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ピンク編
だってアイドル桃里くん
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「みーんな~~っ♡♡♡楽しんでる~~~~!??」
煌びやかなイルミネーション、目も眩む光量を背に、ヒーロー戦隊当代『ピンク』である花園桃里は声を張り上げた。桃里のコールに地鳴りのような野太い歓声が響き渡り会場は熱気に包まれる。
『モーモーリン!!モーモーリン!!!』
「声がモモリンより可愛いぞ~~~♡!!」
『ゥオオ!!モーモーリンッ!!モーモーリンッッッ!!!』
「みんなありがとー!!今日もいっぱい、ももりんと一緒に歌ってね♡今度はセカンドシングル『ぴーち♡ぷりんせす』!!———魔界の果てまで、震わせちゃうぞ♡」
ヒットナンバーが空気を震わす。興行は本日も満員御礼、人気アイドル「ぴんく♡ももりん」は国民的アイドルとして、伝説的スターダムを駆け上がり始めていた。
「ぴんく♡ももりん」、その本名は花園桃里十七歳。当然だが読み仮名は「ももりん」ではなく「とうり」である。彼女の実家が桃農家だったことからつけられた名前だ。ライブ衣装の可憐なスカートをはためかせて踊り狂う彼女は、しかし実際彼と呼称するのが正しい。ももりんの性別は男なのだ。
「いや、君の能力を鑑みてね?戦略的判断を下しただけなんだよ」
マネージャーはもっともらしくそう言って、ヒーロー部隊に登用された桃里をそのままアイドル事務所へ連行し、お上のチカラでもってアイドルデビューさせた。
「しかしマネージャー!僕は男です!詐欺はいけないと思われます!!そしてアイドルなんかになってしまったら戦えなくなってしまいます!!」
「案ずるな。君に授けられたメイン能力は魅了催眠だ。肉体をつくる必要などない」
「そんな!」
「アイドルもまた傷ついた民草を癒し、鼓舞する重要な役職だ……。ヒーローと兼務でアイドル!!圧倒的正義の象徴!!ピンク!!君は間違いなく英雄になれるぞ!!」
訳もわからぬままに可憐な少女らしい肉体づくり、ボイストレーニング、ダンスの猛特訓などなど、鬼のアイドル武者修行が開始された。人格までアイドルとしてあるべき姿を求められるので洗脳実習に近い訓練も含む。朝から晩までアイドル講習、歴史に類を見ない過酷な道程が幕を開けた。
(そんな……ヒーロー養成学校よりスパルタだなんて…)
半分白目を剥いてなおステップを踏み続ける。
「遅い遅い!!笑顔に気持ちが入ってないぞォ!!」マネージャーは限界を超えろと檄を飛ばす。
「こんな……っこんなのッ!!絶対!!可笑しいですよっ!!」
「それ良いねえ!次の曲は体勢への批判をテーマにしよう!!」
「話を聞いてマネージャー!!」
ピンクとして戦場に立つこともあったが、実戦では敵の群れを相手に歌うことを強いられた。ふざけたことに怪人達は涙を流してコールに応えてくれる。へたくそな歌でもぐるぐる腕をまわす奇怪な動きで、音楽に合わせて踊ってくれる。……後に先輩ヒーローのグリーンがオタ芸なるものと教えてくれたが、どこかで打ち合わせでもしてきたのだろうか。一糸乱れぬ統制のとれた動きに、揃いのハッピはどこから出した?
流石に怪人幹部クラスともなると、ピンクが水晶から受けた加護である『魅了』は効果がない。魅了催眠が効くのは下級魔族までだ。しかし幹部達も、ピンクのライブを前にするとだいたいが可笑しな光景に目を丸くして言葉を失う。そりゃそうだ。自分の部下が年端も行かない女装少年のへたくそな歌に熱狂して戦闘を放棄する様は悪夢だろう。ふざけてるよね、でも僕本気なんです。人間界の未来を守らなくちゃいけないんです……。
毎回こうしてピンクが魔界側の戦力を最低二割は削いでいくので、魔界側も考えたのか部下たちに耳栓を着けて寄越すようになった。これには少し困ったものの、魅了耐性の低い魔族達は自ら耳栓を外して待機する。最前線での出来事である。
「みっ……皆さぁん!もうちょっとでレッドさんがこの特設会場に、ひっぐ、到着するそうですぅ!」
『ウオオオオオ……!!』
「あと三十分ほどになりますが、どうか僕の歌を聴いていってください……!うぅ、どうか普通に攻撃してください!いっそ遠くへ逃げてください!死んじゃいますよあなたたち!?」
『ふざけんな!俺たちはアンタのライブに来てるんだよ』
『最後にいい目みさせてくれやー!』
「ちく、く、うぅうう!!」
畜生、も糞、もアイドル禁止用語である(マネージャー調べ)。レッドが到着すれば間違いなく怪人達は虐殺されてしまうのだが、群衆は清々しい顔でパイプ椅子に腰を落ち着けている。
なんか、思ってたのと、違う!
マネージャーの考えたベタベタなキャラ付けで、ふりふりのスカートを振り乱し、ピンクはデビュー曲を熱唱する。五曲目イントロに入ったころ、レッドの奥義が観客ブースを吹き飛ばした。会場もろとも怪人達は塵に還っていく。いつものことだが命は儚い。
「ピンク、申し訳ない。遅くなりました」
「いえ……いえいいんですレッドさん……」
途中から泣き声で歌っていたピンクには丁度良い頃合いだった。アイドルとヒーローの両立は、難しい。
煌びやかなイルミネーション、目も眩む光量を背に、ヒーロー戦隊当代『ピンク』である花園桃里は声を張り上げた。桃里のコールに地鳴りのような野太い歓声が響き渡り会場は熱気に包まれる。
『モーモーリン!!モーモーリン!!!』
「声がモモリンより可愛いぞ~~~♡!!」
『ゥオオ!!モーモーリンッ!!モーモーリンッッッ!!!』
「みんなありがとー!!今日もいっぱい、ももりんと一緒に歌ってね♡今度はセカンドシングル『ぴーち♡ぷりんせす』!!———魔界の果てまで、震わせちゃうぞ♡」
ヒットナンバーが空気を震わす。興行は本日も満員御礼、人気アイドル「ぴんく♡ももりん」は国民的アイドルとして、伝説的スターダムを駆け上がり始めていた。
「ぴんく♡ももりん」、その本名は花園桃里十七歳。当然だが読み仮名は「ももりん」ではなく「とうり」である。彼女の実家が桃農家だったことからつけられた名前だ。ライブ衣装の可憐なスカートをはためかせて踊り狂う彼女は、しかし実際彼と呼称するのが正しい。ももりんの性別は男なのだ。
「いや、君の能力を鑑みてね?戦略的判断を下しただけなんだよ」
マネージャーはもっともらしくそう言って、ヒーロー部隊に登用された桃里をそのままアイドル事務所へ連行し、お上のチカラでもってアイドルデビューさせた。
「しかしマネージャー!僕は男です!詐欺はいけないと思われます!!そしてアイドルなんかになってしまったら戦えなくなってしまいます!!」
「案ずるな。君に授けられたメイン能力は魅了催眠だ。肉体をつくる必要などない」
「そんな!」
「アイドルもまた傷ついた民草を癒し、鼓舞する重要な役職だ……。ヒーローと兼務でアイドル!!圧倒的正義の象徴!!ピンク!!君は間違いなく英雄になれるぞ!!」
訳もわからぬままに可憐な少女らしい肉体づくり、ボイストレーニング、ダンスの猛特訓などなど、鬼のアイドル武者修行が開始された。人格までアイドルとしてあるべき姿を求められるので洗脳実習に近い訓練も含む。朝から晩までアイドル講習、歴史に類を見ない過酷な道程が幕を開けた。
(そんな……ヒーロー養成学校よりスパルタだなんて…)
半分白目を剥いてなおステップを踏み続ける。
「遅い遅い!!笑顔に気持ちが入ってないぞォ!!」マネージャーは限界を超えろと檄を飛ばす。
「こんな……っこんなのッ!!絶対!!可笑しいですよっ!!」
「それ良いねえ!次の曲は体勢への批判をテーマにしよう!!」
「話を聞いてマネージャー!!」
ピンクとして戦場に立つこともあったが、実戦では敵の群れを相手に歌うことを強いられた。ふざけたことに怪人達は涙を流してコールに応えてくれる。へたくそな歌でもぐるぐる腕をまわす奇怪な動きで、音楽に合わせて踊ってくれる。……後に先輩ヒーローのグリーンがオタ芸なるものと教えてくれたが、どこかで打ち合わせでもしてきたのだろうか。一糸乱れぬ統制のとれた動きに、揃いのハッピはどこから出した?
流石に怪人幹部クラスともなると、ピンクが水晶から受けた加護である『魅了』は効果がない。魅了催眠が効くのは下級魔族までだ。しかし幹部達も、ピンクのライブを前にするとだいたいが可笑しな光景に目を丸くして言葉を失う。そりゃそうだ。自分の部下が年端も行かない女装少年のへたくそな歌に熱狂して戦闘を放棄する様は悪夢だろう。ふざけてるよね、でも僕本気なんです。人間界の未来を守らなくちゃいけないんです……。
毎回こうしてピンクが魔界側の戦力を最低二割は削いでいくので、魔界側も考えたのか部下たちに耳栓を着けて寄越すようになった。これには少し困ったものの、魅了耐性の低い魔族達は自ら耳栓を外して待機する。最前線での出来事である。
「みっ……皆さぁん!もうちょっとでレッドさんがこの特設会場に、ひっぐ、到着するそうですぅ!」
『ウオオオオオ……!!』
「あと三十分ほどになりますが、どうか僕の歌を聴いていってください……!うぅ、どうか普通に攻撃してください!いっそ遠くへ逃げてください!死んじゃいますよあなたたち!?」
『ふざけんな!俺たちはアンタのライブに来てるんだよ』
『最後にいい目みさせてくれやー!』
「ちく、く、うぅうう!!」
畜生、も糞、もアイドル禁止用語である(マネージャー調べ)。レッドが到着すれば間違いなく怪人達は虐殺されてしまうのだが、群衆は清々しい顔でパイプ椅子に腰を落ち着けている。
なんか、思ってたのと、違う!
マネージャーの考えたベタベタなキャラ付けで、ふりふりのスカートを振り乱し、ピンクはデビュー曲を熱唱する。五曲目イントロに入ったころ、レッドの奥義が観客ブースを吹き飛ばした。会場もろとも怪人達は塵に還っていく。いつものことだが命は儚い。
「ピンク、申し訳ない。遅くなりました」
「いえ……いえいいんですレッドさん……」
途中から泣き声で歌っていたピンクには丁度良い頃合いだった。アイドルとヒーローの両立は、難しい。
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