イケニエヒーロー青井くん

トマトふぁ之助

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イエロー編

Hello,world!

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 「君の頭に、このチップを埋め込みたいと思う」
 肉のかき混ぜられる音しか聞こえない。黄ノ下は白目を剝いて無抵抗に泡を吹いていた。両耳の穴から差し込まれた謎のコードが、内側へとどんどん進んで突いてはいけないところへ到達する。

 「あ、あ、やら、ヒっ……!!え、ぅえ?えくっ♡」
 「大丈夫、少し切って、開いて、埋め込むだけだ。力を抜きなさい」
 「……ァア!!やだッ!!いやだいやだ!!あ゛あ゛あ゛!!ィイッ……ゔぇあア!!」
 「いい子だ……手を握って。通過点を抜けたぞ」
 「あっあう、くぉっ……♡あた、ま、へん。ぇ、ァっあ♡!」

 切開は上手く進行した。頭蓋に穴を開け、柔い肉を裂く。神経を耳殻からジャックして痛覚を感知させないよう気をつけてやりながら、リッヒェはようやく手に入れた被験体の手を握る。
 泡を吹いて泣き喘ぐイエローの顔は不思議と彼の気分を高揚させた。これだけ繊細な器官を弄くり回してなお発話できるとは。

 「———君は最高だ、イエロー……!!」

 舌なめずりする獣はこういう気分なのだろうか。塞がらぬようアームで繰り抜かれ続ける脳のある箇所に、リッヒェのパーツを鋳直して作られたチップが埋め込まれる。流石は適応力の高いヒーローの肉体だ。小指の爪ほどの大きさのチップから、鉄色の根が放射線状に広がっていく。チップが健やかな脳へと血管のように馴染み終えるや、アームでつけていた傷口が塞がっていく。肉体が初期状態へリセットされたのだ。
 「魔族を遙かに凌ぐ再生力、耐久性!手術は成功だ、おめでとう!」
 ものの半時かからない施術ではあったものの、脳を直接切開すれば魔族といえど元には戻らない。アンデッド化すれば動作はするが、精神を同期させる相手には不適格だ。脳を魔術的にいじくり回された魔族は感情機能を失ってしまう。

 ———びりびりとリッヒェの脳幹に得も言われぬ感覚が訪れる。
 鼻息も力無く、仇の白衣を握って涙を溢すしかできないイエローの「感情」が流れ込んできているのだ。チップはうまく本体と馴染んだようだ。
 「……ふ、ふふ。怯えているのかイエロー」
 乗りあげた実験台の上で、背を丸めて断続的に震える青年。就任当時のまま成長を止められた幼い顔は熱に浮かされたように紅潮し、口のはしからたらたらと唾液を垂れ流している。
 半分開いた目は充血し、混乱に瞳がくるくるまわり、あちこちに焦点を絞っているのが見て取れた。流石のヒーローも脳のリカバーにはいささか時間がかかるようだ。体重をかけて潰さないよう、リッヒェは実験台を降りて青年の口元を拭ってやった。
 愛おしい、これはそういう感情なのだろう。
 生殖機能を持ち得ない自分に、伴侶の性別はきっと関係無いらしい。

 白目を剝いて涙をこぼし、やがて意識を失ったイエローの体を抱き上げる。呼吸機能は順調に回復している。バイタルも正常値。……向かうのは消毒液臭い実験室ではなく、彼のために誂えた寝室だ。これから協同生活を始めるのだから、目を覚ましたらここでのルールを丁寧に教えてやらねばならない。心が弾む。
 手術が成功した今、非効率的な話し合いを行う必要はもう無い。脳に直接考えを同期させてやればいいのだから……不死身のイエローは、初めての同胞になってくれるはずだ。
 「添い寝というのをしてみたいな。ああ、とても———いい気持ちだ!」
 リッヒェは生まれて初めて、下等生物に対して優しい気持ちになることができた。
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