イケニエヒーロー青井くん

トマトふぁ之助

文字の大きさ
上 下
11 / 117
ブルー編

苗床level3:細胞変質

しおりを挟む
 怪人バルドが指先でなぞる若い男の体は、どこもかしこも手術の縫合痕と注射痕で覆われている。ヒーローヂカラによる自己再生能力は戦場においてのみの限定的なもので、故意に施される切開手術の傷を癒してはくれない。
 暖かな灯りが照らす人間特有の柔らかな皮膚。体の線が無防備に晒され、その異常さが際だって観察できた。両の手足に穿たれた針状の増設神経はぽつぽつとその周囲を紫に染めている。ビスの上を親指でぐいと押せば、鈍い感覚に青井が呻く。
 あらためてバルドは顔を歪ませた。
 「終わってんな、痛覚もイカレちまってんのか。とっ捕まえた被検体は触っただけで失禁しやがったぞ」
 「ラボにも行ったのか。あんたには面白かったろう」
 「冗談言ってんじゃねえぞ。キチガイ共の玩具が詰まった胸くそ悪いごみ溜めだ。あんなん一銭にもなりゃしねえ」
 「なんだ。魔族のほうがまともな感性してるんだな……」
 青井はもうそれほど辛く感じない。ああいう戦い方もあるのだろう。だって人間は弱いから、自分たちを守るには、それなりの代価が必要なのだ。
 それは生体を用いた肉体改造だったり、スーツに神経を通して怪力を得る無理な手術であったり。捕まえた魔物を切り刻んで移植してみたり、その成果をスポンサーに報告して資金をせびったり……それは飽きがこないほど多岐にわたる。大きな手のひらが青井の胸を撫でた。手術を重ねていくうちに、いつからか青井の体に筋肉はつかなくなった。それでもがたいの良いほうだったから、傷が増えてもスーツを着れば誤魔化せた。
 粘膜接触でだけ未だ人間らしい反応を示すこの体は、表皮を炙られるくらいでは痒みしか感じなくなっている。
 「ここも、こいつも、この傷も……俺様がつけたもんだ。忘れちゃいねえだろ」
 「……っ……、ふ……」
 マーキングのように歯形を立てられる。傷跡に舌を這わされて青井は身を捩った。痛覚が鈍麻しているだけ、どんなことをされているか図りかねて恐ろしい。あからさまな性的接触を受けて、煽られた淫紋が呼応し出した。ゆるく勃起した陰茎を恥じて青年が言い訳を漏らす。
 「ちが、その……!は、はらが熱くて……」
 「今日はまだ抱いてやってねえからな。ちょっと待ってろ……」
 バルドがぐり、と手のはらで軽く淫紋を押し込んだ。青井は半分泣き声をあげて稲妻のような刺激に耐えた。バルドに抱かれているとき、感じるのは熱さと、体重をかけられるゆるい圧力、それから感覚麻痺を免れた粘膜への刺激。淫紋を中心として下腹の感覚ばかりが敏感になってきて、それがどうにも恐ろしい。根っこから作り変えられているような気がして、言い知れぬ不安に大鬼へ手を伸ばした。
 「捕まってろよぉ……!上せるとまじいからな。手短にいくぞ」
 「……っくそ……♡はぁ、は……っ♡!!ぅう、で、けぇ……!!」
 正面から青年を軽々抱き上げると、バルドは青井の腰のみを捕まえて勃ち上がった肉棒の穂先を後孔に収めた。ずぷずぷと重力に従い肉洞を割く熱塊に呼吸が詰まる。太い異形の首を抱きしめて、青井は肺に溜まった空気を少しずつ吐いた。バルドの重い腰が、青年を抱っこした姿勢のまま湯船の淵に降ろされる。
 「ちょっと離してくれよ。動きづれえ」
 しがみついていた腕を剥がすと、大鬼は青年の頬を右手で撫で付け額同士を軽くぶつけた。左の手は青井の腰に回され、オーガの胴を跨いで放り出されたしなやかな腿を撫で付ける。
 「ほら、肩に手ェ回せよ」
 「……んん……」
 逃げる舌を捕らえられ、愛撫されながら吐く息まで呑み込まれる。一度放された唇は目元や鼻先を軽く啄み、鋭い牙で傷つけぬよう柔らかく耳殻を噛む。
 「———俺様のもんだ」
 あんまり満足そうに笑うから、全身の血が沸騰して考えが纏まらない。
 「っふ……♡……くぅ」
 「もうあっちには帰さねえ、お前は死ぬまで魔界で暮らすんだ……!なァ、なぁ……諦めてこっち見ろ。俺様を見ろ……!!」
 「く、んンッ……♡!ぁ、あっ♡あ、ぁアぁ~……っ!!」
 じわじわと下腹が熱くなる。びくびくと血潮の脈さえ刻みつけられ、青年の腕がオーガの肩口へしがみつく力を強くした。湯気で湿気った暖かなバスルーム。揺すぶられるたび、広い室内に押さえきれない喘ぎが反響する。
 「……ッひ、ぁああ……♡!!」
 「ぐぅう……ッ!!」
 深くまで受け入れた肉槍が派手にびくついたかと思うと、大鬼は腰を震わせて捕虜の体内に精を放った。腕の中で獲物が肩をひくつかせる。……自分が精を放つより心地いい。身体の芯から溶かされているような感覚に、青年は蕩然と浅い呼吸を繰り返した。
 ———じわりじわりと、精の熱さが身体を侵す。
 「……ン、んぅ……♡」
 オーガの射精は人間のそれより少し長い。がっちり掴まれた指の後が薄く残る尻を摩られながらキスをした。
 「……はァ、は、ふ……っ♡」
 「風呂も悪かねえよな」
 すっかり骨抜きにされて頭の回らない青井に、大鬼が笑いかける。
 「お前の療養になる。冷てえ手足がちょっとぬくいぜ」
 「は……な、何……」
 「死体みてえな温度だったからなァ。なんとか出来ねえかと思ってはいたのよ」
 投げ出された手を取って、バルドが指先に口付ける。
 「こっから先長いんだ、ブルー君よ。———お前にのされたぶんの補償は、お前自身の人生で支払ってもらうぜ」

 大きな大きなオーガの口が開かれる。薬指を根本まで飲み込んで、恭しく、それでいて野蛮にも歯型の指輪が贈られた。

 「…………色呆け……。」青井は呆然とこぼす。
 「俺はアンタよりずっと早くに死ぬぞ」
 「知ってるよォ。だから半魔ちゃんにしてやるンだろが」
 「は、半……?」
 バルドが下腹を指す。腹筋に似つかわしくない、毒々しい紋様がとぐろを巻いていた。
 「半人半魔。あと100年はよろしくできる、言ってなかったか?」

 ———男だろうが女だろうが怪人だろうが、本当は傍にいてくれるだけで嬉しかった。恋人のように抱いてくれるなら尚更都合がいい。どうせもう死にかけで、自分だって人間と呼べる体ではないのだから。
 ヒーローとしての誇りも何も無い自分に心底吐き気がして、敵であるバルドに不誠実だとさえ感じる見境の無さにも情けなくなった。……舌を噛んで終わりにするべきだと頭の中で誰かが叫ぶ。
 しかしそれでも青井は死ぬのが怖かった。一人ぼっちで死ぬのが、嫌だった。

 「……泣くなよ!傷つくぞ!!」
 「っぇ、ぅぐ……っ!うっぅう……!!」
 めそつきだした青年の顎を掴んで大鬼がその目元にキスを落とす。
 「いつまでも死にそうな顔で後ろ向いてたって仕方ねえだろうが。欲しいものは何だって買ってやる、不自由させたりしねえからよ……一生不労所得が入るんだぞ!?健康な肉体に戻してやるからよう……!!俺が精を注いでりゃ、腹の紋が養分に変える。お前は頭カラにしてあんあんよがってるだけでいい!」
 浮き出た淫紋の皮下では、魔界の寄生植物が根を張っている。なかなかよくできた植物で、宿主がうっかり性行為のし過ぎで死んでしまわないように、精から得た栄養を本体にまわす役割を負う。青井の壊れた心身の療養には、実際とても相性が良い。
 「ふっ……うぅ、この屑野郎……!色惚けぇ……!!こ、こっちはいつくたばるかって……」
 「アァ!?勝手にくたばったらゾンビ化させてもっかいブチ殺すぞ。俺様のスケやるならそれらしくふんぞり返ってろ」
 「知るか馬鹿!言われなきゃわかんないだろ……!!」

 熱いシャワーが冷えてしまった青井の体にかけられる。皮膚を温めていく熱が心地良い。ぐしゅぐしゅみっともなく声を殺して愚図る青井を、バルドは指圧しながら洗っていく。
 一見戦士らしい傷だらけの表皮は、指で押してみるとまるで死肉のように凝り固まっている。血行を整えるのには風呂がいいと調べにもあったが、この体にどれだけ効くだろうか。
 ……バルドは少し冷えてしまった青年を抱え、再び栄養を送り込むべく湯船に戻った。魔族に比べればひ弱な身体。群青に染められた毛質の硬い頭髪。上半身は切り貼りしたような奇妙な傷で埋め尽くされている。

 ———刻まれたその傷に、大鬼はかつての彼を思い出す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...