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ブルー編
悪党と口約束
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トーストと目玉焼きと何肉かよくわからない巨大な焼き肉の朝食を済ませると、バルドはテーブルを雑に片付けて何処かから持ってきた地図を広げた。面食らう青井を前に見慣れた地形を指さす。
「ニンゲンの領地はこっからここまで、うちの魔王がお前ら人間共のトップと話し合って決めたことだ。わざわざ飢饉の見舞いに畑まで寄越してやったんだぞ。種まいたのも耕したのも俺様の部下だ。感謝しろよ」
「……広すぎる。魔界側がこんな好条件で手打ちにする筈がない」
「フン、一応監督役は送り込んでるがな。」
「監督役だと?」
「そうだ。人間共がおかしな兵器を隠し持たねえようにエリアごと各幹部直属の部下と一個旅団を寄越してる。忌々しい結晶体には手出ししないって盟約つきでな」
「それじゃ……そんなの実質植民地じゃないか!」
「そうできれば良かったんだがなあ!生憎うちのボスが略奪行為を禁止してる。禁則を破ればその場で体がはじけ飛ぶ馬鹿みてえな契約だ。……魔族側から人間に手出しはしない。それもまあ、お前らが仕掛けてこない場合に限定されるがな!正当防衛ならその限りに入らねえ」
何考えてるんだかな魔王の野郎は。そうため息をつくバルドの指先は滑らかにすべり、ある地点を指さした。
「お前が気にかけてるのはここだろう。ブルー」
青井の顔が一気に青ざめる。海岸沿い位置する小さな集落。地図に名前さえ載らない片田舎だ。
にやつくバルドは硬直した奴隷の肩を不気味なほど優しく捕まえた。
「ここにはてめえの大事な孤児院がある。そしてな、このエリアの担当は俺の部下だ。どんな具合か知りたいだろ?」
「おまえっ……俺の故郷に何をした!?」
取り乱してバルドに掴みかかるが、青井の今の力でどうなるはずもない。伸ばされた手はすんでのところで捕らえられ、空に持ち上げられる。
「離せ、答えろ!母さんに何した!殺してやる!」
「落ち着けよ……まだ何もしてないぜ。ここらの住人は皆大人しいんで暴動もねえしな。この写真を見るにお袋さんは元気そうだ!良かったなブルー!」
「は……はぁ!?」
テーブルに落とされた写真には、遠目から隠し撮りされたのであろう孤児院の中庭が写っていた。炊き出しの最中らしい。鍋から汁物を配るオーガ族を背後に、子どもたちに囲まれたシスターが穏やかに微笑んでいる。
「な……こ、この写真は……」
「部下に送らせた。ついこの間のやつだ、偽造したわけじゃないからな。お前さんにやるよ」
他にも数枚、折れ目のついた現像写真を渡される。懐かしい景色が思い出と合致した。確かにここは青井の古巣だ。呆然と口を開いたまま、青井は頭をぐらぐらさせる。バルドは金歯をぎらつかせてにっこり営業スマイルだ。どういうつもりなのか測りかねて青年の視線が写真と大鬼を行き来する。
「そこでだ!」
歯をむき出して笑うバルドの顔は実に晴れやかで、突然の大声に身震いする肩をがっしり抱き込まれる。商談開始と言わんばかり、耳元で低い声が囁かれた。
「俺様は総督として奴隷の故郷についていくつか権限を握っているわけだ。税金とか年貢とかその辺な!」
「え、え?」
「そう致命的じゃあねえが経営の困窮してる善良な孤児院の皆様にィ、金銭的支援をすることも容易なわけ。おわかり?」
「…………あ、ぅん……?」
「飲み込みが悪いな。お前が大人しく俺様のオンナになればここに送金してやるっつってんだよ」
「へえ!?」
端的に言えば身売りしろ、ということなのだろうか。青井は食い気味のバルドから必死に距離を取り、顔を両腕で隠した。圧力が怖い。がっちり固定された胴回りに冷や汗が滲む。
「さんざん人のことレイプしておいて何言ってるんだ!?」
「あんなしくしくめそめそされてちゃ萎えんだよ!お前にゃジシュセイが足りねえ」
「す、好き勝手言うな!俺はそもそも男だ、人間だ!もっと綺麗な怪人のお姉さんいるだろう!?」
「俺の左目えぐり取っておいてよく言うぜ!こんな顔じゃ女も寄り付かねえ。観念して責任とってくれよォ~ドグサレヒーローさんよォオ~ッ!!!」
バルドの左目には瞼から眼窩にかけて強烈な傷跡が残っている。いつかの接戦の際に青井が剣で負わせたものだったが、あの時はこんな憂き目にあうなんて考えてもみなかった。
『覚えてろ、いつかてめえを跪かせて靴を舐めさせる!覚えてろ糞餓鬼があ!』
いつ思い出しても記憶の中のバルドは屈辱に憤死しかけている。青井が珍しく快勝したあの日、バルドは口汚く青井を罵りながらほうぼうの体で部下に引きずられていった。今になってみれば靴を舐めさせるよりも遙かに激しい陵辱を果たした訳だから、彼の悲願は達成されたと言っていい。
「な、悪いハナシじゃねえだろうが。三食昼寝つきでてめえの実家には毎月自動送金!みんなハッピー!!こんなズッタズタになるまで働かせるような扱いはしねえと誓うからよぉ、騙されたと思ってうんと言ってくれよ」
大鬼は青井の手を取り、その甲にわざとらしく口付ける。勢いが熱を帯びていてかなり怖い。
なんだか可笑しくなってきた雰囲気に、青年は不可解に熱い顔を腕で擦る。
「だ、だいたい、ひとの腹に妙な植物仕込んでおいて……。断ったって無理矢理するんだろうが……!!」
バルドに両腕で囲われてしまい、椅子から立ち上がることもできない青井は腕を胸の前で畳んで突っ伏した。
「だぁらジシュセイだよ。これから家に置くんだ、苛めるのもそりゃ愉快だが泣きべそかき続けられんのはうるさくてかなわん。お前が懐いて俺様が可愛がるってのが、一番具合がいいだろうが」
「なつ……誰が懐くか!そ、その馬鹿げた自信はどこから湧いて出る……!?」
「てめえ如き小僧っ子ひとり落とせないバルド様だと思うか?でかい、強い、ツラがいいの三拍子揃ってるじゃねえか。おまけに金持ち。金で解決できねえことはそう転がってねえぞ、欲しいものは何でも手に入る」
絶句するしかない。あまりに過剰な自己肯定感。俺はこんな色馬鹿と戦っていたのかと青井は体全体をぐらつかせる。予想し得ない展開に、何だか力が入らない。
「俺様は強欲のバルド。欲しいものは全て手にいれてきた……お前も必ず落としてみせるぞ。絶対に惚れさせてやる。因みにブルー、お前のツラはかなり好みだ」
「もういい……もうしゃべらないでくれ……」
悪夢でも見ているのだろうか。かつての仇とは思えない距離感と会話に頭がおかしくなりそうだ。これが愛人扱いされる屈辱なのか、口説かれているような空気に惑っているのかは当人もわからない。
(ど、どうしよう……どうすればいい……?)
断ればどうなる。激昂して青井の故郷を滅茶苦茶にするかもしれない。その可能性がある以上、最初から選択肢は一つだけだ。
「こ、故郷に手出しはしないんだな……?」
「あったり前よ」
「絶対、絶対本当だな……?」
「応とも。……なあ、てめえ自身どうだ?このバルド様に対してよ。こう、クるもんはあるか?」
「何言ってんだ……?」
「運命とか」
「どっかで頭でも打ったんじゃないか……!?」
「こちとら求愛してんだぞ。手応えが欲しいんだよ。パッションてやつ!!お前の気持ちが知りてえのよ。俺様のことどう思ってる」
「し、色情狂……」
「それ以外で!!」
なんて太々しい奴だ。慄きながら青井は意識を遠くへ遠くへ飛ばし始めた。これは半ば現実逃避だ。
(俺の気持ち……?)
そんなことを意識したのは子供時分以来だ。私生活での行動まで徹底して協会の規定に従ってきた青井は、基本的に意思決定権を誰かに委ねてきた。みんなが助かるように。誰かの望みがかなうように。『ブルー』を襲名してからはマネージャーが常にスケジュールを管理し、何をするにせよ挙動にはメディア向けに手が加えられていた。身売りする相手も、どんな風に振る舞えばいいかさえ。決定権は自分にない。
どうせ叶えられないから欲しがらない求めない、それが人間関係の基本だった青井に、久しぶりにその意思を問う者が現れた。
(……レイプ魔で酒癖悪くて、何より殺し合いの相手だ。最悪もいいとこなのに……)
……己の意思を重んじられたように感じるのは、少し軽率過ぎるだろうか。なかなか青井のメンタルもいいところまで壊れているらしい。
「……どうせ選択肢なんか無いんだろ。わかったよ、性奴隷にでも何でもするがいい。……俺は、気持ちとか、今はよくわからないし」
揺らぐ心を必死に取り繕って話を切り上げようとすると、太い指で顎を掬われた。見下ろす悪漢が青年の目を見つめる。
「違うな」
「なんだよ……」
「『私青井清一は、今日から魔王軍大幹部であるバルド様のオンナになります。可愛がってください』だろ?」
「なっ、……~~~っ!!最悪だ!!やっぱりお前は最低のクソ野郎だ!!」
にまにまと意地の悪い顔で見下ろしてくる怪人は、隣の椅子にどっかりと腰掛けて青井の顎を自分へ向けさせた。目の淵を赤くして歯を食いしばる青井に、容赦なく追い打ちがかけられる。
「どうしたどうしたあ?孤児院が貧乏暮らしのまんまでいいのかあ?」
「くっ、……そ!!!わ、わたし……青井清一は……っ」
「聞こえねえなあ!」
「ぐ……!私青井、清一は…、今日から魔王軍大幹部である、……バルド様のっ……お、おんなになります……!いいだろうもう!なあ、———ひっ♡!?」
無言で青井の下腹部に親指を埋めてくるバルドは続きを促した。根を張った魔界植物が種乞いに体を発情させ始める。臍の下、オーガのカサついた太い親指が意地悪く根元を押した。
「ぁ♡だめっだ……♡!!種、おさなっ……!」
「ひひ、おら続きを言えよ。たっぷりそうしてやっからよ」
「くそっ!!卑怯者ッ!!ぅう……か、かわいがって、ください……!!はら……腹、押すなよぉ……っ♡!!!!」
よく言えたと上機嫌のバルドが服を脱がしにかかってくる。絶対こんなやつ好きになるものか。軽く虚脱状態の青井は逞しい腕に抱き潰されながら、まるで本当に捕虜ではなく愛人みたいだと、羞恥と注ぎ込まれる充足感に思考を混乱させた。
「ニンゲンの領地はこっからここまで、うちの魔王がお前ら人間共のトップと話し合って決めたことだ。わざわざ飢饉の見舞いに畑まで寄越してやったんだぞ。種まいたのも耕したのも俺様の部下だ。感謝しろよ」
「……広すぎる。魔界側がこんな好条件で手打ちにする筈がない」
「フン、一応監督役は送り込んでるがな。」
「監督役だと?」
「そうだ。人間共がおかしな兵器を隠し持たねえようにエリアごと各幹部直属の部下と一個旅団を寄越してる。忌々しい結晶体には手出ししないって盟約つきでな」
「それじゃ……そんなの実質植民地じゃないか!」
「そうできれば良かったんだがなあ!生憎うちのボスが略奪行為を禁止してる。禁則を破ればその場で体がはじけ飛ぶ馬鹿みてえな契約だ。……魔族側から人間に手出しはしない。それもまあ、お前らが仕掛けてこない場合に限定されるがな!正当防衛ならその限りに入らねえ」
何考えてるんだかな魔王の野郎は。そうため息をつくバルドの指先は滑らかにすべり、ある地点を指さした。
「お前が気にかけてるのはここだろう。ブルー」
青井の顔が一気に青ざめる。海岸沿い位置する小さな集落。地図に名前さえ載らない片田舎だ。
にやつくバルドは硬直した奴隷の肩を不気味なほど優しく捕まえた。
「ここにはてめえの大事な孤児院がある。そしてな、このエリアの担当は俺の部下だ。どんな具合か知りたいだろ?」
「おまえっ……俺の故郷に何をした!?」
取り乱してバルドに掴みかかるが、青井の今の力でどうなるはずもない。伸ばされた手はすんでのところで捕らえられ、空に持ち上げられる。
「離せ、答えろ!母さんに何した!殺してやる!」
「落ち着けよ……まだ何もしてないぜ。ここらの住人は皆大人しいんで暴動もねえしな。この写真を見るにお袋さんは元気そうだ!良かったなブルー!」
「は……はぁ!?」
テーブルに落とされた写真には、遠目から隠し撮りされたのであろう孤児院の中庭が写っていた。炊き出しの最中らしい。鍋から汁物を配るオーガ族を背後に、子どもたちに囲まれたシスターが穏やかに微笑んでいる。
「な……こ、この写真は……」
「部下に送らせた。ついこの間のやつだ、偽造したわけじゃないからな。お前さんにやるよ」
他にも数枚、折れ目のついた現像写真を渡される。懐かしい景色が思い出と合致した。確かにここは青井の古巣だ。呆然と口を開いたまま、青井は頭をぐらぐらさせる。バルドは金歯をぎらつかせてにっこり営業スマイルだ。どういうつもりなのか測りかねて青年の視線が写真と大鬼を行き来する。
「そこでだ!」
歯をむき出して笑うバルドの顔は実に晴れやかで、突然の大声に身震いする肩をがっしり抱き込まれる。商談開始と言わんばかり、耳元で低い声が囁かれた。
「俺様は総督として奴隷の故郷についていくつか権限を握っているわけだ。税金とか年貢とかその辺な!」
「え、え?」
「そう致命的じゃあねえが経営の困窮してる善良な孤児院の皆様にィ、金銭的支援をすることも容易なわけ。おわかり?」
「…………あ、ぅん……?」
「飲み込みが悪いな。お前が大人しく俺様のオンナになればここに送金してやるっつってんだよ」
「へえ!?」
端的に言えば身売りしろ、ということなのだろうか。青井は食い気味のバルドから必死に距離を取り、顔を両腕で隠した。圧力が怖い。がっちり固定された胴回りに冷や汗が滲む。
「さんざん人のことレイプしておいて何言ってるんだ!?」
「あんなしくしくめそめそされてちゃ萎えんだよ!お前にゃジシュセイが足りねえ」
「す、好き勝手言うな!俺はそもそも男だ、人間だ!もっと綺麗な怪人のお姉さんいるだろう!?」
「俺の左目えぐり取っておいてよく言うぜ!こんな顔じゃ女も寄り付かねえ。観念して責任とってくれよォ~ドグサレヒーローさんよォオ~ッ!!!」
バルドの左目には瞼から眼窩にかけて強烈な傷跡が残っている。いつかの接戦の際に青井が剣で負わせたものだったが、あの時はこんな憂き目にあうなんて考えてもみなかった。
『覚えてろ、いつかてめえを跪かせて靴を舐めさせる!覚えてろ糞餓鬼があ!』
いつ思い出しても記憶の中のバルドは屈辱に憤死しかけている。青井が珍しく快勝したあの日、バルドは口汚く青井を罵りながらほうぼうの体で部下に引きずられていった。今になってみれば靴を舐めさせるよりも遙かに激しい陵辱を果たした訳だから、彼の悲願は達成されたと言っていい。
「な、悪いハナシじゃねえだろうが。三食昼寝つきでてめえの実家には毎月自動送金!みんなハッピー!!こんなズッタズタになるまで働かせるような扱いはしねえと誓うからよぉ、騙されたと思ってうんと言ってくれよ」
大鬼は青井の手を取り、その甲にわざとらしく口付ける。勢いが熱を帯びていてかなり怖い。
なんだか可笑しくなってきた雰囲気に、青年は不可解に熱い顔を腕で擦る。
「だ、だいたい、ひとの腹に妙な植物仕込んでおいて……。断ったって無理矢理するんだろうが……!!」
バルドに両腕で囲われてしまい、椅子から立ち上がることもできない青井は腕を胸の前で畳んで突っ伏した。
「だぁらジシュセイだよ。これから家に置くんだ、苛めるのもそりゃ愉快だが泣きべそかき続けられんのはうるさくてかなわん。お前が懐いて俺様が可愛がるってのが、一番具合がいいだろうが」
「なつ……誰が懐くか!そ、その馬鹿げた自信はどこから湧いて出る……!?」
「てめえ如き小僧っ子ひとり落とせないバルド様だと思うか?でかい、強い、ツラがいいの三拍子揃ってるじゃねえか。おまけに金持ち。金で解決できねえことはそう転がってねえぞ、欲しいものは何でも手に入る」
絶句するしかない。あまりに過剰な自己肯定感。俺はこんな色馬鹿と戦っていたのかと青井は体全体をぐらつかせる。予想し得ない展開に、何だか力が入らない。
「俺様は強欲のバルド。欲しいものは全て手にいれてきた……お前も必ず落としてみせるぞ。絶対に惚れさせてやる。因みにブルー、お前のツラはかなり好みだ」
「もういい……もうしゃべらないでくれ……」
悪夢でも見ているのだろうか。かつての仇とは思えない距離感と会話に頭がおかしくなりそうだ。これが愛人扱いされる屈辱なのか、口説かれているような空気に惑っているのかは当人もわからない。
(ど、どうしよう……どうすればいい……?)
断ればどうなる。激昂して青井の故郷を滅茶苦茶にするかもしれない。その可能性がある以上、最初から選択肢は一つだけだ。
「こ、故郷に手出しはしないんだな……?」
「あったり前よ」
「絶対、絶対本当だな……?」
「応とも。……なあ、てめえ自身どうだ?このバルド様に対してよ。こう、クるもんはあるか?」
「何言ってんだ……?」
「運命とか」
「どっかで頭でも打ったんじゃないか……!?」
「こちとら求愛してんだぞ。手応えが欲しいんだよ。パッションてやつ!!お前の気持ちが知りてえのよ。俺様のことどう思ってる」
「し、色情狂……」
「それ以外で!!」
なんて太々しい奴だ。慄きながら青井は意識を遠くへ遠くへ飛ばし始めた。これは半ば現実逃避だ。
(俺の気持ち……?)
そんなことを意識したのは子供時分以来だ。私生活での行動まで徹底して協会の規定に従ってきた青井は、基本的に意思決定権を誰かに委ねてきた。みんなが助かるように。誰かの望みがかなうように。『ブルー』を襲名してからはマネージャーが常にスケジュールを管理し、何をするにせよ挙動にはメディア向けに手が加えられていた。身売りする相手も、どんな風に振る舞えばいいかさえ。決定権は自分にない。
どうせ叶えられないから欲しがらない求めない、それが人間関係の基本だった青井に、久しぶりにその意思を問う者が現れた。
(……レイプ魔で酒癖悪くて、何より殺し合いの相手だ。最悪もいいとこなのに……)
……己の意思を重んじられたように感じるのは、少し軽率過ぎるだろうか。なかなか青井のメンタルもいいところまで壊れているらしい。
「……どうせ選択肢なんか無いんだろ。わかったよ、性奴隷にでも何でもするがいい。……俺は、気持ちとか、今はよくわからないし」
揺らぐ心を必死に取り繕って話を切り上げようとすると、太い指で顎を掬われた。見下ろす悪漢が青年の目を見つめる。
「違うな」
「なんだよ……」
「『私青井清一は、今日から魔王軍大幹部であるバルド様のオンナになります。可愛がってください』だろ?」
「なっ、……~~~っ!!最悪だ!!やっぱりお前は最低のクソ野郎だ!!」
にまにまと意地の悪い顔で見下ろしてくる怪人は、隣の椅子にどっかりと腰掛けて青井の顎を自分へ向けさせた。目の淵を赤くして歯を食いしばる青井に、容赦なく追い打ちがかけられる。
「どうしたどうしたあ?孤児院が貧乏暮らしのまんまでいいのかあ?」
「くっ、……そ!!!わ、わたし……青井清一は……っ」
「聞こえねえなあ!」
「ぐ……!私青井、清一は…、今日から魔王軍大幹部である、……バルド様のっ……お、おんなになります……!いいだろうもう!なあ、———ひっ♡!?」
無言で青井の下腹部に親指を埋めてくるバルドは続きを促した。根を張った魔界植物が種乞いに体を発情させ始める。臍の下、オーガのカサついた太い親指が意地悪く根元を押した。
「ぁ♡だめっだ……♡!!種、おさなっ……!」
「ひひ、おら続きを言えよ。たっぷりそうしてやっからよ」
「くそっ!!卑怯者ッ!!ぅう……か、かわいがって、ください……!!はら……腹、押すなよぉ……っ♡!!!!」
よく言えたと上機嫌のバルドが服を脱がしにかかってくる。絶対こんなやつ好きになるものか。軽く虚脱状態の青井は逞しい腕に抱き潰されながら、まるで本当に捕虜ではなく愛人みたいだと、羞恥と注ぎ込まれる充足感に思考を混乱させた。
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