さるのゆめ

トマトふぁ之助

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ゆめのいり

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 Aさんが部屋に駆け込んできたのは、ある夏の日のことだった。

 「何とかしてくれよ、お前寺の息子だろ!?」
 Aさんは小学校からの幼馴染である。地方を離れ大学に進学したBさんは、初めての一人暮らしを満喫していた。家賃二万円台の激安アパートは狭い。四畳半にちゃぶ台がわりの段ボールを挟んで、二人は額を突き合わせた。
 「具体的にどうしろってんだよ」
 「わかってんだろぉ!!オハライしてくれよ!!」
 幽霊に取り憑かれたと主張するAさんの話を、最初Bさんは半信半疑で聞いていた。こいつのオカルト好きと思い込みの激しさは一級品だ。Aさんは大学で民俗学を専攻しており、講義そっちのけで怪しい民間伝承を現地調査しに回るのが趣味の変わり者だった。
 「最近寝られねえんだよ……」
 「またどっか心霊スポット巡りでも行ったんだろ。怖くて眠れないって、小学生かよ」
 「違うんだよぉ……!!ゆめ、そう、夢に見るんだよ……。怪物が出てくる夢……」
 ここ一週間続けて同じ夢を見るそうだ。
 夢の中で、Aさんはカラオケボックスにいる。流行りのポップスを気持ちよく歌っているところから夢が始まるらしい。
 「絶対サビを歌い終えたとこなんだよ……」
 薄暗い個室。大きな液晶画面に曲の曖昧なイメージ映像。ガラス張りのドアの向こうから、ずる、ずる、と巨体を引きずる音がするという。
 「初めての晩はさ。まだ遠かったんだよ。俺の個室、廊下の一番奥っぽいんだよね。前に駅前のカラオケ一緒に行っただろ?あんな間取りでさあ、店の入り口から長い廊下が続いてて、スペース限界までずうっと部屋が詰められてる感じ」
 話のカラオケ屋には覚えがあった。土地のある田舎のカラオケで、構造は横に長い。
 「入り口の方から何か入ってきたんだよ。でけえ図体してて、モップみたいな……体毛を引き摺ってるんだ」
 それは毎晩一部屋ずつ、廊下の奥へ進んでくる。
 正確には手前の部屋から順に扉を開けてまわっているのだという。
 「お前は奥の部屋にいるんだろ。なんでそんなことわかんだよ」
 「知らねえよそんなの!!ドアが開く音がやけにはっきり聞こえるんだ!!」
 建て付けの悪いガラス戸が開く音がすると、突然機材の調子が悪くなる。マイクは音を吸わず、テレビには砂嵐が流れ、……やがて勝手に曲の予約が入るのだという。テレビの画面には曲名だけが映る。
 「意味わかんねえタイトルの曲ばっか。いわしみずとか、ひゃくへいとか……。しかも音楽なし」
 「なしって、それ曲じゃねえじゃん」
 「うん。なんか……なんかさ、伴奏なしで、歌も流れてこねえの。……え、AVの音源だけ流してるんだと思う」
 「はァ!?」
 「……だからぁ、スピーカーからセックスの音がすんだよ!!」
 しかも男同士の。Aさんは赤くなったり青くなったり、もごもごと説明しずらそうに居住まいを正した。七夜続けて強姦もの。襲われている者の声は毎日すげ変わるが、喘ぎ声は全員男のものだそうだ。この時間が始まると、Aさんは席から立つこともできなくなり、翌朝まで生々しい交接音を聞く羽目になる。体が全く動かせなくなるのだそうだ。本当に理由はなく、直感的に、カラオケ客が一人ずつ犯されているイメージが頭に入ってくるのだという。狭い個室に押入られ、巨大な異形に犯される客の姿が。
 きのう、ついに二つ隣まで来た。Aさんは怯えて泣いていた。
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