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第四章

試練お手伝い交渉2

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「私が回るべきところは5ヶ所の予定」

 バーンと手を広げて突き出しで5を表現する。
 これが多いのか少ないのかリュードは知らなかったが、実は過去最高レベルの多さであった。
 
 そもそも大人の試練とは通過儀礼であってそんなにガチガチに審査するものじゃない。
 立場が上の人ほど厳しい試練を乗り越えなきゃいけないことはあるけれど、5ヶ所もやらなきゃいけないのは過去最高に並ぶ多さだった。
 
 他の兄姉でも多くても3つだったのにとレストはボヤいている。
 その上5ヶ所行くことしかサキュルラストには伝えられていない。

 試練の内容もまちまち。
 ダンジョン攻略なようなこともあれば簡単なお手伝いみたいなものまで幅が広い。

 一般の血人族なら強くない魔物退治みたいなものが多いのだがサキュルラストの場合はもしかしたらダンジョンが5ヶ所の可能性もあるし、魔物討伐を5ヶ所でやるような可能性もあった。
 ただダンジョンはあまり良い思い出がないとリュードは少し苦い顔をした。
 
 異常なボスやそこまでの過程でダンジョンに潰されかけたなんて苦い思い出がある。

「とりあえず1つめはダンジョンってことは聞いたわ」

「そうか……」

 リュードが経験したような出来事はダンジョンを専門にする冒険者だって一生で一度も遭わないようなことではある。
 もうあんな目に会うことはないと分かっていてもちょっとウッと思ってしまうのは仕方のないことだ。

「正直にいうと1つ目のダンジョンから難易度は高いらしいんだけど……」
 
 ウソはつかないと約束した。
 ダンジョンは国で管理しているものがほとんどなのでダンジョン名を教えてもらえれば調べることは難しくない。

「それは別に大丈夫だ」

 元より楽でないことは重々承知の上で受けた。
 最初から簡単だって言葉1つも出ていないので覚悟はしている。

「もう1つ聞いておきたいんだけど俺が手伝ったとして見返りはなんだ?」

 見返りを目的として手伝うなんてずるいことはしたくないが、後々で揉める可能性もあるなら決めておいた方がいい。
 他の奴のように権力や結婚を見返りとしているのではないから何か別のものを見返りとしたい。

 見返りって言うと印象が悪いからお礼かなと言った後に思った。

「み、見返りはだな……」

 サキュルラストの目が泳ぐ。
 何も考えていなかったことが丸わかりである。

 リュードたちが準備するのと同様にサキュルラストにも時間はあったのだから考えておくべきであった。

「わ、私のことを好きに……」

「いらん」

「い、いらんとはそれも失礼ではないか!」

「そういうことに興味がなさそうだから声をかけんだろ」

「はいはーい、じゃあ私が愛人に……」

「却下だ」

「じゃ、じゃあ私が嫁になって……」

「だからそういうのいらないって」

 嫁になるのも1つ目の提案の遠回しな言い換えみたいなもんじゃないかとリュードはため息をつく。

「むむぅ……流石に女性としてのプライドが傷つく」

「プライド持ってるなら自分を安売りするようなことはするなよ」

 現地妻を作るつもりなんてない。
 助けてやるから体を差し出せなんて、それを1番嫌がっていたのはサキュルラストやレストの方である。

 もっと貰って簡単に終われるようなものがいい。
 1番単純な例としては金になる。

「まさか、私たち姉妹2人をご所望?」

「違うわ!」

 どう考えたらそのような発想になるんだ。

「うぅー……何か欲しいものはあるの?」

 困り果てたサキュルラストが逆に聞き返す。
 そんなに困り果てるほどの提案などしてもいないのに。

「欲しいものがあるかと聞かれるとないな」

 考えてみるとリュードは今の状況に不満など特にないのだ。
 お金に不自由しておらず、便利な道具も父親のヴェルデガーのおかげで持っている。

 可愛い幼馴染とのんびり旅をして、神様から加護なんか貰ったりしてまだ強くもなれそうな感じまでする。
 何となく神様方の注目を集めてしまっている気がしないでもないけど、視線を感じるものでもないから気にしないでいれば大丈夫。

 強いていえば平和に旅したいぐらいだけど、何か刺激が無くてもそれはそれでつまらず、またリュードも困った人を放ってはおけない性分。
 サキュルラストに言ったところでなんとかなるってものでもない。

 あって困らないのはやはりお金になる。
 サキュルラストが出さそうなものを考えても大領主ならお金ぐらいだと思う。

 ただしこんなところで直接のお金が欲しいなんて言うのはマナーとしていかがなものか。
 品がない要求になってしまう。

 サキュルラストはサキュルラストでも考えていた。
 お礼にお金というのは当然サキュルラストでも思いつくものである。

 手助けにお金で報いるのはありがちな行為だけど一方でそれだとリュードのことをお金で雇うみたいで、サキュルラストとしても嫌だし失礼に当たるのではと考えた。
 互いが互いにお金を口に出すことがはばかられると思って言い出せない。

「……そうだな、じゃあ1つ頼まれてくれないか?」

 このままでは埒があかない。
 リュードはお金ではないお礼を考えて、いいアイデアが思い浮かんだ。

 腰に差した剣をスラリと抜くと執事がピクリと反応する。
 サキュルラストを切り付けるような素振りでもあったなら何かしらの行動もあったのだろうが、殺気も感じないので警戒しながらも流れに任せた。

 自分で掘り出してきた黒重鉄をふんだんに使った真っ黒な姿をした世界に1つだけのリュードの愛剣。
 教わった通りに手入れはしてきたので剣身はいまだに美しい。
 
 けれど綺麗に見えてもガタがきている部分もある可能性もある。
 そろそろ一度プロに見てもらい、必要ならメンテナンスをしてもらう必要があると考えていた。
 
 クラーケンと戦った時なんかは思いっきり海水に浸かってしまったし不安なところもある。

「これは黒重鉄っていう金属で出来るんだけどこの黒重鉄を扱っている鍛冶屋なんか探してくれないかな?」

 ここは魔人族の国である。
 真人族では黒重鉄を扱う人が少ないが魔人族の鍛冶屋なら黒重鉄を扱う人がいるかもしれない。

 個人で黒重鉄を扱う鍛冶屋を探すのはなかなか骨が折れる。
 聞いて回っていくにも黒重鉄を扱えますよなんて宣伝もしないだろうから知っている人も少ない。

 運に任せて探していてはいつ見つかるか分かったものではない。
 それならだ、人に探してもらえばいいのだ。

 我ながら冴えた提案だとリュードは思った。
 見つけられなくても探した実績があればお礼として成立するし見つかったら見つかったで武器の手入れが出来る。

 大領主なら鍛冶屋ぐらい探すこともわけがない。
 お金と言わない解決に自画自賛したい気分になる。

「えっと、それでいいのですか?」

 黒重鉄を扱っている人が少ないとは知らずにサキュルラストが首を傾げる。
 鍛冶屋を探すぐらいなんてことはないと考えているのだ。

「分かりました」

「そうねぇ、ヴィッツさん手配頼めるかしら?」

「かしこまりました」

 執事の名前はヴィッツだった。

「それで、いつ大人の試練は始めるんだ?」

「んー……そうだね、早ければ早いほどいいから…………今日!」
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