219 / 331
第四章
毒草を探せ!5
しおりを挟む
「終わりだよ」
クモが怯んだ隙にルフォンは後ろに回り込んでいた。
ナイフをクモの腹に突き立てると一気に引いて、大きく切り裂く。
緑色の血が飛び散ってルフォンの頬にかかるが構わずナイフをしっかりと引ききった。
「流石でございます」
最後の最後まで油断は禁物。
瀕死の状態であるがまだクモは死んでいない。
ヴィッツは炎をまとう剣を大きく振り上げると一息にクモを真っ二つに両断した。
「ひぃぃ……アイツら何者だよ……」
これまでクモを怒らせないようにしてきた山賊のリーダーはひたすらに怯えていた。
勝てない相手、勝てても被害が大きそうだから手を出してこなかったのにルフォンとヴィッツは2人で簡単にクモを倒してしまった。
あれなら洞窟の中でも良かったのではないかと思うけれど、溶解液がイェミェンに落ちれば狭い洞窟の中では毒が発生するかもしれなかったので結果的にも外に出て正解だった。
山賊のリーダーは機会を伺って逃げようと思っていたのにそんな時間も隙もなかった。
あんな相手に戦いを挑んでいたのだと思うと背筋が冷たくなる。
敵わないのも当然だと己の愚かさを痛感する。
「さてと話の続きとまいりましょうか」
クモの死体も持っていけば冒険者ギルドで買い取ってくれそうだけど今はそんなことしていられない。
クモの魔石だけを取ってヴィッツが死体を燃やして山賊のリーダーに向き直る。
「お、俺の命を助けてくださいますか?」
山賊のリーダーはもはや抵抗は無駄だと悟り、地面に平伏する。
「正直に話せば考えましょう」
「こ、ここを管理しているのは大領主だ! 俺たちはたまたまここを見つけて、毒草だなんて知らなかったんだが大領主がここを管理するなら犯罪行為は見逃してやるって……」
「大領主とはサキュロプジャン様のことですか?」
「そ、そうだ!」
予想通りすぎて何の感想も浮かんでこないとヴィッツは小さくため息を漏らした。
ここら一帯はダンジョンが近い。
ということはちゃんと領主が管理している可能性が高い。
なのに山賊がいて、毒草を育てているなんておかしな話であると分かっていた。
こんなお粗末な山賊がバレずに活動できるはずがない。
ましてイェミェンのような特殊な毒草を育てているなんて話はまずあり得ない。
そうなると何かしらの後ろ盾があることは簡単に推測できた。
こんなことをできる後ろ盾も限られているので導き出せる答えとしてはここを管理している領主であるプジャンが関わっていることである。
「こんなことになっちまったことがバレたら俺も消される。お前らの目的はあの毒草なんだろ? じゃあもう目的は果たされたんだから俺もずらかってもいいよな?」
「好きになさい。もう2度とこんなことしないのがあなたの身のためですよ」
「あ、ありがてぇ! 足を洗って真っ当に生きることにするよ!」
本当に足を洗うなんてこと信じられたものではない。
けれども今はこの山賊のリーダーを連れて行って突き出す時間がないから逃すのである。
ぺこぺこと頭を下げて山賊のリーダーは逃げていく。
ギリギリまで切り捨てるか迷ったけれど案内もしてくれたし一度だけチャンスを与えることにした。
「もっと山の中を駆けずり回ることになるかと思いましたが早めに用が済みましたね」
「見つかってよかったね」
「量は確保しましたし……」
ヴィッツは洞窟の入り口から火の魔法を中に放つ。
イェミェンに火がついて燃え広がっていく。
「プジャン様が関わっているならあまり良いことでもないでしょうからそのままにはしておけません。煙を吸い込んでは危険なので行きましょうか」
「これで薬の材料は揃いそう?」
「あとはすぐに使わなければいけないものを除いて準備はできております。すぐに使わねばいけないものも入手は難しくないので揃ったも同然でございます」
「やった! これでクゼナちゃんを助けられるね!」
「……ありがとうございます」
「なにが?」
「領主様やクゼナ様を助けようとしてくださいましてでございます」
「友達だからね」
「言うほど友達だからで他人を救おうとしてくれる人はいないものなのですよ」
「でもいるにはいるでしょ? 私とリューちゃんはね、友達なら全力で助けるの!」
「そのようには存じております。けれどやはりそうであってもありがたいことはありがたいのです。この私に出来ることはルフォン様に感謝致すことぐらいですので、言わせてください。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
ヴィッツはこれまで神に祈ったことが一度もない。
血人族の神にもその他大勢の神のどれにもである。
祈ったり、あるいは感謝を捧げることで何かが変わることなんてないのだと思っていた。
けれどもルフォンやリュードとの出会いはまさしく神の導きであるとヴィッツにも思えた。
2人にも感謝をするのだけれどラストに良い出会いをもたらしてくれたことは幸運とだけで片付けるにはあまりにも運が良すぎる。
初めてヴィッツもラストが熱心に祈っていた血人族の神様に感謝をしたのであった。
クモが怯んだ隙にルフォンは後ろに回り込んでいた。
ナイフをクモの腹に突き立てると一気に引いて、大きく切り裂く。
緑色の血が飛び散ってルフォンの頬にかかるが構わずナイフをしっかりと引ききった。
「流石でございます」
最後の最後まで油断は禁物。
瀕死の状態であるがまだクモは死んでいない。
ヴィッツは炎をまとう剣を大きく振り上げると一息にクモを真っ二つに両断した。
「ひぃぃ……アイツら何者だよ……」
これまでクモを怒らせないようにしてきた山賊のリーダーはひたすらに怯えていた。
勝てない相手、勝てても被害が大きそうだから手を出してこなかったのにルフォンとヴィッツは2人で簡単にクモを倒してしまった。
あれなら洞窟の中でも良かったのではないかと思うけれど、溶解液がイェミェンに落ちれば狭い洞窟の中では毒が発生するかもしれなかったので結果的にも外に出て正解だった。
山賊のリーダーは機会を伺って逃げようと思っていたのにそんな時間も隙もなかった。
あんな相手に戦いを挑んでいたのだと思うと背筋が冷たくなる。
敵わないのも当然だと己の愚かさを痛感する。
「さてと話の続きとまいりましょうか」
クモの死体も持っていけば冒険者ギルドで買い取ってくれそうだけど今はそんなことしていられない。
クモの魔石だけを取ってヴィッツが死体を燃やして山賊のリーダーに向き直る。
「お、俺の命を助けてくださいますか?」
山賊のリーダーはもはや抵抗は無駄だと悟り、地面に平伏する。
「正直に話せば考えましょう」
「こ、ここを管理しているのは大領主だ! 俺たちはたまたまここを見つけて、毒草だなんて知らなかったんだが大領主がここを管理するなら犯罪行為は見逃してやるって……」
「大領主とはサキュロプジャン様のことですか?」
「そ、そうだ!」
予想通りすぎて何の感想も浮かんでこないとヴィッツは小さくため息を漏らした。
ここら一帯はダンジョンが近い。
ということはちゃんと領主が管理している可能性が高い。
なのに山賊がいて、毒草を育てているなんておかしな話であると分かっていた。
こんなお粗末な山賊がバレずに活動できるはずがない。
ましてイェミェンのような特殊な毒草を育てているなんて話はまずあり得ない。
そうなると何かしらの後ろ盾があることは簡単に推測できた。
こんなことをできる後ろ盾も限られているので導き出せる答えとしてはここを管理している領主であるプジャンが関わっていることである。
「こんなことになっちまったことがバレたら俺も消される。お前らの目的はあの毒草なんだろ? じゃあもう目的は果たされたんだから俺もずらかってもいいよな?」
「好きになさい。もう2度とこんなことしないのがあなたの身のためですよ」
「あ、ありがてぇ! 足を洗って真っ当に生きることにするよ!」
本当に足を洗うなんてこと信じられたものではない。
けれども今はこの山賊のリーダーを連れて行って突き出す時間がないから逃すのである。
ぺこぺこと頭を下げて山賊のリーダーは逃げていく。
ギリギリまで切り捨てるか迷ったけれど案内もしてくれたし一度だけチャンスを与えることにした。
「もっと山の中を駆けずり回ることになるかと思いましたが早めに用が済みましたね」
「見つかってよかったね」
「量は確保しましたし……」
ヴィッツは洞窟の入り口から火の魔法を中に放つ。
イェミェンに火がついて燃え広がっていく。
「プジャン様が関わっているならあまり良いことでもないでしょうからそのままにはしておけません。煙を吸い込んでは危険なので行きましょうか」
「これで薬の材料は揃いそう?」
「あとはすぐに使わなければいけないものを除いて準備はできております。すぐに使わねばいけないものも入手は難しくないので揃ったも同然でございます」
「やった! これでクゼナちゃんを助けられるね!」
「……ありがとうございます」
「なにが?」
「領主様やクゼナ様を助けようとしてくださいましてでございます」
「友達だからね」
「言うほど友達だからで他人を救おうとしてくれる人はいないものなのですよ」
「でもいるにはいるでしょ? 私とリューちゃんはね、友達なら全力で助けるの!」
「そのようには存じております。けれどやはりそうであってもありがたいことはありがたいのです。この私に出来ることはルフォン様に感謝致すことぐらいですので、言わせてください。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
ヴィッツはこれまで神に祈ったことが一度もない。
血人族の神にもその他大勢の神のどれにもである。
祈ったり、あるいは感謝を捧げることで何かが変わることなんてないのだと思っていた。
けれどもルフォンやリュードとの出会いはまさしく神の導きであるとヴィッツにも思えた。
2人にも感謝をするのだけれどラストに良い出会いをもたらしてくれたことは幸運とだけで片付けるにはあまりにも運が良すぎる。
初めてヴィッツもラストが熱心に祈っていた血人族の神様に感謝をしたのであった。
30
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる