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第五章
売られるリュード1
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「ここはどこだ……?」
頭がぼんやりとする。
思い切り頭から水でも被りたい気分だとリュードは思った。
リュードが目覚めたらそこは知らない場所だった。
「目が覚めましたか?」
「あんたは?」
「私はトーイと申します。あなたも攫われたんですね」
「攫われ……た?」
「ええ、ここは人攫いの連中のアジトのようです」
「どういうことだ……ん? ……チッ」
起きあがろうとして気がついた。
手が後ろで縛られている。
荒めの縄でギチギチに縛られていて全く動かせる余裕もない。
リュードは運動神経もいいので手が使えなくともなんとか上体を起こすことができた。
ブンブンと頭を振り、思考をはっきりとさせる。
周りの様子を確認する。
四方のうち三方は壁。
残る一方には壁の代わりに鉄格子が嵌め込まれている古典的な牢屋の作りである。
牢屋の中には複数人の男性がいた。
およそ十人ほどがいてみな手を縛られていて、何故なのか全員が上半身裸にされている。
視線を下げるとリュードも上の服を脱がされていた。
こうなる経緯を思い出そうとしてみるけどこうなる前の記憶は朧げでぼんやりとしてうまく思い出せない。
必死に思い出そうとしても全然ダメ。
そういえば遠くから歪んだ女性の声が聞こえてきたような気がする。
細かいことは思い出せないが、頭のぼんやりした感じと違って頭の後ろがズキリと痛んだ。
頭を打ち付けたのかと思ったけどそれにしては位置がかなり上のところが痛い。
殴られたのだなと察した。
「ここは人攫いのアジトって言ったよな? ちょっとどういうことなのか分からなくて説明してもらっていいか?」
時間が経つにつれて頭ははっきりしてくるけれど記憶はぼんやりしたままだ。
「……申し訳ないですが私たちにもよく分からないんです。おそらくですがここ最近話題になりつつある人攫いに攫われたのだろうというのがみんなで導き出した答えです」
「そんな話チラッと聞いたな……」
いつだかお店の人に警告されたことを思い出す。
顔の良い男を狙った人攫いがいるなんて話を聞いた覚えがあった。
「この国は他の国とは違うことご存知でしょう? 中には男性を奴隷として所有している貴族もいたり、そうした貴族に男性を斡旋する人もいるのです」
非常に残念なことではあるが人身売買や奴隷などの暗くて重たい闇の話はこの世界に存在している。
真魔大戦によって世界の秩序は大いに乱れた。
戦争の時代では真人族が魔人族を、魔人族が真人族を奴隷としていたのだが、戦争が終わってそれぞれ奴隷としていたものが解放されたが奴隷という文化そのものは消えはしなかった。
長い時が経って落ち着きを取り戻してきた今では奴隷を完全に禁止する国もあるのだけれど、禁止する国があっても世界がそれにすぐに追従するものでもない。
そしてこの国では女性貴族による男性奴隷というものが半ば黙認されているのであった。
「ですがこの国でも人攫いなんてなかったのですけどね……どうしてこんなことになったのか、私たちにも分かりません」
トーイが首を振る。
奴隷が黙認されていても人攫いがいるなんて話は聞いたことがなかった。
ここ最近になっていきなり出てきた話でトゥジュームが長いトーイでも不思議でならなかった。
一般的な奴隷といえば人攫いにあって奴隷になるのでなくて借金などで首が回らなくなって破産した人が借金の方として奴隷に身を落とす。
奴隷商人が借金を引き受ける代わりに奴隷として相手も引き受けて、労働力としたりして借金の返済をしてもらう奴隷が普通な話である。
つまりは合法的な奴隷が現代における奴隷で、悪くイメージされる全く人権もない奴隷は今時多くある話じゃないのだ。
人攫いによる奴隷は違法な奴隷となる。
まして同じ国内で奴隷となる人を捕らえて売り買いするなんてとんでもないことであった。
「……ここがどこかは分かるか?」
「いえ……気づいたらもうこの牢屋でしたので。脱出するつもりですか? それも難しいですよ」
「なぜだ?」
「これのせいですよ」
トーイはアゴをしゃくるように首を見せる。
首には白くて太い首輪が付けてある。
見ると全員に同じ首輪が付けてある。
リュードも見えないけれど肩を動かしてみると首輪が付いていることが分かった。
「……これは?」
「どうやら魔法を封じる魔道具のようです。一応ここにも魔法を使える人がいるんですが全く使えなくなってしまっていて、多分この首輪のせいです」
「……マジかよ」
体の中に魔力はある。
リュードは目をつぶって魔力を動かしてみるけれど一切の魔力が体の外に出ない。
魔力が体の外に出ないということは魔法が使えないということ。
魔力が放出できないという体感したことない感覚にリュードは困惑する。
「魔法を使えなくする魔道具なんて真魔大戦の頃の技術で魔道具なんて安物ではないはずなんですけどね……全員に付けられているなんてことを考えるとただの人攫いではないかもしれないです」
後ろ手に縛られた縄ぐらいは協力でもすれば解くことはできるけれど、剣も何もない今魔法が使えないと逃げ出すことは難しい。
だから変に抵抗する意思を見せて不味いことになるぐらいなら大人しく従っている方が安全であるとみんな諦めていた。
死んだ目をして床に座り込んでいるのもそんな諦めからきた姿勢だった。
運良く逃げられたとしても場所もわからなければ先の見通しも立てられない。
「ほらお前たち、出番だよ!」
黒い布で顔を隠した女性が牢屋の前にやってきた。
手に持った棒で鉄格子を叩いて牢屋の中のみんなを威嚇して注意を集める。
トーイはビクついているがリュードはそんな脅しで恐怖を感じはしない。
「大人しく並んで出てくるんだ!」
鉄格子の扉を開けて、また鉄格子を叩いて出てくるように命令する。
捕らえられた男たちはみな不安そうに視線を合わせて誰かが先に行かないかと様子を伺っている。
頭がぼんやりとする。
思い切り頭から水でも被りたい気分だとリュードは思った。
リュードが目覚めたらそこは知らない場所だった。
「目が覚めましたか?」
「あんたは?」
「私はトーイと申します。あなたも攫われたんですね」
「攫われ……た?」
「ええ、ここは人攫いの連中のアジトのようです」
「どういうことだ……ん? ……チッ」
起きあがろうとして気がついた。
手が後ろで縛られている。
荒めの縄でギチギチに縛られていて全く動かせる余裕もない。
リュードは運動神経もいいので手が使えなくともなんとか上体を起こすことができた。
ブンブンと頭を振り、思考をはっきりとさせる。
周りの様子を確認する。
四方のうち三方は壁。
残る一方には壁の代わりに鉄格子が嵌め込まれている古典的な牢屋の作りである。
牢屋の中には複数人の男性がいた。
およそ十人ほどがいてみな手を縛られていて、何故なのか全員が上半身裸にされている。
視線を下げるとリュードも上の服を脱がされていた。
こうなる経緯を思い出そうとしてみるけどこうなる前の記憶は朧げでぼんやりとしてうまく思い出せない。
必死に思い出そうとしても全然ダメ。
そういえば遠くから歪んだ女性の声が聞こえてきたような気がする。
細かいことは思い出せないが、頭のぼんやりした感じと違って頭の後ろがズキリと痛んだ。
頭を打ち付けたのかと思ったけどそれにしては位置がかなり上のところが痛い。
殴られたのだなと察した。
「ここは人攫いのアジトって言ったよな? ちょっとどういうことなのか分からなくて説明してもらっていいか?」
時間が経つにつれて頭ははっきりしてくるけれど記憶はぼんやりしたままだ。
「……申し訳ないですが私たちにもよく分からないんです。おそらくですがここ最近話題になりつつある人攫いに攫われたのだろうというのがみんなで導き出した答えです」
「そんな話チラッと聞いたな……」
いつだかお店の人に警告されたことを思い出す。
顔の良い男を狙った人攫いがいるなんて話を聞いた覚えがあった。
「この国は他の国とは違うことご存知でしょう? 中には男性を奴隷として所有している貴族もいたり、そうした貴族に男性を斡旋する人もいるのです」
非常に残念なことではあるが人身売買や奴隷などの暗くて重たい闇の話はこの世界に存在している。
真魔大戦によって世界の秩序は大いに乱れた。
戦争の時代では真人族が魔人族を、魔人族が真人族を奴隷としていたのだが、戦争が終わってそれぞれ奴隷としていたものが解放されたが奴隷という文化そのものは消えはしなかった。
長い時が経って落ち着きを取り戻してきた今では奴隷を完全に禁止する国もあるのだけれど、禁止する国があっても世界がそれにすぐに追従するものでもない。
そしてこの国では女性貴族による男性奴隷というものが半ば黙認されているのであった。
「ですがこの国でも人攫いなんてなかったのですけどね……どうしてこんなことになったのか、私たちにも分かりません」
トーイが首を振る。
奴隷が黙認されていても人攫いがいるなんて話は聞いたことがなかった。
ここ最近になっていきなり出てきた話でトゥジュームが長いトーイでも不思議でならなかった。
一般的な奴隷といえば人攫いにあって奴隷になるのでなくて借金などで首が回らなくなって破産した人が借金の方として奴隷に身を落とす。
奴隷商人が借金を引き受ける代わりに奴隷として相手も引き受けて、労働力としたりして借金の返済をしてもらう奴隷が普通な話である。
つまりは合法的な奴隷が現代における奴隷で、悪くイメージされる全く人権もない奴隷は今時多くある話じゃないのだ。
人攫いによる奴隷は違法な奴隷となる。
まして同じ国内で奴隷となる人を捕らえて売り買いするなんてとんでもないことであった。
「……ここがどこかは分かるか?」
「いえ……気づいたらもうこの牢屋でしたので。脱出するつもりですか? それも難しいですよ」
「なぜだ?」
「これのせいですよ」
トーイはアゴをしゃくるように首を見せる。
首には白くて太い首輪が付けてある。
見ると全員に同じ首輪が付けてある。
リュードも見えないけれど肩を動かしてみると首輪が付いていることが分かった。
「……これは?」
「どうやら魔法を封じる魔道具のようです。一応ここにも魔法を使える人がいるんですが全く使えなくなってしまっていて、多分この首輪のせいです」
「……マジかよ」
体の中に魔力はある。
リュードは目をつぶって魔力を動かしてみるけれど一切の魔力が体の外に出ない。
魔力が体の外に出ないということは魔法が使えないということ。
魔力が放出できないという体感したことない感覚にリュードは困惑する。
「魔法を使えなくする魔道具なんて真魔大戦の頃の技術で魔道具なんて安物ではないはずなんですけどね……全員に付けられているなんてことを考えるとただの人攫いではないかもしれないです」
後ろ手に縛られた縄ぐらいは協力でもすれば解くことはできるけれど、剣も何もない今魔法が使えないと逃げ出すことは難しい。
だから変に抵抗する意思を見せて不味いことになるぐらいなら大人しく従っている方が安全であるとみんな諦めていた。
死んだ目をして床に座り込んでいるのもそんな諦めからきた姿勢だった。
運良く逃げられたとしても場所もわからなければ先の見通しも立てられない。
「ほらお前たち、出番だよ!」
黒い布で顔を隠した女性が牢屋の前にやってきた。
手に持った棒で鉄格子を叩いて牢屋の中のみんなを威嚇して注意を集める。
トーイはビクついているがリュードはそんな脅しで恐怖を感じはしない。
「大人しく並んで出てくるんだ!」
鉄格子の扉を開けて、また鉄格子を叩いて出てくるように命令する。
捕らえられた男たちはみな不安そうに視線を合わせて誰かが先に行かないかと様子を伺っている。
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