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第三章

変態的な別れ3

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 絶対に許すわけないと思ったのにヤノチとダカンを連れていくなんてスマートな気遣いまで覚えて。
 ただしそこに至るまでリュードの意見は一切関わっていない。
 
 こんなことをされては半ば強制的にやるしかないようなものではないか。
 ルフォンの心の内としてはエミナでも許しがたい行為であると思ってはいた。

『あなたは第一夫人なのよ、何にでも嫉妬を振り撒いちゃダメ。ちゃんとあの子の気があなたに向いてるなら他の子にもちょっとぐらいいい思いさせてあげるのが正妻の余裕ってやつよ』

 呪いの言葉。
 メーリエッヒの教えがルフォンの頭の中にこだました。

 先日リュードとキスをしたからルフォンはリュードとの関係に関して一歩先を行っていると心の余裕ができた。
 キスというか人工呼吸なのだけど口と口の接触に間違いはない。

 それと人工呼吸というものを知らないで見ていたエミナが言ったのだ。
 リュードの熱いキスによってルフォンは再び意識を取り戻したのだと。
 
 王子様のキスでお姫様が目覚めるなんてお話はこの世界でも定番の物語。
 特に本の虫であったヴェルデガーのところにはそんな絵本の類まであり、リュードが興味なかったので貸し出されて代わりにルフォンが読んだりもしていた。

 そんなイメージで話してしまい、ルフォンの中でもリュードのキスによって目覚めたのだとそういうことになっていた。
 行為の見た目上は間違ってない。

 わざわざあれは人工呼吸で、なんて説明するのもヤボなのでリュードとルフォンの初キッスは人工呼吸ではなく奇跡的な目覚めのキスというといことになった。
 ルフォンが幸せならそれでいいんだとリュードはそのままにした。

「これが正妻の余裕……」

 ゆえに抱き締めるくらいならとルフォンで胸の中の葛藤しながら許可を出した。
 エミナだからとギリギリ自分を納得させたのだ。

 3人が部屋を出て行ってしまい、エミナのご希望通りにするためにリュードは服を脱いだ。
 竜人化することを想定していないのでこのまま竜人化すると服が破けてしまうからである。

 こんなことで竜人化するなんて思ってもみなかったけれど大切な友達の頼みである。
 服を脱いで竜人化しながらリュードは考えた。

 どうしたらいい。
 ただの声をかけてもエミナがノコノコと顔を出してくるとは思えなかった。

 リュードだって恥ずかしいのだ。
 竜人化しているから違和感が少ないけれど今の格好は要するに半裸である。

 平穏無事な方法でエミナを誘き出す術が思いつかなかった。
 もう知らんとリュードは力技に出た。

 丸くなった布団をおもむろに引っ掴むと思いっきり上に引っ張り上げる。
 たまたまエミナが覗こうとしていたタイミングでもあって上手く布団を引き剥がすことができたのであった。

 また布団を与えると篭ってしまうので遠くに放り投げてエミナの方に向き直ると、エミナとリュードの目があった。
 腫れぼったい目が見開かれてリュードを上から下まで一巡する。

 エミナが大きく息を吸い込んでやばいと思ったリュードは咄嗟にエミナの口を塞いのであった。
 リュードがエミナに覆いかぶさるような体勢。
 
 倒れるのが怖くてエミナリュードの腕を掴んでいた。
 ゴツゴツとした鱗の感触、間近に感じるリュードの息づかい、逃げ場のない状況にエミナは完全にパニックに陥っていた。
 
 静かにするように言われたので叫びはしなかったけれど叫びたいぐらいの気持ちで、顔が火が出るほど真っ赤になっていた。

「落ち着いたか?」

 一見するとリュードがエミナに襲いかかっているようにも見える。
 全く落ち着かない、落ち着いていないけれどエミナはただコクコクとうなずいた。

 ゆっくりと触れないようにエミナの上からリュードは退ける。
 無言で手を差し出すとエミナがそっと握ってくるので上半身を起き上がらせる。

「ほれ、大人しくしてろ」

「えっ、ちべっ! むぐっ!」

 リュードはエミナの後頭部に手を回して、顔を濡れたタオルで拭いてやる。
 エミナが顔を泣き腫らしていると聞いていたので魔法で氷を作って氷水を持ってきていた。

 冷たい水にタオルをつけて固く絞るとそれでエミナの顔を拭いてやった。
 冷たさに驚いたのも一瞬ですぐにひんやりとしたタオルの冷たさが心地よく感じられた。

 火照った顔や腫れぼったい目の熱に冷たさが気持ち良い。
 優しくも力強く拭いてくれるリュードに身を任せる。

「ありがとうございます……」

 顔も気分もスッキリして、冷たさが正常な思考を取り戻してくれた。

「私、ご迷惑かけてばかりでしたよね?」

 思い返してみれば出会いもリュードにぶつかっていったことだった。
 それも2回もである。

 楽しかったけれどいつもリュードとルフォンには助けられてきた。
 それをリュードがどうこう言わないことはわかっているけれど沈黙に耐えかねて口に出して言ってしまった。

「そうだな」

 思ってもない肯定の言葉。
 ちょっとショックだけど本当のことだし、自分から言い出したことだからグッと受け入れる。

「でもさ、楽しかったよ。俺たちもまだ未熟できっとエミナにもたくさん迷惑かけてる。勝手にイマリカラツトに行ったりもしたし、みんなおあいこだよ」

 確かに戦いではエミナを助けることは多かった。
 でもリュードたちだって完璧ではなくエミナに助けられたことだって、多少……何回かある。

 リュードが暴走気味になるとルフォンはただ追従するだけなので冷静に止めてくれる役割を担ってくれた。
 なんやかんやと好きにはさせてくれたけどちゃんと考えるために自分を落ち着かせることができたのはエミナのおかげである。

 タオルと氷水を避けてリュードがベッドのエミナの隣に腰掛ける。
 リュードの方が重たいからベッドが沈み込んで、エミナの体がわずかにリュードの方に傾く。
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