さるのゆめ

トマトふぁ之助

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しるし憑き

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 あれから秋斗は眠らなくなった。
 忌々しい淫夢から三日、必死に眠るのを我慢して、ひたすら寺のお堂でルビのふられたお経を読み続けている。あまりに怯えるので用意してやった経典のコピーだ。
 「これはよくないものですね」
 兄のつてで来てもらった自称霊能力者の爺さんは、そう言うだけで詳細を教えてはくれなかった。
 「私にも判然としないのですよ。ただ、確実によくないものに目をつけられている」
 「そんなことはわかってる!対処法を聞きたいんです!」
 「……そうでしょうね。しかし今のところ打つ手がないのです。君の友人は取り憑かれている訳ではない、ただわるいものに目をつけられてしまっただけだ。憑かれてはいないから剥がすこともできない。そして目眩しをするには、相手の格が高すぎる」
 今までになく邪悪な霊だろう。私にできることはありません、と申し訳なさそうに老人は謝罪を口にした。
 「私も命が惜しい。……君も近く、呼ばれるでしょう」
 身辺の整理を勧めて小さな背中は帰っていった。
 「くそっ!!」
 「ばん。やめなさい」
 兄が嗜めてくるが、ならむざむざとり殺されろとでも言うのだろうか。自分とてあれから一時間と眠っていないのだ。不眠からくる苛立ちについ舌打ちをする。
 「んだよ、じゃあどうしろっての?俺でも敵わなかったんだぜ」
 ばんは生まれつき心霊の類に強かった。霊力のある祖父には神仏の加護が厚い、一千年に一度の恵まれた子供だと言われて育った。幼稚園児の時分には狐狸に騙されるどころか一群従えて帰ったことがある。触れるものは浄められ不浄を寄せつけなくなるため、毎年冬には祖父手製の怪しい札を延々触るだけの手伝いをさせられていた。魍魎の類は寄せ付けないことで評判の青年が、夢伝いに感覚共有まで許したのである。事態は深刻だ。どう考えてもこちらの旗色が悪かった。
 兄のとりなしで、二人はその日のうちに県外山中に位置する廃寺へ移された。辺り一帯糞緑、文明のぶの字も出てこない正真正銘の山奥である。……ここで、一週間をかけた禊ぎが行われることになった。
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