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第一章

怪しい村2

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「さあね。普通の村なら排他的でも通り過ぎるだけなら手を出してくることはないと思うけど……」

 逆に排他的なら早く出ていってほしいと思うはずだ。
 気にしても仕方ないので男性神官に困り事や手伝えることはないかと尋ねると教会の掃除を手伝ってほしいというので教会の掃除をする。

 テシアが教会前の掃き掃除をしていると視線が突き刺さる。
 窓から見られていて、テシアが視線を向けると隠れてしまう。

 何をそんなに警戒しているのか。
 以前にテシアがあのような視線を向けられた時は小さな村ぐるみで犯罪を犯していた時だった。

 違法な薬の原材料となる植物をこっそりと育てていてそれがバレることを恐れた村人たちが異常なまでに警戒をあらわにしていた。
 その時の雰囲気に似ていると思ったのである。

「テシアさん」

「ああ、キリアン。宿はどうだ?」

 もしかしたら危険なことでもしているのかもしれない。
 さっさと掃除を終えて部屋に篭っていようと思ってたらキリアンがやってきた。

 村の雰囲気に気づいているのかいないのかキリアンの様子はいつもと変わらない。

「宿は狭いけど綺麗にしてあるから居心地は悪くないです。変わらず巡礼のための善行ですか?」

「そうだよ。無償で泊めてもらうお礼みたいなものだけどね」

「明日もまた朝から出発ですか?」

「そのつもりだよ。遅れたら君のことは待たずに出発するからね」

「ははっ……手厳しいですね」

 形としてはキリアンが勝手についてきていることになっている。
 テシアとハニアスがわざわざキリアンを待つ理由がないのは当然のことである。

「……この村、様子がおかしくないか?」

 キリアンが村の異常さを分かっているのか気になって尋ねてみる。

「村のですか?」

 キリアンが振り向いた時には窓から覗いていた人は姿を隠している。

「まあ多少冷たいような感じはありますが外から来た人を警戒しているのでしょう」

 キリアンも少し村人の視線が気になったけれど知らない余所者を警戒しているだけだろうと笑う。

「……そうかい」

「ああ、手伝いますよ!」

 キリアンが壁に立てかけてあったちりとりを持ってくる。

「ありがとう」

「いえ、これぐらいまだまだ恩返しにはなりません」

 恩返しなどいらないというのに律儀なことである。

「あとはお祈りをするぐらいだよ」

「では俺もお祈りを」

「キリアンも神を信じているのか?」

「もちろんです」

 そう言う割にお祈りをしている様子を見たことがない。

「もちろん神官様ほどではないです。ですが教会があればお祈りするぐらいはしますよ」

「なるほど」

 教会でのみお祈りをするという人も一定数いる。
 毎日ではなく週末だけお祈りするという人ももちろんいる。

 テシアはどうお祈りしてもいいだろうと思っているのでキリアンがそういった人なのだなとすぐに納得した。

「けれどテシアさんとハニアスさんも普段はお祈りをして……」

「しているよ」

「いつですか?」

 キリアンは旅の様子を思い出してみる。
 テシアとハニアスがお祈りしている様子を見たことがない。

 けれどテシアはしていると言う。
 野宿をしている時には小さいテントを立てているのでその中でしているのかなと思った。

「しているではありませんか、腕立て伏せ」

「えっ?」

 肉体派は健やかな信仰は健やかな肉体から生まれると考える。
 つまり体を鍛えるということは健やかな信仰のためであり、言ってしまえばお祈りのようなものなのである。

 テシアもハニアスも肉体派である。
 日々のトレーニングは欠かさない。

 そして日々のトレーニングがお祈りなのだ。

「ま、まさかあれがお祈りなんですか?」

「その通り」

「そんな……」

「君は人のお祈りに文句をつけるのかい?」

「そういうことではありませんが……」

 お祈りの形が予想外すぎてキリアンは言葉を失う。

「まあ今はちゃんとお祈りするさ」

「そうですか……」

 流石にこんなところでトレーニングお祈りはしない。
 主神たる女神像の前で膝をついてテシアは祈りを捧げる。

 キリアンはテシアよりも簡易的に立ったままだったが大切なのは気持ちである。

「何にしても……この村の人には気をつけておいた方がいい」

「他でもないテシアさんのご忠告です。気に留めておきます」

 お祈りが終わった。
 余計な忠告かもしれないが、何もないのなら単なる思い過ごしだったというだけでいいのだ。

 テシアの声は真剣だった。
 キリアンはテシアの忠告に頷いて宿に戻っていった。
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