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第四章

初めての飲血3

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 ということでラストが飲んでいる血はリュードの血なのである。
 リュードは寝て少しは回復したけどまだ血液が全部回復しきってない感がある。

「ぷはぁ~!」

 カップいっぱいの血を一息に飲み干したラストはキラキラとした笑顔を浮かべている。

「これは……なんていうか……胸がカーって熱くなって」

 そして非常に甘美な味をしていた。
 若く、健康体で魔力も多いリュードの血は世界中を探しても間違いなくトップクラスの血だろう。
 
 飲んだ瞬間から体が熱くなっていき、まるで体にリュードの血が染み込んでいくようだとラストは感じた。
 これまで生きてきて感じたことがない新たな感覚が頭の芯を殴っているよう。
 
 血を飲んでこなかった今までの自分が鈍かったかのように思えてきた。
 感覚が研ぎ澄まされて、気分が高揚する。
 
 体の中からカッカと熱くなってきてラストの瞳が赤みを増す。
 ラストがうっとりとした表情で空になったカップを見つめていると料理が運ばれてくる。

「今日は無礼講だ。好きに飲み食いするが良い!」

 血人族が大好きなのは血が滴るようなレアステーキがみんなの前に置かれた。
 リュードも血を作るために肉を食う。

 流石は王族の用意する食事は質がいい。
 レア加減も絶妙なステーキは絶品で、リュードはこっそりと料理人にミノタウロスの肉も渡して焼いてもらった。

 貧血の気だるさも忘れてひたすらに肉を食べていた。

「ねぇ、リュードぉ」

 フードファイトでもしているのかの如く肉を食い、それに応じて運ばれてくる。
 思う存分に肉を食べるリュードの横にラストが椅子を持ってきて座り、リュードの肩にしなだれかかる。

 普段はしないような甘えた声を出している。

「ラスト? なんだか目が……」

 リュードが目を向けるとトロンとしたラストの目と視線が合う。
 酔っ払っているはずがないとは思うが酔っ払っているように見えた。

 ラストは二杯目以降はぶどうジュースで一杯目は血だった。
 酔うような要素がない。

「リュードぉ、私ね、頑張ったと思うの」

 ラストはリュードの肩に頭を乗せたまま甘えた声で囁きかける。
 
「ご褒美があってもいいと思わない?」

「そうだな、でも……」

「だからぁ~」

 血をあげただろ? と言う前にラストはリュードの頬に手を伸ばして、無理矢理自分の方に顔を向けさせた。

「ちゅー、しよ?」

「ら、ラス……ラスト!?」

 リュードも動揺を隠せない。
 ラストは据わった目を閉じでリュードの唇に自分の唇を近づける。

「んに?」

 ラストの唇がリュードの唇に触れるほんの僅かな間に反応したのはヴァンだった。
 ラストの唇に当たったのは細かい毛のような感触。

「……お父さんは許しませんよ!」

 好判断だったとリュードと思う。
 手を伸ばしても間に合わないと判断したヴァンは魔人化した。

 服を突き破って背中に生えた翼を広げてリュードとラストの間に差し込んだ。
 なかなかの力技でラストの口づけを止めたのだ。

「うわぁ! 何すんの!」

 父親の翼にキスしてしまった。
 ラストは怪訝そうな顔をして口を拭う。

 そんな様子に傷つくヴァンだが娘の唇を守ることには成功した。
 次にラストは布を水で濡らして口を拭く。
 
 そこまで嫌だったかとヴァンがしょぼんとする。

「ラスト、何してるの!」

 とんでもないことをしようとしたラストにルフォンが怒る。

「いいところだったのに、お父さんったら」

 キスぐらいさせてあげればよかったのにとレストはため息をついた。

「何怒ってるの~?」

 フラっとラストはルフォンに近づいた。

「んー……ルフォンもちゅーする?」

「えっ?」

「えーい!」

「わわっ!」

「えへへっ」

 相変わらず異常な目をしたラストはルフォンに飛びついた。
 首に手を回して抱きついたラストはルフォンの頬に唇を当てた。

「へへっ、ちゅ!」

 ラストはちょっとだけ照れ臭そうに笑いながらまたルフォンの頬にキスをする。
 突然のことに怒り顔だったルフォンも顔を赤くする。

「もっと、ちゅー」

「く、口はダメだよ!」

 思いがけないラストの行動にルフォンはたじたじになってしまう。
 ルフォンは今度は口にキスをしようとするラストの顔を押さえて抵抗する。

「こらこら、ラスト。そんなことしちゃ……」

「クゼナ! ああ、治ってよかった!」

 このままではルフォンの唇が奪われてしまう。
 クゼナがラストを止めようと肩に手をかけた。

 パッと振り返ったラストはクゼナを見て満面の笑顔を浮かべる。
 今度のターゲットはクゼナだった。

 王城で再び治療を受けたクゼナは石化部分が足先まで縮小して歩けるまでになっていた。
 ただまだ病み上がりのクゼナはリュードの血でパワーアップしたラストに敵うはずもなく、地面に押し倒されてラストに顔中キスされる。

「これはこれは……」

「相手が男じゃなきゃ微笑ましいな」

「ちょ、誰か助けて!」

 オヤジたちはリュードがキスされそうになっていた時とは違って微笑ましく様子を伺っている。

「こーら、ラスト、クゼナが困ってるでしょ」

「あっ、お姉ちゃん、えいっ!」

「はいはい、良い子ね」

 困り果てるクゼナを助けにレストが割り込む。
 ラストはレストに抱きつくが大人の余裕でレストはラストの頭を優しく撫でた。

「えへへっ、ちゅっ!」

 嬉しくなってラストはレストの頬に優しくキスを返す。

「いつもありがとうお姉ちゃん。感謝してるし大好きだよ。みんなも、たくさんたくさんありがとう。みんなもすごく大好きだよ!」

「ラスト……」

 ラストはネコのようにすりすりとレストに甘える。
 大人になったとはいえ、まだラストだって甘えたいところがある。

 ラストが物心つく時に母親が死んでしまったのでラストは甘えたくてもそうできる相手がいなかった。
 今日ばかりは無事に助け出せたレストに甘えてもバチは当たらない。

「お部屋に行きましょ。このままじゃラストの唇が腫れてしまうわ」

「うん、分かった」

 流石にレストはラストの扱いに慣れている。
 サラッとラストを連れてレストは部屋を後にした。

「俺にキスはなしなのか?」

「私にもありませんでしたね」

 ラストのキスの対象にならなくてひっそりとダメージを受けるヴァンとヴィッツのオヤジたち。
 ひょんなことから主役もいなくなってしまった。

 最後にちょっとしたデザートを食べてラストのお祝いの食事会はお開きとなった。
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