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金継ぎの青 下:ブルー編
避難先にて
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じゅるりと舐め上げられて皮膚が粟立つ。怖気に跳ね上がった青井はその意識を浮上させた。
「んああ!!?な、わー……なんだ……ズールか……」
「ギャアアア!!何しくさってんだこのスライム!?」
金色がかった超巨大スライムが青井の体に覆い被さっているのを見て慌てたのはギレオである。必死に引き剥がそうとするが粘体ゆえに掴み所が無い。妙に落ち着いている青井に喝を入れる。
「落ち着いてんじゃねえ!食われるぞ!」
「だいじょうぶ、ズールは俺の駄目になった皮膚を食うのが好きなんです」
「大丈夫に聞こえねえんだけど!?」
「まえ、寝てるときにやられて……でも古い皮膚とってくれるし……。しっとりしてむしろありがたくて……。たまにびっくりするけど痛くはないから……」
首から下を服ごとスライムに飲み込まれた青井は船をこぎ始めている。どう見ても捕食シーンにしか見えず、ギレオは限りなく引きを保ってその光景を注視した。おまえついてこれたのか良かったなあ、譫言のようにこぼされる寝言に理解が追いつかない。知性がないとされるモンスター……魔族としてカウントされないスライムを飼うこと自体信じられなかったが、これは俺が間違っているのだろうか。
スライムは勝手知ったる様子で青井のパーカーをめくり、食事を行っている。ぱんぱんに膨れた腹部を中心として、人間特有の生白い皮膚が徐々に再生しているらしい。縫合痕の黒ずみや盛り上がって潰れたかさぶたもどきが、端から浮いていかにも痒そうだ。見ればなるほど、ゆっくりと古い皮がめくりあげられてはスライムの粘体に取り込まれ、透けた臓物に移動していくのが窺えた。
「うえええ……」
正直引く。青井は腹から肩にかけてほとんど取り込まれた餌になりながら、とろんとした寝ぼけ眼をしばたかせている。危機感が無いどころではない。こいつが精神的に負っている外傷は、実はかなり深いのではなかろうか。
「アオイ、お前それ、かなりヤバイぞ。きっと体のサイズ測ってんだよ。最後にゃ呑まれるぞ」
「んん、だいじょう、ぶ……。ばるどにも……いってあるし……」
「ハア~~~……?ガチで無理……なに……?俺がおかしいん……?」
ぐむぐむと皮を食む超巨大スライムのズールは、張り出して裂けそうになる乾燥した腹を湿していく。スライムが保湿にいいなんて初耳だ。
「……ぎれお、さん……ごめん……ねむい……。」
「あーいいぞ、仕方ねえ……このシェルターは今度こそ安全だ。起きる頃にはボスも帰ってきてるだろ。ゆっくり寝ろ」
「ありが……、ぅ」
首からがくんと垂れて微動だにしなくなる。がっつり食ってしっかり寝る、いいことだ。ギレオはクラシックなオーク材の寝台に腰掛け、スライムつきの青井からあたりに視線を移した。
(……オッサンにしてはやたら趣味の良い部屋だな)
緊急避難用のシェルターについては、事前にその入り方だけを伝えられていた。
中に入れば一切の侵入者を拒む作りになっていること、数ヶ月ぶんの食料は勿論衣食住の環境が整っていること。知っているのはこの辺りの知識だけだ。てっきり悪趣味な金色家具の部屋なのだろうと踏んでいたが、意外にも品の良いアンティーク家具が揃えられた家庭的な間取り。柔らかなスプリングが弾む巨大な寝台に落とされたばかりで、ギレオ自身もこのシェルターの広さを把握していない。
一応確認にまわるか、と腰をあげかけた彼に知らぬ声がかけられる。
「あら~、ギレオちゃん?大きくなったわねえ」
ギレオもいっぱしの魔王軍隊員だ。背後からの声に、振り向きざま懐のククリナイフを突きつけようとした。だが後ろには誰もいない。眠りこける青井を背に庇いながら周囲を伺うが、部屋には鼠一匹いやしない。
「……誰だ!!魔王軍幹部の正妻に楯突いて、只で済むと思ってねえだろうな」
「あらまあ」
今度は丁度鼻先から声が聞こえた。甘い吐息すらかかる距離におののいた隙を突いて、ギレオは寝台に押し倒された。ナイフは見えない力で部屋の隅まではじき飛ばされ、仰向けに倒れた若オーガの腹へ馬乗りになった美女が現れる。
「あ、あ、あんた!オッサン行きつけのクラブでママやってる……!?」
「うふふ、そうよぉ。リリスです♡夢魔やってます♡」
バルドの名だたる愛人軍団の最古参と言って差し支えない夢魔である。豊かなブロンドを靡かせた美貌の女は、色香のしたたる手つきでギレオの服を剥いでいく。
「な、待て!!待って下さい!!いったいどういう……」
「やだ。聞いてないの?この応接間は私の別宅みたいなものなのよ♡こっちの可愛い子を保護してあげる代わりに、ごはんも一緒に頂戴♡ってお願いしてあるの」
ギレオの目の前が真っ暗になった。あの野郎、自分の嫁の保護をあろうことか元愛人に頼みやがったのか!!
リリスは夢魔だ。ごはんとは推して知るべき行為のことであろう。夢のような美女に押し倒されて生け贄が悲鳴をあげる。
「あ、あの糞爺ぃいい!!いやそりゃ、でもその俺、情緒とか大事にしたい派で……ギャアアア!!」
「かぁわいい♡大丈夫、大丈夫よ……♡骨抜きにしてあげましょうね……!」
「んああ!!?な、わー……なんだ……ズールか……」
「ギャアアア!!何しくさってんだこのスライム!?」
金色がかった超巨大スライムが青井の体に覆い被さっているのを見て慌てたのはギレオである。必死に引き剥がそうとするが粘体ゆえに掴み所が無い。妙に落ち着いている青井に喝を入れる。
「落ち着いてんじゃねえ!食われるぞ!」
「だいじょうぶ、ズールは俺の駄目になった皮膚を食うのが好きなんです」
「大丈夫に聞こえねえんだけど!?」
「まえ、寝てるときにやられて……でも古い皮膚とってくれるし……。しっとりしてむしろありがたくて……。たまにびっくりするけど痛くはないから……」
首から下を服ごとスライムに飲み込まれた青井は船をこぎ始めている。どう見ても捕食シーンにしか見えず、ギレオは限りなく引きを保ってその光景を注視した。おまえついてこれたのか良かったなあ、譫言のようにこぼされる寝言に理解が追いつかない。知性がないとされるモンスター……魔族としてカウントされないスライムを飼うこと自体信じられなかったが、これは俺が間違っているのだろうか。
スライムは勝手知ったる様子で青井のパーカーをめくり、食事を行っている。ぱんぱんに膨れた腹部を中心として、人間特有の生白い皮膚が徐々に再生しているらしい。縫合痕の黒ずみや盛り上がって潰れたかさぶたもどきが、端から浮いていかにも痒そうだ。見ればなるほど、ゆっくりと古い皮がめくりあげられてはスライムの粘体に取り込まれ、透けた臓物に移動していくのが窺えた。
「うえええ……」
正直引く。青井は腹から肩にかけてほとんど取り込まれた餌になりながら、とろんとした寝ぼけ眼をしばたかせている。危機感が無いどころではない。こいつが精神的に負っている外傷は、実はかなり深いのではなかろうか。
「アオイ、お前それ、かなりヤバイぞ。きっと体のサイズ測ってんだよ。最後にゃ呑まれるぞ」
「んん、だいじょう、ぶ……。ばるどにも……いってあるし……」
「ハア~~~……?ガチで無理……なに……?俺がおかしいん……?」
ぐむぐむと皮を食む超巨大スライムのズールは、張り出して裂けそうになる乾燥した腹を湿していく。スライムが保湿にいいなんて初耳だ。
「……ぎれお、さん……ごめん……ねむい……。」
「あーいいぞ、仕方ねえ……このシェルターは今度こそ安全だ。起きる頃にはボスも帰ってきてるだろ。ゆっくり寝ろ」
「ありが……、ぅ」
首からがくんと垂れて微動だにしなくなる。がっつり食ってしっかり寝る、いいことだ。ギレオはクラシックなオーク材の寝台に腰掛け、スライムつきの青井からあたりに視線を移した。
(……オッサンにしてはやたら趣味の良い部屋だな)
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中に入れば一切の侵入者を拒む作りになっていること、数ヶ月ぶんの食料は勿論衣食住の環境が整っていること。知っているのはこの辺りの知識だけだ。てっきり悪趣味な金色家具の部屋なのだろうと踏んでいたが、意外にも品の良いアンティーク家具が揃えられた家庭的な間取り。柔らかなスプリングが弾む巨大な寝台に落とされたばかりで、ギレオ自身もこのシェルターの広さを把握していない。
一応確認にまわるか、と腰をあげかけた彼に知らぬ声がかけられる。
「あら~、ギレオちゃん?大きくなったわねえ」
ギレオもいっぱしの魔王軍隊員だ。背後からの声に、振り向きざま懐のククリナイフを突きつけようとした。だが後ろには誰もいない。眠りこける青井を背に庇いながら周囲を伺うが、部屋には鼠一匹いやしない。
「……誰だ!!魔王軍幹部の正妻に楯突いて、只で済むと思ってねえだろうな」
「あらまあ」
今度は丁度鼻先から声が聞こえた。甘い吐息すらかかる距離におののいた隙を突いて、ギレオは寝台に押し倒された。ナイフは見えない力で部屋の隅まではじき飛ばされ、仰向けに倒れた若オーガの腹へ馬乗りになった美女が現れる。
「あ、あ、あんた!オッサン行きつけのクラブでママやってる……!?」
「うふふ、そうよぉ。リリスです♡夢魔やってます♡」
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「あ、あの糞爺ぃいい!!いやそりゃ、でもその俺、情緒とか大事にしたい派で……ギャアアア!!」
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