イケニエヒーロー青井くん

トマトふぁ之助

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金継ぎの青 下:ブルー編

英雄臨月

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 時は流れ、魔界最高級娼館の一室では元ヒーローの喘ぎ声が木霊している。
 「———ヒンッ♡ひぃっ……♡!!イく、イッちまうからぁあ♡♡♡!!も、むり、むりぃ……っ♡!!」
 「ハハッ!!おら掴まれ、そうそう……背ぇ撓ませてよく絞る……ッ♡!!」
 オーガ族の首領はヒーローを挽肉にはせず、丁寧に判断力を削ぎ続け———都合良く囲いこむことに成功したところであった。腹部の紋がいやらしく光り、養分を吸っている最中だと大鬼に密告していた。

  「……~~~っ……♡♡♡お、あ゛っ♡!ッアァ゛~ッッッ……!!」
  放埓の感覚を結腸奥で受け止め、青年の背がしなる。いよいよ敏感になってきたとみえる雄膣の具合に重たく息を吐き、バルドは覆いかぶさる人間の青年に声をかけた。濁流は勢いづいてヒトの薄い腹を満たしていく。数分はこのまま長い射精が続くだろう。半人半魔の番いである彼の身体は全身うっすらと火照り、汗が滴っている……そろそろ休ませて眠らせるべきか。真っ赤に茹だった頸を撫で付けてバルドは囁く。
  「そろそろ腹いっぱいか?」
  「…………ふッ、ふぅ……っ♡は、へっ……」
  後背位で揺すりあげられていた人間は、くしゃくしゃの泣き顔でこちらを振り返る。
  「うぅ、やめな、いで……ッ♡!!まだ足りねえからぁ……っ♡!」
  とろとろに緩みきった顔で哀願する様子からは、かつてのヒーローらしい芯の強さなど少しも窺えない。精悍な顔は涙と涎にまみれ、凜々しい怒り眉はハの字に下がりきっている。種付けされる被虐の快楽に火照った頬を撫で、バルドは青年の唇に深く舌を挿し入れた。
 「ん、♡んぅ……♡ふぁっ♡へぅ、ぁ、ァ……んン」
 ぢゅるぢゅる唾液を啜られる音が人より高い体温を伴って青年の耳を犯す。オーガの分厚く熱い舌へ懸命に追い縋ろうとする反応からは、長時間の交尾を経ても未だ満たされきらない底なしの性欲が伺える。……サキュバス化の影響から発情が収まらないのだ。
 青年は仇敵の舌を甘く噛み、母乳の滲む雄乳を擦り寄せて続きを強請った。バルドはにやつきながら柔らかい胸筋を揉みしだく。すっかり妊夫に造りかえられた乳の下は異様に膨らみ、彼の状況を何より雄弁に表していた。
 見事なボテ腹を大鬼の太い指先がいやらしく滑る。魔界植物の淫紋が臍の下を毒々しく彩る表皮は淫靡に濡れ、時折揺れて胎動を伝えた。
 ———人類最後のブルーであったこの男、青井清一は現在妊娠後期を迎えている。
 「ぷはっ、ハァっ♡なあ、まだシよう?栄養ほしい……ほしいんだ……♡」
 「すっかり可愛い淫魔ちゃんになっちまったな。横になれ、旦那様がいくらでも注いでやるよ」
 「ひんっ♡擦れて♡ア♡アぁ~~~……ッ♡♡♡!!らんなひゃま♡だんなひゃまぁっ♡」
 舌足らずに狂喜する薄い人間の体を横に倒す。殆ど魔界植物に体を造り替えられている青井は、ヒトの肉体をベースに残しつつ、淫魔の構造に仕立て直されている。子を身ごもった体は栄養源たる精液を欲しがり、際限ない性欲に身を狂わしていた。肉付きの薄いしなやかな内股を辿り、寝そべった青年の締まった尻をオーガの手が鷲掴んだ。縦割れた淫魔アナルに、腹の中ほどまで押し上げる巨根がゆっくりと抜いては埋め込まれていく。
 支えに敷かれた枕に顔を埋め、青井が喘ぐ。
 「ぅあ゛♡ひっ♡あん、あ、アッ♡しゅき、浅いのひゅきぃっ♡」
 「ひひっ可愛いなあブルー……っ!おら!旦那様っつってみろ!!」
 「旦那さまぁ♡らんな、ヒッ♡ぁあ~、バルドぉ……ッ!!すき、すきぃ……っ♡」
 寝そべったまま後ろから抱き込まれるように攻めを受ける。人間の体であれば耐えられない肉棒での暴挙も、淫魔に染め上げられた体は従順に応じた。オーガの太い腕で支えられながら、乳を揉まれ、槍で腸壁を捏ねられる。未だ収まりきらない先ほどの精液が一突きごとに雄膣へなすり付けられ、青井は脳を灼く快楽に泣きながら頬を緩めた。頭が霞んで何も考えられない。妊娠交尾が気持ちいい。大好きな雄の匂いが鼻孔いっぱいに広がって、全ての感覚を支配されてしまう。
 臨月も半ばに差し掛かり、青井の種乞い症状は酷くなるばかりだ。避難シェルターであるリリス直営の高級娼館のVIPルームでは、出張続きだった夫のバルドが常に側で青井の様子をみている。日に起きていられるのは五時間、それ以外は睡魔に耐えられず寝入ってしまう青井だったが、空腹を訴えればすぐにバルドが覆い被さってくる。夢の中でまで姦淫に耽るようになり、遠からずヒトとしての正気を失いそうだ。

 「ほれ。口開けろ」
 「……ング、ふむ」
 「ひひ、よぅしよし……うめえか?食べたいもんは何でも言えよ」
 バルドはうつらうつらと頭を揺らす青井の口へルームサービスの粥を匙で運んでやる。今日は往診の日だ。寝起きに着替えさせたバルドの部屋着はサイズが大きすぎて裾が余っていた。青年はこの一週間ですっかり腑抜けにさせられ、小鳥の雛よろしく寝食の世話をバルドに委ねている。
 「…………ん……」
 「ああ、眠いのか……おら、顔拭くからこっち向け。ヨシ。おいおいまだ寝るな、洗面所行くぞ!歯だけは磨いとけ!!」
 「みが……んン……」
 「磨いてだァ~?仕方ねえなぁア!!」
 両手を伸ばして抱っこの姿勢を取るのにすっかり慣れたらしい。腕の中にすっぽりおさまった青年はゆらゆら船を漕ぎ始めた。
 「フン、血色良し、体重良し、魔力量良し!!ハハハッ!!心配いらねえぞ!!全部俺様に任せとけ!!」
 外道の笑い声が響き渡る。
 人恋しく甘えたがり、加えて情緒不安定な青井を思う様かまうことができて、オーガの首領は非常に満足していた。ヒーロー時代の記憶を奪われた青井は、人間界に残してきた家族や仲間に気兼ねすることなく魔王軍幹部の番いに身を任せていた。肉体の状態は上々、淫魔として正常に仕上がっている。刷り込みは思った以上に成功したようだ。
 「バルド、こっち」
 添い寝をねだって青年の指が裾を引く。横に寝そべってやれば虚な瞳が満足そうに閉じられる。額はそっとバルドの胸に当てられていた。
 「へへ……あったかい」
 何より———惚れすぎて狂いそうだと言わんばかりの懐きっぷりに、すっかりバルドはいい気になっていた。

 「…………いや駄目だねこれは」
 「あ?」
 寝入っている青井の腹を診ていた老医師が唸る。
 バルドが人間界から特別料金を出して呼びつけた、人魔ともに診ることのできる貴重な医者だ。ぐっすり眠る青井に毛布をかけると、医者は自分の数倍は体格のいいバルドを部屋から引っ張り出した。
 「君ね、ちょっと堪え性なさすぎ。ワシ前の検診で性交は良識の範囲内って言ったでしょ」
 温厚な老人らしからぬ怒気を放ち、医者はバルドを廊下で説教する。
 「アにが問題なんだよ。栄養失調にさせるわきゃいかねえだろうが」
 「やりすぎって言ってるんですよ!予定日よりだいぶ前なのに、腹の子どもが育ちすぎてるの。腹部の張りが異常でしょ。あれじゃ母胎を破って出てきちゃうよ」
 「…………腹を」
 「破っちゃう。」
 「……?普通じゃねえのか」
 「普通じゃない!!死にますよ?オーガ族じゃないんだ。人間って脆いんだよ」
 ここにきてようやくバルドの顔が青ざめた。そうか、普通じゃねえのか。腹部を割って子供が出てきた時のためにと医療魔術師を十人雇っておいたバルドは想定外の事態に顔を青褪めさせる。……魔族は個の生命力が強いため、子が腹を破って産まれてくることはそう珍しい事例ではない。母親が死ぬことは滅多にないように考えていたが、それはオーガ同士で番った場合の出産常識である。雌オーガより薄く小さな肉体の人間は、もしかすると想定より出産リスクが高いのかもしれない。
 種付けを終えると無責任に放蕩して、栄養失調故に腹の子が死ぬ例は聞いたことがあったが、その逆の危険もまた存在するのだ。
 焦りからかバルドの巨体が意味も無く揺すられる。
 「ど、……どのぐらいまずいんだ。これからどうすりゃいい?」
 「まず絶対に出産当日まで性交は厳禁。魔族と人間の夫婦は加減がわからんようで困る。精液や唾液を経口摂取するのも勿論ダメ。なるべく皮膚の接触も避けたほうがいいね。君は幹部クラスで魔力量も段違いに多いんだから、近くにいるだけで食事代わりになってしまう。妊娠期は特に精気の受容がしやすくなるから」
 「ま、待て……そうなるとなんだ……」
 「しばらく妊夫への接触禁止。というかなるべく魔族と接触させないでください、彼が精気吸っちゃうから」
 いかつい大鬼の顔にわかりやすく絶望の二文字が刻まれる。オーガ族を交易と公的事業の請負で盛り立ててきた脳味噌が数秒の間にこれからの対処を模索した。
 魔族の接触ができないとなると世話役のギレオはもちろんどの部下も使えない。そも魔族のうようよしている魔界はブルーの体に良くない筈だ。瘴気に満ち満ちた魔王城に戻すなど問題外だ。空中の魔素を吸ってしまうことを考えても魔界から一時的な避難を図るべきである。
 「……俺様は敵が多い、特に魔女共から恨みを買ってる。近くに置いておかないと十中八九殺されるだろう。人間界に避難させるにしてもだ、魔女に対抗できる魔族を護衛に付けねえと話にならん」
 バルドは考えを巡らす。人間界へ避難させるのが妥当だろうが、自分がついていくにしても護衛がもう一人必要だ。

 ———いつでも帰って来てほしいと言った嫗を思い出す。
 出産後の新婚旅行にと下見に訪れた寒村は、計画通りに復興へ向けて動き始めていた。
 産後に十分な休息を取らせ、呆けの抜けたあたりで連れていく手筈だったというのに。

 「うーむ……。彼は今擬似魔族化が進んでますね。種族は淫魔。サキュバスか……。急過ぎる精気抜きはショック状態を引き起こしかねないし……」
 医者は丸眼鏡を持ち上げて言う。
 「同族……つまりサキュバスかインキュバスなら精気の受け渡しはある程度コントロールできるはずなんだけど。心当たりはありますか?」
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