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第四章

卑怯者の孤立7

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「シネッ!」

 魔人化したベギーオが狙ったのはレストだった。
 この期に及んでベギーオは卑劣な考えを持ち、ラストに少しでも傷を負わせることを目的としてレストを狙ったのだ。

「レスト、下がっていろ!」

 バロワはレストを押し退けて前に出る。
 ベギーオとバロワの剣がぶつかる。

「くっ!」

「邪魔だ!」

 バロワの大きな剣が飛んでいく。
 ベギーオにバロワが完全に力負けした。

 バロワは大剣を扱うだけあって体つきも良くかなり力も強い。
 それなのに魔人化した全力のベギーオにバロワは敵わなかったのだ。

「させません!」

 なんとかバロワが足止めしたベギーオに後ろからコルトンが切りかかる。

「貴様もよくも邪魔をしてくれたな!」

「なんですと……」

 コルトンの目が驚きに見開かられる。
 振り返り様に剣を振ったベギーオはコルトンの剣をへし折った。

 命すら燃やすほどの勢いで魔力を剣に込めていた。
 剣の技量など関係なくなるぐらいの魔力がベギーオから溢れ出していた。

 ベギーオの蹴りが腹に入り骨が鈍い音を立て、コルトンは後ろに真っ直ぐ飛んでいく。
 2人がかりでも相手にならないとバロワは焦りの表情を浮かべる。
 
 鼻血を流し始めたベギーオは再びレストに視線を向けた。

「それだけはさせない!」

 ベギーオはバロワにもコルトンにもとどめを刺すつもりがなく、レストだけを執拗に狙っている。
 迫るベギーオから守ろうとバロワがレストに覆いかぶさる。

「しねぇ!」

「やめろぉ!」

 ベギーオの剣がバロワの肩に触れるのとリュードの剣がベギーオの腹に刺さるのは同時だった。
 リュードは力を込めてベギーオをそのまま押し返す。

 バロワとコルトンがやられたのを見てリュードは先にベギーオを倒さねばならないと思った。
 状況もわからないので参戦していなかったモノランにリュードの抜けた穴を埋めてもらい、リュードはバロワの方に加勢に駆けつけた。

「卑怯者が!」

 リュードは剣を引き抜いてベギーオを切りつける。
 ベギーオは口から血を流しながらリュードの剣を弾き返した。

 しかし動いたせいか咳き込むようにして口から血を吐き出す。

「終わりだ!」

 ここで押し切らねばと振り下ろした剣を返してそのまま振り上げに移る。

「はぁ……腕が…………」

 今度は防ぐこともできずにリュードの剣がベギーオの腕を切り裂いた。
 ひどく興奮状態にあったベギーオは痛みを感じていなかった。
 
 自分の剣を持った腕が飛んでいく様がスローモーションのように見えていた。
 さらに追撃を止めずリュードが剣を振って、肩口から腰まで斜めに自分の体が切り裂かれる様子すらもベギーオは認識していた。

 ただ、ベギーオの体は動かなかった。

「ガハッ……!」

 胸が大きく切られて、再び喉から血が上がってきてドバッと吐き出してしまう。
 時間の流れが元に戻り、腹に穴が空き、腕が無くなり、体が袈裟斬りにされた痛みが一斉に感じられてどこが痛いのかすら分からなくなる。

「リュード!」

 ラストたちが駆け寄ってくる。
 モノランが参戦して、容赦のない攻撃にラストたちの方も片付いていた。

「バロワ!」

 レストの代わりにベギーオの剣を受けることになったバロワの顔色は悪い。
 リュードがバロワを押し返したので大事には至らなかったが肩口の切り傷は思ったよりも深くて出血がひどい。

「ルフォン、ポーションを!」

「分かった!」

 レストに抱きかかえられるバロワはぐったりとして動かない。

「レスト、これを飲ませろ」

 取り出したポーションの一本をレストに渡して口から飲ませる。
 リュードはもう一本のポーションをバロワの肩に直接振りかける。

「ぐっ……」

 バロワは傷口にポーションをかけられて痛みに顔を歪める。
 ポーションも使ったし傷を放っておかなきゃ死ぬまではいかないだろうとリュードは傷口を見ながら思った。

「おい、なんでこんなことをした」

 地面に倒れたまま浅い呼吸を繰り返すベギーオにリュードが詰め寄る。

「俺は……王になるはずだった。そう言われた……そうなるはずだったのに……どうしてですか、どうして助けに……」

 ベギーオの目は虚ろで満点の星空をぼんやりと眺めている。
 リュードの言葉にも反応を示さずぶつぶつと独り言を呟き、少しずつベギーオの目から光が消えていく。

「何故ですか……俺は…………王に…………」

「ええと?」

 とりあえず派手に登場して、とりあえず言われたままに戦った。
 状況がいまだに分かっていないモノランは首を傾げている。

「大丈夫だ、モノラン。俺たちもよく分かってないから」

 従う部下はいたようだけど信頼していた右腕は実はコルトンで、味方だと思っていたバロワは裏切った。
 王に最も近かった男は瞬く間に転がり落ちた。

 なんだかまだ黒幕がいそうなことをベギーオは呟いていた。
 どうにも釈然としない、そんな印象をリュードに抱かせてベギーオの目からは完全に光が失われたのであった。
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