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金継ぎの青 下:ブルー編
幕間:夜明け前
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この男はいつも連絡なしに現れる。一山はありそうな巨体を揺らしながら魔王がオーガ族の領区を訪れたのは、ちょうど八年前のことであった。何処どこまでも続く砂の荒野は麦の収穫期を終え、下町は祭りの準備に湧き立っていた。魔王の御領から外されて久しい砂漠地方はここ数百年で一番裕福な時代を迎えていた。
手に持っていた葦のペンと帳簿を部下に放り、バルドは大仰に両腕を広げる。
「これは魔王様!こんな僻地へ御自らどういったご用件でしょうな!!」
「…………。バルド。次の幹部はお前だ」
「はァ」
嫌味にも無反応、オーガの頭領は心の中で舌打ちをする。……待て。今、幹部と言ったか?
「ガァヴァがブルーと相討ちになり100年が経つ。……時が来た」
オーガ族一の巨体を誇るバルドをも超えて、魔王は筋肉で覆われた腕をだるそうに持ち上げた。手には二枚の写真。渡されて見れば、青いヒーロースーツの男が写し出されていた。フルフェイスの戦装束を写したブロマイドの裏、もう一枚の写真には凡庸な人間族の男が写し取られていた。
バルドは魔王を見る。時が来たとは、つまりそういうことだろう。
「ブルーの代替わりが?」
「そうだ。後任が見つかったらしい……。こちらも慣習に則って幹部をたてねばならん」
しょっぱい顔になりそうな頰をなんとか愛想笑いで誤魔化す。はっきり言ってバルドは乗り気ではなかった。魔王軍幹部になれば多くの利権を得ることができるが、一方で危険も付き纏う。幹部の死因堂々の第1位はヒーローとの戦闘によるものなのだ。
……下手にレッドのような魔族殺しを担当ヒーローに割り当てられては、バルドとてそう長く生きられないだろう。
「アー……承知しました。拝命致します。恐悦至極に、」
「そうか。では追って通達を出す。幹部の業務については参謀長官のリッヒェに聞くように」
「…………」
魔王はこれで用はないとばかりに砦を出て行ってしまった。種族長の会合でも感じたが己は魔王の覚えが悪いらしい。逆らう者は容赦なく潰す魔王である。もとより断るなどという選択肢は存在しない。
(どんな奴だろうがヒーローなんざただの人間、死なないだけのお飾り職業だ……。いつも通り、斧でミンチに下ろしちまえばいい)
静かな嵐の去ったあと、バルドは手渡された写真にライターで火をつける。
———群青の短髪が洒落臭い。半世紀も生きていないであろう若造の横顔がじりじりと焦がされ、やがては灰となり無限の砂漠へ散っていった。
手に持っていた葦のペンと帳簿を部下に放り、バルドは大仰に両腕を広げる。
「これは魔王様!こんな僻地へ御自らどういったご用件でしょうな!!」
「…………。バルド。次の幹部はお前だ」
「はァ」
嫌味にも無反応、オーガの頭領は心の中で舌打ちをする。……待て。今、幹部と言ったか?
「ガァヴァがブルーと相討ちになり100年が経つ。……時が来た」
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バルドは魔王を見る。時が来たとは、つまりそういうことだろう。
「ブルーの代替わりが?」
「そうだ。後任が見つかったらしい……。こちらも慣習に則って幹部をたてねばならん」
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……下手にレッドのような魔族殺しを担当ヒーローに割り当てられては、バルドとてそう長く生きられないだろう。
「アー……承知しました。拝命致します。恐悦至極に、」
「そうか。では追って通達を出す。幹部の業務については参謀長官のリッヒェに聞くように」
「…………」
魔王はこれで用はないとばかりに砦を出て行ってしまった。種族長の会合でも感じたが己は魔王の覚えが悪いらしい。逆らう者は容赦なく潰す魔王である。もとより断るなどという選択肢は存在しない。
(どんな奴だろうがヒーローなんざただの人間、死なないだけのお飾り職業だ……。いつも通り、斧でミンチに下ろしちまえばいい)
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———群青の短髪が洒落臭い。半世紀も生きていないであろう若造の横顔がじりじりと焦がされ、やがては灰となり無限の砂漠へ散っていった。
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