111 / 117
翡翠挽回 中:グリーン編
ending xxx:深海冥王
しおりを挟む
その日魔族達は見た。不死身と名高きレッドが斃され、魔海の王が復活する様を見た。
各領区の広場で、クラーケン社の広告看板を取り囲み、老いも若きもその戦いを目の当たりにした。レッド討伐隊を各地に派遣していた魔王城は当然大変な騒ぎだ。……砂浜には一足遅れてテレポートしてきた魔王軍の兵達が集まり始め、不気味な波音が満ちていた海岸線はにわかに騒がしくなりつつある。
……神の使いを撃ち落とした矢は砂浜を越え、遠く洋上で塵と消えた。込められた魔素が散って、霧中弱く光る。血みどろの肢体を支え起こし、深海冥王ルブルは影で繫がれた彼を揺すった。
「やったね。グリーン」
グリーンは呆然と触腕に身を預け、こちらを見上げている。コートはずれ落ち、嘉名は殆ど裸に近い無様な格好だ。
半開きの口はそれでも形がいい。ルブルは緩慢な動きで青年の頬から血飛沫を拭う。
「…………お前は」
「うん?」
「……僕を殺さないのか?」
少しの間を置いて、魔海の王は空に円を描いた。砕け散ってしまった眼鏡の代わりを、そっと彼にかけてやる。
「君は十三人も殺さなかった。……だからこちらも、それに倣おうと思う」
配下十三貴族代表は深海に囚われているが、その命が魔術の代償に使われることはついに無かった。小魚に変えられた彼らは小瓶の中で今も生きている。
レッドが訪れた晩、青年が先んじてくすねた指輪を使ったから———有無を言わさず先手を打ったから、ルブルの臣下は死神に遭ってなお、一人残らず生き残ることができた。
「それが君の本性だ。あれに殺されぬよう守ってくれた。———今こそ貴君を迎えよう。……魔海へようこそ、ヒーローさん」
深海冥王ルブルの六つ目がそれぞれ眩しげに細められる。吸盤のびっしりついた触腕に支えられ、嘉名は海の巨怪を見上げて放心するしかできない。
……霧が晴れる。濃霧を裂いて、やはり気味の悪い陽光が二人を照らしていた。
各領区の広場で、クラーケン社の広告看板を取り囲み、老いも若きもその戦いを目の当たりにした。レッド討伐隊を各地に派遣していた魔王城は当然大変な騒ぎだ。……砂浜には一足遅れてテレポートしてきた魔王軍の兵達が集まり始め、不気味な波音が満ちていた海岸線はにわかに騒がしくなりつつある。
……神の使いを撃ち落とした矢は砂浜を越え、遠く洋上で塵と消えた。込められた魔素が散って、霧中弱く光る。血みどろの肢体を支え起こし、深海冥王ルブルは影で繫がれた彼を揺すった。
「やったね。グリーン」
グリーンは呆然と触腕に身を預け、こちらを見上げている。コートはずれ落ち、嘉名は殆ど裸に近い無様な格好だ。
半開きの口はそれでも形がいい。ルブルは緩慢な動きで青年の頬から血飛沫を拭う。
「…………お前は」
「うん?」
「……僕を殺さないのか?」
少しの間を置いて、魔海の王は空に円を描いた。砕け散ってしまった眼鏡の代わりを、そっと彼にかけてやる。
「君は十三人も殺さなかった。……だからこちらも、それに倣おうと思う」
配下十三貴族代表は深海に囚われているが、その命が魔術の代償に使われることはついに無かった。小魚に変えられた彼らは小瓶の中で今も生きている。
レッドが訪れた晩、青年が先んじてくすねた指輪を使ったから———有無を言わさず先手を打ったから、ルブルの臣下は死神に遭ってなお、一人残らず生き残ることができた。
「それが君の本性だ。あれに殺されぬよう守ってくれた。———今こそ貴君を迎えよう。……魔海へようこそ、ヒーローさん」
深海冥王ルブルの六つ目がそれぞれ眩しげに細められる。吸盤のびっしりついた触腕に支えられ、嘉名は海の巨怪を見上げて放心するしかできない。
……霧が晴れる。濃霧を裂いて、やはり気味の悪い陽光が二人を照らしていた。
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる