20 / 117
イエロー編
Hello,world!
しおりを挟む
「君の頭に、このチップを埋め込みたいと思う」
肉のかき混ぜられる音しか聞こえない。黄ノ下は白目を剝いて無抵抗に泡を吹いていた。両耳の穴から差し込まれた謎のコードが、内側へとどんどん進んで突いてはいけないところへ到達する。
「あ、あ、やら、ヒっ……!!え、ぅえ?えくっ♡」
「大丈夫、少し切って、開いて、埋め込むだけだ。力を抜きなさい」
「……ァア!!やだッ!!いやだいやだ!!あ゛あ゛あ゛!!ィイッ……ゔぇあア!!」
「いい子だ……手を握って。通過点を抜けたぞ」
「あっあう、くぉっ……♡あた、ま、へん。ぇ、ァっあ♡!」
切開は上手く進行した。頭蓋に穴を開け、柔い肉を裂く。神経を耳殻からジャックして痛覚を感知させないよう気をつけてやりながら、リッヒェはようやく手に入れた被験体の手を握る。
泡を吹いて泣き喘ぐイエローの顔は不思議と彼の気分を高揚させた。これだけ繊細な器官を弄くり回してなお発話できるとは。
「———君は最高だ、イエロー……!!」
舌なめずりする獣はこういう気分なのだろうか。塞がらぬようアームで繰り抜かれ続ける脳のある箇所に、リッヒェのパーツを鋳直して作られたチップが埋め込まれる。流石は適応力の高いヒーローの肉体だ。小指の爪ほどの大きさのチップから、鉄色の根が放射線状に広がっていく。チップが健やかな脳へと血管のように馴染み終えるや、アームでつけていた傷口が塞がっていく。肉体が初期状態へリセットされたのだ。
「魔族を遙かに凌ぐ再生力、耐久性!手術は成功だ、おめでとう!」
ものの半時かからない施術ではあったものの、脳を直接切開すれば魔族といえど元には戻らない。アンデッド化すれば動作はするが、精神を同期させる相手には不適格だ。脳を魔術的にいじくり回された魔族は感情機能を失ってしまう。
———びりびりとリッヒェの脳幹に得も言われぬ感覚が訪れる。
鼻息も力無く、仇の白衣を握って涙を溢すしかできないイエローの「感情」が流れ込んできているのだ。チップはうまく本体と馴染んだようだ。
「……ふ、ふふ。怯えているのかイエロー」
乗りあげた実験台の上で、背を丸めて断続的に震える青年。就任当時のまま成長を止められた幼い顔は熱に浮かされたように紅潮し、口のはしからたらたらと唾液を垂れ流している。
半分開いた目は充血し、混乱に瞳がくるくるまわり、あちこちに焦点を絞っているのが見て取れた。流石のヒーローも脳のリカバーにはいささか時間がかかるようだ。体重をかけて潰さないよう、リッヒェは実験台を降りて青年の口元を拭ってやった。
愛おしい、これはそういう感情なのだろう。
生殖機能を持ち得ない自分に、伴侶の性別はきっと関係無いらしい。
白目を剝いて涙をこぼし、やがて意識を失ったイエローの体を抱き上げる。呼吸機能は順調に回復している。バイタルも正常値。……向かうのは消毒液臭い実験室ではなく、彼のために誂えた寝室だ。これから協同生活を始めるのだから、目を覚ましたらここでのルールを丁寧に教えてやらねばならない。心が弾む。
手術が成功した今、非効率的な話し合いを行う必要はもう無い。脳に直接考えを同期させてやればいいのだから……不死身のイエローは、初めての同胞になってくれるはずだ。
「添い寝というのをしてみたいな。ああ、とても———いい気持ちだ!」
リッヒェは生まれて初めて、下等生物に対して優しい気持ちになることができた。
肉のかき混ぜられる音しか聞こえない。黄ノ下は白目を剝いて無抵抗に泡を吹いていた。両耳の穴から差し込まれた謎のコードが、内側へとどんどん進んで突いてはいけないところへ到達する。
「あ、あ、やら、ヒっ……!!え、ぅえ?えくっ♡」
「大丈夫、少し切って、開いて、埋め込むだけだ。力を抜きなさい」
「……ァア!!やだッ!!いやだいやだ!!あ゛あ゛あ゛!!ィイッ……ゔぇあア!!」
「いい子だ……手を握って。通過点を抜けたぞ」
「あっあう、くぉっ……♡あた、ま、へん。ぇ、ァっあ♡!」
切開は上手く進行した。頭蓋に穴を開け、柔い肉を裂く。神経を耳殻からジャックして痛覚を感知させないよう気をつけてやりながら、リッヒェはようやく手に入れた被験体の手を握る。
泡を吹いて泣き喘ぐイエローの顔は不思議と彼の気分を高揚させた。これだけ繊細な器官を弄くり回してなお発話できるとは。
「———君は最高だ、イエロー……!!」
舌なめずりする獣はこういう気分なのだろうか。塞がらぬようアームで繰り抜かれ続ける脳のある箇所に、リッヒェのパーツを鋳直して作られたチップが埋め込まれる。流石は適応力の高いヒーローの肉体だ。小指の爪ほどの大きさのチップから、鉄色の根が放射線状に広がっていく。チップが健やかな脳へと血管のように馴染み終えるや、アームでつけていた傷口が塞がっていく。肉体が初期状態へリセットされたのだ。
「魔族を遙かに凌ぐ再生力、耐久性!手術は成功だ、おめでとう!」
ものの半時かからない施術ではあったものの、脳を直接切開すれば魔族といえど元には戻らない。アンデッド化すれば動作はするが、精神を同期させる相手には不適格だ。脳を魔術的にいじくり回された魔族は感情機能を失ってしまう。
———びりびりとリッヒェの脳幹に得も言われぬ感覚が訪れる。
鼻息も力無く、仇の白衣を握って涙を溢すしかできないイエローの「感情」が流れ込んできているのだ。チップはうまく本体と馴染んだようだ。
「……ふ、ふふ。怯えているのかイエロー」
乗りあげた実験台の上で、背を丸めて断続的に震える青年。就任当時のまま成長を止められた幼い顔は熱に浮かされたように紅潮し、口のはしからたらたらと唾液を垂れ流している。
半分開いた目は充血し、混乱に瞳がくるくるまわり、あちこちに焦点を絞っているのが見て取れた。流石のヒーローも脳のリカバーにはいささか時間がかかるようだ。体重をかけて潰さないよう、リッヒェは実験台を降りて青年の口元を拭ってやった。
愛おしい、これはそういう感情なのだろう。
生殖機能を持ち得ない自分に、伴侶の性別はきっと関係無いらしい。
白目を剝いて涙をこぼし、やがて意識を失ったイエローの体を抱き上げる。呼吸機能は順調に回復している。バイタルも正常値。……向かうのは消毒液臭い実験室ではなく、彼のために誂えた寝室だ。これから協同生活を始めるのだから、目を覚ましたらここでのルールを丁寧に教えてやらねばならない。心が弾む。
手術が成功した今、非効率的な話し合いを行う必要はもう無い。脳に直接考えを同期させてやればいいのだから……不死身のイエローは、初めての同胞になってくれるはずだ。
「添い寝というのをしてみたいな。ああ、とても———いい気持ちだ!」
リッヒェは生まれて初めて、下等生物に対して優しい気持ちになることができた。
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる