くちゅ…♡と甘く後孔が啼いた。
森の神秘が暴かれる日は、まだこない。
過去を忘れ、厳冬を地熱でやり過ごす村人たちは、多くの子に恵まれて安定した生活を謳歌していた。
「デリック!」
「……ヒース。お産は終わったのか?」
地熱の伝わる温かな岩盤に腰掛け、気のよさそうな青年が仲間に微笑む。
腹の薄くなったヒースは理知的な顔を心配そうに歪め、デリックの隣に座り込む。
「いつも通りつつがなくね。……それよりお前、また村の外に出たって?神父様が心配してたぞ」
「……なんだかいつも、探さなきゃいけないものがある気がして……。神父様には、もう怒られたよ。卵産むの、一ヶ月お預けだってさ」
腹がすかすかして、妙に寂しい。一週間前の出産から時間も経たぬうちに、下腹部の痣がきゅうと夜泣いて困ってしまう。
「ヒースは、ケイさんとしばらく休暇だろ。身体休めなきゃいけないんだから激しくするなよ」
「う、うるさいな。番いなんだからいいだろ。神父様だって……」
「あの人の言うこと、鵜呑みにし過ぎだろ。……怖くないか?たまに俺……。」
「滅多なこといわないほうがいい。二ヶ月卵抜きにされたいのか」
「そ、……そうだな……。悪かったよ……」
デリック達村人は、皆上質の綿の服を着ている。神父様のくれた教団の服だ。
●●様に卵を授かって、番いと愛し合い、命を育む。この間まで寒さに震えて、自分たちの命がかき消えないよう必死だったなんて嘘みたいだ。
ヒースはと言えば、やせ衰えていた肉体にしなやかな筋肉が戻り、頬に血の気が戻った。●●様と神父様が来てからこのかた、狩りの獲物に困ることがないからだ。……あれほど姿を現さなかった鹿や兎が、村の中へ迷い込んでくるようにすらなった。
皆幸せそうだ。●●様に祈りを捧げるようになってから、ずっとそう。
「あ、あれ」
「お盛んだなあ」
視界の端に映ったのはアンリとグウェンだ。相変わらず仔犬のようにグウェン老にひっついて回るアンリの腰を、戦働きで鍛えた好色爺の手が擦っている。2人ともまわりが見えていないらしい。あまりキャンキャン煩いアンリの尻を、グウェンの手がいやらしく撫で回す。嫌がるかと思いきや、アンリは飛びついてキスを返した。青年を抱え上げると、グウェンは繁殖小屋に入っていってしまう。あのままきっと数日出てこない。
見ているだけでうんざりする光景だが、神父様はそう思わないようだった。
「実に平和でよろしい。ヒース、デリック。おはよう」
「おはようございます!神父様」
「……はようございます。……」
きらきらした眼差しで神父を見上げるヒースの横で、デリックはばつが悪そうに居住まいを正した。この間の散歩で叱られたばかりなのだ。
神父様はにっこりと笑い、デリックの肩に手を置いた。
「ヒース、向こうでケイが呼んでいましたよ。休暇を楽しんできなさい」
「あ、はい……。じゃあデリック!またな」
「ぁ、うん……。」
友人が駆けていってしまい、神父様とふたりになってしまった。青年はどうしてか震える身体を押さえ込み、声を出す。
「あ、あの……?」
「うん?なんだね」
「なんで、俺のとこに……?用向きはなんでしょう」
見上げると、不思議そうな顔で神父がこちらを見下ろしている。感情の読み取れない顔に、デリックの膝が笑い始める。デリックは思い出せない。このカソックを着た男が、いつこの村にやってきたのか。●●様がどうして仲間達の信仰の対象になったのか。どうして俺たちは、男なのに……。
そこまで考えたところで、神父様の顔がそこまで迫っていることに気がついた。手を重ねられ、唇が深く重なり合う。熱い舌で上顎や、弱い箇所を舐られるともう何を考えていたか覚えていられない。数分かけた長いキスのあと、荒い呼吸を整えるデリックに悪い言葉が囁かれる。
「用向きか、そうだな……。今からたくさん卵を植えつけたいんだが、どうだろう」
「……っ♡♡♡……、お、俺でいいんですか……?♡」
「君が良いんだ」
神父様に腰を抱かれて立ち上がる。番いがいない青年には、卵を植えられたあと精を注ぐ者がいない。神父様はそんなデリックをベッドで存分に慰めてくれるのだ。
疑う機能を奪われた脳が、快楽を期待して全身を震わせる。
くちゅ…♡と甘く後孔が啼いた。
森の神秘が暴かれる日は、まだこない。
20
お気に入りに追加
72
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説


転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~
夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる